光と闇の……
「はい、いいよー。こっちに目線よろしく」
「ん? こう?」
「おっけ、おっけ。……それじゃあ可愛いポーズをしてくれないか?」
「え、可愛いポーズ? こんなかんじ?」
「グレート……」
ワカバと名乗るロリコンさんは、少女の姿になった子猫先輩をカメラで撮影していました。
あらゆる角度から写真をとっており、子猫先輩もノリノリでポーズを決めたり、笑顔を見せたりしております。
私は完全に蚊帳の外に置かれていました。
…………。
あれ? 私いります?
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ワカバさんは『紳士隊』の元リーダーであり、現在は幹部としてクランに身を置いているそうです。
つまり、彼女……彼?もまた、ソールドアウトのお一人だということでした。
もちろん、私を殺害するという仕事を請け負って来ていたのですが、ご本人にやる気が無かった為に、
「よし、見た目を幼女にするように言ってみよう。幼女になってくれたら、やる気が出るかもしれない」
と、なったそうで。
しかし、私は拒否しました。当たり前ですよねぇ?
そのために、やる気が出なかったワカバさんは子猫先輩の少女姿を撮影していたのでした。……いや、どうしてそうなるのですか?
「いやぁ、撮った撮った。可愛い娘っていうのはモチベーション上がるな、おい」
そう言いながら、写真を眺めてニヤついているのは、金髪碧眼の綺麗過ぎる顔をした幼女でした。小学生低学年位の見た目です。
……この幼女こそ、ワカバさんの本体でありました。キャラメイクにより、幼女へと生まれ変わったロリコンさん……業が深すぎる存在ですね。
「ワカバくんも変わってないねー。クランをメレーナに乗っ取られたって聞いてたから、ちょっとは心配してたんだけど」
そう言った子猫先輩先輩は呆れた顔をしております。
先程は、子猫先輩の姿がいきなり変化して戸惑ってしまいました。しかし、そのお顔を良く観察して思うところがあります。
……とても、自然な顔付きです。
ワカバさんの顔は『理想の美幼女』という感じで、現実にいたらおかしいってレベルなんですよね。けれども、子猫先輩は違います。
子猫先輩のお顔は『現実でもいそうな美少女』と言った感じです。可愛い。
そして、まじまじと見ていて気づきましたが……彼女の姿には見覚えがありました。『死神』さんが私を殺した後に、ひょっこりと現れた少女こそ、子猫先輩だったのです。
まさか、一方的とは言え面識があったとは……というか、なんなんですかね、あの姿?
プレイヤーキャラの見た目を切り替えるとか、始めてみたのですけど?
意外に私の知らないことって、多いのですねぇ……。
しみじみと思考を巡らせていると、こちらに見つめていたワカバさんと目が合いました。彼もまた、こちらに思うところがあるのかジッと見つめ返してきました。
「……その後ろに居んの、うちの奴等か?」
おや、少しは真面目な対応も出来るみたいです。
……だったら、どうしたと言うのですか? 彼等は私達を襲いました、そして返り討ちに合った。ただそれだけの事でしょう?
しかしながら、仇討ちをしたいと言うのなら構いません。
私はネカマロリコンさんに対し、両腕を突き出しました。これでいつでも能力を発動できます。
さぁ、全力でお相手致しましょう……!
「いや、興味ない。そいつら可愛くないし。ま、今すぐキャラメイクし直しておれ好みの外見になってくれるなら、話は別だけどさ?」
こゃ~ん……。
どうやら本当にやる気が無いようでした。……どうします? 貴方達見捨てられましたよ? 幼女にならなくていいんですか?
「だってワカバさん、可哀想な子に興奮する変態だし……」
「どっちかと言うと闇のロリコンだよな」
「ガチ犯罪者予備軍なのは間違いない」
「前に、yes、ロリータ!go、タッチ!って言ってリリア様に返り討ちにあってたよ?」
「そんな奴の目の前で幼女になるとか……死んでもごめんだわ……」
「俺達光のロリコンとは、違う生き物だからなぁ」
私が質問すると、ひそひそと尻尾の中からそんな答えが帰ってきました。……なんと言うことでしょう。目の前にいらっしゃるこの方は超ド級の変態さんのようです。
って、貴方達もロリコンなのですか!?
紳士って、そういう意味だったのです!?
「ま、ソイツらは好きにしてくれ、負けた奴が悪い。……で、だ。オマエはこの街に何をしに来たんだ? 殺されるリスクを背負ってここまで来たんだ、それなりの理由はあるんだろ?」
理由……ですか。
私は少し迷いましたが、正直に話すことにしました。
ワカバさんが『怠惰』のギフトを持っている以上、NPCに偽装して尾行してくるという可能性も捨てきれません。
そうなったとき、あらぬ疑いをかけられるのは良くないでしょう。
……ここに来た理由は、装備品の調達です。ついでにリリア様に会いに教会にも寄っていこうかと思っていましたが……何か、問題が?
私がそう言うと、ワカバさんは少し目を細め、チラッと子猫先輩に視線を送ります。
「装備品や装飾品のお店を探しているっていうから、案内しようとしたのさ。女の子同士でお買い物するだけだよ。……駄目だったかな? ふふっ」
子猫先輩はイタズラっぽく笑っていました。……わぁお、見事な小悪魔スマイルですよ。凄い裏のありそうな顔をしてます。
対照的に、ワカバさんはバツの悪そうな顔をしておりました。
「要するに、アイツの店に行くって事か? ……じゃ、こっちからは何も言うことは無いさ。用事が終わったらさっさと帰るんだな」
え? あ、ちょっと?
ワカバさんはそれだけ言い残して、去っていきました。……何がしたかったんでしょう、あの人?
「ま、いろいろ事情があることは確かだね。そんな事より、早く買い物しに行こうよ。案内してあげる! もう尻尾の中の人達は潰しちゃっていいよ!」
はーい。
私は子猫先輩の言葉通り、刃の尻尾をきゅっと引き絞りました。すると、刃の中から新鮮なフレッシュジュースが……おや? 出てきませんね?
どうやら、いつの間にか脱出されていたようです。まぁ、魔法使っても、ログアウトしても逃げれる状態でしたしね。仕方ないでしょう。
……ん? お店?
なんでしょう? お二人の会話にあったお店というワードから、嫌な予感が3本の尻尾にビンビン来ております。
良く考えれば、先程のワカバさんの様子はまるで逃げるようでもありました。
それが、尻尾の中にいたロリコンさん達の失踪と、何らかの繋がりがあるのでは……って、なに考えてるんですかね、私は。
子猫先輩が変なお店を紹介するわけがないでしょう。きっといいものが揃っている、ソールドアウト御用達のお店ですよ。
心配することなんて……何も無いですよね!
私はウキウキしながら、子猫先輩についていくのでした……。
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薄暗い、地下へ続く階段を、私は怯えながら下っていました。
灯りは子猫先輩が手に持ったランタン一つだけであり、深淵へと続く階段は私の恐怖を増長させるようでした。
壁には戦闘跡が残っている場所もあり、曰く付きな場所の事は明らかです。……そうでした。忘れてましたよ。
ソールドアウトの人が一癖二癖無いわけが無いんですよね! 知ってましたよ! もぅ~!
「ビギニスートは諸事情で定期的に滅びるからね。拠点を作るなら、地下に作るしかないのさ。あ、別に怪しいお店って訳じゃないよ? ホント、ホント~」
未だ少女の姿の子猫先輩は、私の事を見上げてニッコリとした笑顔を見せてくれたのでした。
そ、それはわかったのですが、後どのくらいで到着するのですか? 結構下まで下がって来ましたよね?
子猫先輩は順調に階段を下りながら、楽しそうに答えます。
「もうすぐさ。今から行くお店は、間違いなく一級品の物を取り扱っているから。……っと、ついたよ」
ランタンの灯りに照らされた先に、ドアがぼんやりと姿を現しました。……いや、怖いんですけど。暗闇の先にある扉とか、完全にホラー案件です。
しかしながら、子猫先輩は躊躇うことなく扉を開け放ちました。
ちょっ!? 心の準備が!?
私はとっさに子猫先輩の後ろに隠れました。そして、小さな肩越しから見た、扉の向こうには……。
「お待ちしておりました、みーさま」
ペコリとお辞儀する、ツインテールのメイドさんが居たのでした。……な、なんだ。ちょっと驚いてしまったではないですか。
中に見える内装も綺麗なものですし、怖かったのは道中だけだったのかも知れませんね。
……と、思えたのは……一瞬の事でした。
お店の中に入ると、すぐに係の方が歩いてきます。……メイドさんです。さっき挨拶してきた方と服装が一緒です。顔も一緒。
……。
顔も一緒ぉ!?
「お客様です。マスターの所にご案内してください」
「はい、もちろんです。……どうぞ、こちらになります」
しかも、声質まで一緒!?
私は驚きながらも、それをグッとおし殺しました。子猫先輩はさも当然と言うように、メイドさんの後ろに付いていってます。危険は無いということです。
しかし……。
「いらっしゃいませ、お飲み物はいかがですか?」
「いらっしゃいませ、良い薬が揃っておりますよ?」
「いらっしゃいませ、お着物を御覧になっていきます?」
ひぃ!?
道すがら店員さんに声をかけれますが……なんと言うことでしょう。
品物を並べている方から、レジ打ちの店員さんも、通りすぎる方々まで全員……。
おんなじ顔しているじゃないですか! やだー!!
綺麗な顔立ちですが、どんなものでも多すぎれば気味が悪いです。しかも、その笑顔まで寸分たがわず同じものですから、もう……たまりません。
そして、私はそのメイドさん達の顔に見覚えがあったのです。それは……。
「綺麗な尻尾だぁ……」
私のすぐ後ろから、うっとりした様な声が聞こえました。それに驚いてしまった私は、ガチリと身体を硬直させてしまいます。
「ちゃんと手入れしてあって、少しも乱れてない……毛色も狐さんらしい色で、惚れ惚れする……」
恐る恐る、ゆっっくりと、私は声の主に向かって振り向きました。
そこには、絶対に関わってはいけないと言われた存在……。
皆さんのトラウマ、『ドールズ・メイド』、ヒビキさんが幸せそうな顔をして立っていたのでした。で、出ぇ……。
「ははっ、そんな怯えた顔しないでくださいよ。……興奮するじゃないですか」
出ぇぇぇぇぇたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??
妖しい顔をして笑う数十体のヒビキさん達に、私は恐怖を抑えることができなかったのでした……。こゃ~ん……。
・ロリコン
闇に落ちてはいけない……。いろいろと戻ってこれなくなってしまう……。




