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狙われた者と狙う者

 大木から発生した食虫植物は、人と同じくらいの大きさをしています。伸びた蔦の先には球体がついており、それに鋭い牙が生えた口のような器官がありました。


 そして近くにいる食料を優先して襲うらしく、近くにいたクランメンバー達は、迎撃を余儀無くされます。


 初めて見る化物に対し、様子を見つつ戦っているようです。


 そんな中、私は展開した大爪を振り上げて、邪神に向かって特攻しました。


 レベルは私と大差ありません……! 人数もいるのですから、一気に押し切らせてもらいます……!


 本体であろう黒子くんは、大木の根本で根っ子に守られるように(うずくま)っています。そこが弱点なのは明確です。


 早く倒して、盗撮の件を聞かなければならないのですよぅ……! 死ねぇ!


 今展開している大爪は4本、その内の2本を本体に向け打ち出します。……まともに当たればただでは済まない攻撃、どう対処するのか見させてもらいましょう。


 大木から生えた食虫植物の一つが私の攻撃に反応し、大爪に勢い良くかぶりつきました。

 しかし、その程度では勢いを殺す事はできません。


 大爪は球体に突き刺さり、そのまま大木へと突き刺さりました。


 狙いを逸らされたのは仕方がありません。

 どうやらあの口のような器官は見た目よりも脆いらしいので、先に相手の手数を減らすことを優先するべきでしょう。


 そう考えていた矢先、私達を襲おうとしていた食虫植物に変化がありました。


「な、なんだ、いきなり動きを止めたぞ……?」


「コイツって『暴食』の邪神なんだよな……。まさか……! 不味い! あのパックン◯ラワーを切り落とせ!」


 他のクランメンバーが何かに気づいた様で、大声でそう叫びました。……てかパックン◯ラワーて。いや、思ってましたけど。


 急に動きを止めた食虫植物は、クルリと大木の方へと向き直り、あるものに標的を定めます。


 それは、先程突き刺して殺した食虫植物の残骸でした。


 動かなくなった残骸に向かい、他の球体が群がります。そして、飢えた獣の様に残骸を食べ始めました。……『暴食』の同族食い!


 『暴食』の能力には、共食いをするとステータスが上がるというものがあります。それは自分自身を食べても効果があり……。


 この植物も同じ能力を持っているらしく、大木は更に太く成長し、2本の食虫植物を新たに生やしてきました。


「く……糞が! これじゃあ倒しても倒しても意味ねぇだろ! 魔術師を連れてこい! ミーさんに連絡しろ!」


 怯えた様子のモブ虫さんが叫びます。……なるほど。確かに子猫先輩の魔法ならば、本体共々葬り去る事ができるでしょう。


 しかし、それではあまりにも私達が惨めです。


 自分に降りかかる火の粉は、自らの手で振り払わなければ。……全員! 大木から離れてください! 私が殲滅します!


 私はそう叫んで、スキルの『咆哮』を使う準備を始めました。

 いつもならば味方毎巻き込みますが、今回は犠牲者(ごはん)を用意するような真似はできませんからね。


 少しでも、味方を守るように動かなければ……。


 皆さんがスキルの効果範囲に出たことを確認したと同時に、私は雄叫びを上げました。


 広範囲の衝撃波が、大木と食虫植物達を襲います。


 彼らは苦しそうにもがきながらも、私に向かってその牙を剥こうとしますが、その場でビクビクと震えて攻撃することができません。

 衝撃属性の効果である『朦朧』の効果がでたのでしょう。


 このまま殺せなくとも、弱らせることができれば…………!?


 そう思っていると、予想もしないことが起きたのです。


 衝撃によって小刻みに振動していた大木は、瞬きをする間に、私の目の前から消えてしまいました。


 倒したという訳じゃないことはわかります。


 しかし、急にいなくなったのは何故? 自分で動くこともできそうにない見た目でしたのに? ……いえ、まさか、これは。


「ポロラ! う、後ろ!」


 !?


 その声に反応し、私はとっさに大爪で後方に防護壁を作りました。その瞬間、そこに何かがぶつかってきました。


 『咆哮』を止めて身を翻しながら振り替えると、そこには先程消えてしまった大木が窮屈そうにそびえ立っていたのです。


 今の衝撃は幹から伸びた食虫植物が大爪にかぶりついたものだったようで、いくつもの球体が牙を見せつけるように私に向いていました。


 視界外への瞬間移動……間違いありません。


 黒子くんの『プレゼント』の能力です。


 プレイヤーから発生した邪神は『プレゼント』を使うことができる。完全に私の予想外の出来事です。


 私が驚いていると、球体は口を開いて一斉にこちらに向かって襲いかかってきました。……っく、勘弁してくださいなっ!


 大爪を操作し、全て切り落としてしまおうかと考えましたが、そうすればまた強化を許すことになってしまいます。


 なので私は『妖狐の黒籠手』を発動させ、自らの身を守るように丸い檻を成形しました。


 そこに食虫植物達が我先にと言わんばかりの勢いで噛みついてきます。


 ありがたいことに檻を噛み砕く程の力は無いようで、ガチガチと檻に噛みついて来るだけですみました。しかしながら視覚的な恐怖がありますね、これ……。


 けれども、大体わかりました。


 タビノスケさんの時は、レベル差で圧倒されてしまいました。しかし、今回の場合レベル差がさほど無いのもあるのでしょうが、そこまで強い相手には感じません。


 黒子くんの能力である奇襲攻撃も、多人数を相手にしている場合そこまで驚異ではありませんし。


 それに、こうやって防御に徹していれば攻撃が届かないと言うのならば……やり方はいくらでもあるのです。


 私はアイテムボックスからとあるものを取り出して、食虫植物の口の中に投げ込みました。……馬鹿みたいにガジガジしているから、すんなり入りましたね。


 投げ込んだものは反射で飲み込んでしまったようです。


 新たな栄養が供給され、大木に更に変化が始まります。


 幹は更に太くなり、蔦も増えました。……が、蔦の先には球体が発生しませんでした。


 それどころか、成長はピタリと止まり、私を食べようとしている周りの食虫植物もどんどん元気が無くなっていきます。


「な、なんだ!? どうなっている? おい、いったい何をしたんだ!? 白めn」


 不届きものはっけーん!


 私の事を馬鹿にしたウジ虫さんに向かって、大爪を射出。

 見事そのお腹に深々と大爪は突き刺さり、ウジ虫さんはミンチにへと姿を変えました。……誰が白◯の者ですか、失礼な。


 私が成敗したウジ虫さんの残骸に気付き、大木は蔦を伸ばします。しかし、既に食虫植物は紫色に変色しており、途中で腐り落ちてしまいました。


 どうやら……弱点は『毒属性』だったらしいですね。作っておいてよかったです、毒薬。


 私はもう一本毒薬の入った瓶を取り出して、大木に投げつけました。瓶が割れて、中身が大木にかかると、食虫植物の動きが鈍ります。……元々、売って稼げる位作ってありましたからね。実験で使ったのも一本だけですし。


 こうやって、使い道ができたのは行幸というやつでしょう。


 私は、弱っているにも関わらず、食べようと頑張って檻に噛みついている食虫植物達の口の中に、追加の毒薬を投げ込みました。


 いやぁ、素直なところは黒子くん譲りですかね? 口に入れたら勝手に飲み込んでくれるのですもの。


 弱点がわかってしまえば……チョロいもんです!


 私は檻を変形させ、表面から鋭いトゲを生やし、食虫植物の球体部分を串刺しにしました。


 もう敵の攻撃に怯える事はありません。


 檻を解放し、私はゆっくりと大木に近付きます。……まったく、黒子くんにはしてやられましたよ。本気で暴走するなんて思っていませんでしたし。


 接近しているいも関わらず、大木に動きはありません。いえ、蔦を生やそうとしているのですが、直ぐに腐り落ちているようです。


 もう死にかけであることは、誰の目から見ても明白です。


 私は黒籠手を変形させ、一本の槍を作り出しました。……さて、黒子くん。さっきのタビノスケさんの説明では、この戦いの様子を見ているのですよね?


 いきなり襲いかかった事には怒っていません。何か事情があったのでしょう? ……そのくらいじゃ怒りませんよ。


 ですから……。



 復活したら、ちゃんと顔を見せるのですよ?



 私は槍を構えると、根本で踞っている黒子くんの身体に向かって突きだしました。


 彼に深々と槍が突き刺さると、大木は一瞬にして黒く染まります。そして、ゆっくりと灰になるように、霧散して消えていきました。


 最後に黒子くんの身体が消滅すると、そこには2枚のカードが残っていました。


 ……これがギフトカードですか。


 私はそれをアイテムボックスにしまうと、大講堂の出口に向かって歩を進めます。


「お、おい! どこに行く気だ! お前が狙われたせいでこんなことになったんだぞ!」


 しかし、ウジ虫さんに肩を掴まれて止められてしまいました。……うるさいですねぇ。


 私は手にしていた槍をウジ虫さんに振るい、彼の首を飛ばしました。その様子を周りのクランメンバーはドン引きして見ています。


 唯一そんな顔をしていなかった自称お兄ちゃんが、私に近より口を開きます。


「ポロラ……。何をするのか予想できるが……やめておけ」


 おや? 心配してくれるのですか? ……すいません、止めることは出来ないのですよ。


 私が恨みを買うような事をしているのは……心当たりが無いわけではありません。

 しかしながら、やられて黙っているほど大人しい狐娘さんじゃないのです。私は。


 確か……メレーナさん、でしたっけ? 私を狙っている『紳士隊』のリーダーさんって?

 あちらはどう思っているのかわかりませんけれど……。




 狙ったら、狙われる。当然だとは思いません?




 私はニコりと笑みを浮かべて、大講堂を後にしました。


 敵の居場所はわかっています。

 私を殺そうとした事……、黒子くんを利用した事……。



 楽に死ねると思わないことですねぇ!



 この……ウジ虫がぁ!



 私は打倒『紳士隊』を心に決めると、会議室に向かって走り出したのでした……。

・毒薬

 揮発性の高い毒性の液体。作り手の『錬金術』スキルのレベルによって効果の強度が決まる。レベルが高いプレイヤーが作ったものには様々な効果が付与され、高い毒属性のダメージを与える事ができる。


・毒属性

 身体を蝕む属性攻撃。当たると継続してダメージが発生する『毒』状態になることがある。この属性が弱点の場合、深刻な身体の不調、部位の腐食等、多大な被害が発生する。

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