『暴食』
「あぶねぇ! ポロラぁ!」
迫り来る刃を前に、自称お兄ちゃんが私の盾になって攻撃を受けました。
黒子くんの攻撃は、確実に盾になった彼の急所を貫抜きます。正確過ぎる攻撃は、黒子くんの殺意を物語っているようです。
私は『妖狐の黒籠手』を発動させながら、後方へと飛び退きました。
……おやおや? 嫉妬ですか? 貴方も椅子になりたかったのなら、そう言えばよかったのに。素直じゃないですね。
「……」
安い挑発をしてみますが、黒子くんは何も言い返すことは無く、黙って彼は頭巾を脱ぎ捨てました。いつもの様子からは想像できない、冷たい表情をしています。
そして、なぜ頭巾を脱いだのか、一瞬わかりませんでしたが、私はすぐに思い出しました。……『暴食』の遠隔食事ですか!
その攻撃を防ぐために、黒籠手の能力を発動させようと構えますが……。
黒子くんとの間に自称お兄ちゃんが割り込んできました。……え、いったい何をしているんです!?
「他の奴らだけにいい格好はさせねぇ! ここでお兄ちゃんポイントを稼がずにいつかせ」
瞬間、自称お兄ちゃんの胴体は消滅してしまい、食い残された身体の部位が床に散らばります。なんとも呆気ない最後でした。
……そんな。
待ってください。そんな事をやられても、私はどうしたらいいのかわかりませんよ。それに……。
お兄ちゃんポイントってなんですかぁ!?
私のそんな疑問を余所に、残った自称お兄ちゃんの二人は黒子くんに襲いかかります。
「反抗期か? 悩みがあるならお兄ちゃんが相談乗るぜぇ! お兄ちゃんポイントも欲しいしなぁ!」
「気をしっかりしろ! 俺達は一緒に盗撮した兄弟じゃないか! あの楽しさを思い出すんだ!」
だからお兄ちゃんポイントってなんですかねぇ!? ……って、盗撮?
次々と気になる点が出てきましたが、絶対に聞き逃してはいけない単語が出てきました。しかしながら、割りと真面目な雰囲気で襲いかかって来た黒子くんに対して、その事を言及してよいものなのでしょうか?
「……あ、しまった」
言った本人も言ってはいけないことを口走った事に気づいたようです。……黒子くん、盗撮、したんですか。
私がそう質問すると、黒子くんは自称お兄ちゃん'sに襲いかかります。先程よりも顔が赤かったですが。
「なめるな! 俺たちだって戦えるっつうの!」
熱い方の自称お兄ちゃんは大斧を手に装備し、そのまま黒子くんに斬りかかりました。
しかし、黒子くんは短刀を使ってその一撃を逸らしてしまいました。反撃をしないところを見ると、狙いは私だけの様です。
「く……すまない!」
もう一人の方は拳銃を取り出しました。そして黒子くんに向かって発砲しました。
能力か何かかわかりませんが、射出された弾丸は分裂するように増大し、黒子くんに迫ります。
弾丸による面の制圧。
言葉だけで見るのなら有効な攻撃です。……けれど、私がそれを確認できている程度のレベルの攻撃では、黒子くんには効きません。
黒子くんは自分に迫る攻撃を確認するやいなや、大きく口を開けて……勢い良く、かぶりついたように口を閉じました。
すると、射出された弾丸と、盗撮疑惑のある自称お兄ちゃんの姿が消えてしまいます。……『暴食』のギフトって、そんな使い方もできるのですね。
「なんだと!? ぽ、ポロラぁ! 逃げろぉ!!」
黒子くんは短刀を構え、私に飛びかかります。
そして、まるで煙のようのその姿を消してしまいました。
瞬間移動の『プレゼント』。きっとチップちゃんと同じような能力でしょう。
このタイミングで発動するのなら、効果は不意打ちを可能にするものでしょう。例えるならば、ターゲットの死角に移動するとか。
その代わりに行動が制限されるとかがデメリットですかねぇ? 次の行動が攻撃に制限されるとかですかねぇ?
敵を確実に葬りされるというのは便利な能力だと、私は思いますよ? ……しかしですね……。
貴方みたいに素直な弟くんには、ちょっと合わないかも……ですねぇ。
私はクルリと振り向き、四肢をワイヤーでがんじがらめにされた黒子くんの顔を見つめました。
彼は信じられないというような顔をして、微笑んでいる私の顔を見つめ返して来ます。
事前に黒籠手からワイヤーをクモの巣の様に伸ばし、触れたら拘束するように設定していたのです。……黒籠手の能力は、貴方も知っていたでしょう? それなのに、発動を許してしまったのが敗因ですよ。
それに、暗殺するなら静かにやりなさい。謝ってどうするのですか?
殺す相手に情を持つなんてもっての他。
それじゃあ立派なプレイヤーキラーにはなれませんよ?
そう言うと、黒子くんは悔しそうな表情をしました。
「ポロラねぇちゃん……悪いけど、大人しく死んで欲しい。じゃないと、どんどん強い人が貴女を殺しに来る。それが嫌なんだ。糞みたいな奴らに殺される位なら、オレがねぇちゃんを殺したい」
……んー、歪んでますねぇ。
そういう感情が駄目なのです。
相手を殺さなければならないと思ったのなら、顔に笑顔を張り付かせて、気味が悪いように笑いなさい。きっと楽しいはずですよ。
私はプレイヤーキラーのなんたるかを、黒子くんに笑顔で教えます。
すると、黒子くんは何か覚悟を決めたような……いえ、全てを諦めたかの様に穏やかに笑いました。
「違うよ。別にプレイヤーを殺したい訳じゃない。負けたくないからこんな能力になったんだ。……ごめん、やっぱりメレーナの指示には逆らえないや」
黒子くんは無理矢理身体を動かしてもがいています。……諦めなさい、そんなことをしても無駄ですよ。ワイヤーが身体に食い込んでいる以上、下手に動けば……。
なんですって!?
私の忠告、そして優しさを無視して、黒子くんはワイヤートラップから抜け出しました。……自分の四肢を犠牲にして。
そして、地面に転がった、切り落とされた自分の身体を貪り、失った身体を再生させます。
や、止めなさい! そんな事をすれば、ギフトが暴走してしまいますよ! これ以上問題を起こすのは……。
「うるさい! こうするしかないんだよ! オレはまだねぇちゃんと遊びたい! だから……言うことを聞くしか……ないんだよぉ!!」
黒子くんっ!
私が声をかけたときには……既に手遅れでした。
黒子くんは狙いを決めず『暴食』のギフトを発動し、周りのプレイヤー、及び建物の壁を食らっていきます。
もう止めることなんてできません。
そして変化が訪れました。
黒子くんの動きがピタッと止まると、彼は膝を抱えて、その場にうずくまってしまいます。
すると、彼の背中を突き破り、植物の蔦のような物が生えました。
それはぐんぐんと成長し、大講堂を埋め尽くすのではと思う程の大木にへと変化しまします。
幹からは牙の生えた食中植物のような器官がいくつも発生し、私達に向かいガチガチとその歯を鳴らしていました。
そして、あのアナウンスがウィンドウに表示されます。
『プレイヤー『ストレット』がギフトの力に飲み込まれました。周囲のプレイヤーは迎撃に当たってください。邪神の力が復活します』
『測定中……』
『判明』
『種族『ヒューマン』。職業『忍者』。Lv742……暴食の《ストレット》』
『クエストを開始します』
なにやってんですか……、この馬鹿おとうとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
私は大爪を展開し、異形の姿になった黒子くんに構えを取りました。
生き残った周りのクランメンバーも同じです。
こうなってしまったのは、私の責任でもあります。……ですので。
お望み通り、返り討ちにしてやりますよ! お姉ちゃんに弟が勝てると思わないことですねぇ!
こうして、邪神化したプレイヤーとの2回目の戦いが始まったのでした……。
絶対に殺してあげますから……!
だから……。
早く目を覚ましてください!




