ドキドキクラン会議~ギフトカード~
は~い! ポロラちゃんの配達にきましたー!
私は食堂に運ばれたチップちゃんの元に駆けつけました。この身を捧げるためですね。
チップちゃんはぼんやりとした目をして食堂のカウンターに座っています。お腹が空いていることは明白ですね。……このままでは、まともに会議に参加する事もままなりません。
チップちゃんの威厳を守るために、私が一肌脱ぐしか無いという事です!
さぁ! 貴女の大好物がきましたよ! 遠慮なくどうz
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本当に遠慮無くチップちゃんに丸噛りされて死んだ私は、刑務所で復活しました。……そう言えば戦争で殺しすぎて犯罪者落ちしましたね。忘れてました。
ペナルティでステータスが下がる前に、速効で壁を掘って脱獄。帰還のスクロールを使用し、私はクランの大講堂へと舞い戻ります。
「あ、お帰りポロラねぇちゃん。どこ行ってたの?」
おや、黒子くん。
ちょっと尊い犠牲になって来たところですよ。まさか一口でいただかれるとは思っていませんでしたけどね……。
私はふふふ……と笑いながら椅子に座ります。
「俺……完全に椅子扱いされてる……なんだろう、この気持ち……」
自称お兄ちゃんの椅子が、新しい性癖に目覚めました。ふふふ……きもーい。
……さて、大講堂に表示されているウィンドウには、各クランのリーダーの方々+αが集まっていました。
どうやら会議が再開するみたいですね。
『いやー、悪いな。とりあえずしばらくは何も食べなくても大丈夫そうだ』
でしょうね。
ウィンドウの中のチップちゃんの服は、私の返り血によってベットリと汚れています。誰がどうみても食事後の様子です。
『そ、それはわかった……。なら先程の続き、『強欲』のギフトについて詳しく説明してほしい』
キーレスさんが怯えた表情を必死に取り繕いながらそう言いました。
『ん? ああ、もちろん。……ツキトから聞いた話では、一度リリア信者にならないとギフトのスキルは使えないらしい。けれど、スキルの内容は強力だ。他人のギフトの効果の増大に、範囲拡大。使用制限に解除までできる。言ってしまえば対プレイヤーのギフトだ』
……ほう。
つまり私みたいに他のプレイヤーを食い物にしている方にとって、とても使いやすいスキルというわけですか。それに、チップちゃんの食欲を抑える事もできそうです。
取得条件も満たしているっぽいですし、スキルを取得する事は急務なのでは?
『ねぇ、チップちゃん。『強欲』のギフトの効果ってそれだけなの? なんか、他人依存の能力って言うのは、ちょっと弱いんじゃない?』
そういったのは、妖しげな目付きをした女エルフのケルティさんでした。……なんか妙な色気を感じますね。
『ああ、そうだな。……というか、さっきからアタシに『色欲』のギフト使うのやめてくんない? 画面端に『魅了』の状態異常アイコンが出たり消えたりするのウザったいんだけど』
なるほど。色気の正体は『色欲』のギフトの能力だったそうです。初めて見ました。
でも、会議中にそんな事するんですかね? それはあまりにも常識が無さすぎるのでは?
『……ぬ、濡れ衣だー……』
ケルティさんは消え入りそうな声を出しながらそっぽを向きました。確信犯です。……あ、ちょっと彼女の事を殺して来ますね。
そう言って立ち上がろうとすると、周りの自称お兄ちゃん達が必死に私を引き留めます。
「ぽ、ポロラ! ケルティはまずい! アイツに手を出すのはまじでヤバイから!」
「そうだよ! 女の子に色目使うのは彼女のライフスタイルなんだ! 邪魔したら犯されるぞ!?」
……うっ。それは嫌ですね……。
でも友達がセクハラを受けているのに何もしないというのは……。
『ま、いつもの事だからな。許してやる。……お前のハーレムメンバーにチクるだけの話だし』
その言葉を聞いて、ケルティさんはすぐさま床に頭を擦り付けました。……目で追えない速さですと!?
『ご、ごめん~……。またみんなに怒られちゃうから~、それダメぇ~……』
『怒られたくないのなら、その浮気癖治せよな、はぁ……』
あ、チップちゃん馴れていますね、これ。てか、ハーレム持ってるんですね、ケルティさん……。
『で、ケルティの言うとおり、他のギフトに比べると少しおとなしい能力に感じるかもしれない。けれど、『強欲』のギフトを持っているプレイヤーは……『プレゼント』を複数回開封できるみたいだ。実際にツキトも2回目の開封をしている』
って、おお!?
今、さらっと凄い重要な情報が出ましたよ!?
私の『妖狐の黒籠手』は一度の開封をへて、超強化されました。前の『幼狐の黒手袋』と比べると、別次元の強さと使い安さです。
これが更に強化できる……?
きっと『死神』さんにも届く強さになれるはずです! ……でも、また尻尾の数が増えそうなんですよね……また未だ見ぬ変態達が集まってくるのですか……。それはやだなぁ……。
『なるほどねぇ。『プレゼント』の多重開封……それが『強欲』の真の能力ってことかい。いい情報だ』
黙って話を聞いていたメレーナさんが不機嫌そうに口を開きました。そして、背中の羽を羽ばたかせ、チップちゃんの前まで飛んできます。
『……なのに、なんで今の今まで黙っていたんだい? それを知っていればクランを解体する事も無かったかも知れなかったろうに。……理由次第では、アンタでも許さないよ』
メレーナさんがチップちゃんに迫ります。
『ペットショップ』は解体前は相当な規模のクランだった様です。おそらく『強欲』のギフトの素質を持っていた方もいたのでしょう。
彼等が全力を出しきり、協力する事ができていれば、悲劇は起きなかったかもしれません。
メレーナさんの言葉に、チップちゃんは口をつぐみました。二人の間に緊張が走ります。
そして……。
『僕が広めないように言ったからさ』
子猫先輩が口を開きました。
『……アンタが?』
そうとも、と言って子猫先輩はチップちゃんの肩から降りました。そして、メレーナさんを見上げてニンマリと目を細めます。
『あのスキルはちょっと危険でね。適性があるからって誰にでも取得して欲しくは無かったんだ。……秘密を漏らしたツキトくんには、僕からオシオキしといたから許してあげて?』
オシオキ……。
『死神』さんも大変ですね。前門の子猫先輩に後門のチップちゃんですか……。
実はチャイムさんに次ぐ苦労人だったのでは?
私はそう考えて納得していましたが、メレーナさんはそうでは無い様子です。ギロリと子猫先輩を睨み付けています。
『危険? 何がどう危険だって言うんだい? むしろギフトの完璧なコントロールができるようになって万々歳じゃないか? 納得できる答えを……』
そこまで言って、メレーナさんはハッとした表情を見せました。……なるほど。完璧に、他人のギフトをコントロールできるのは……不味いですよね。
『……わかるだろ? 『強欲』のギフトは抑制する事もできるけど、暴走させる事もできるのさ。それができる人が増えてみなよ、タビくんみたいに暴走する人が一気に増えるぜ?』
『じゃあなんでその秘密を今話したんだい? ふざけて他人を暴走させる輩が、出てくるに決まっているじゃないか? そうなって被害が出たとき、誰が責任とるんだい?』
タビノスケさんの暴走と邪神化……。
あの事実は相当な話題になったそうです。状況を再現しようとした方もいたという話でした。
しかし、暴走はできても、邪神化に成功したという話は聞いていません。……暴走している時点で、かなり迷惑なんですけどね。
『それは……』
『それは拙者から説明するでござるよ、メレーナ殿』
子猫先輩が説明しようとすると、当事者であるタビノスケさんが前に出ました。
『状況が変わったのでござるよ。……今からは拙者が暴走してからの話をしたいでござる』
そう言えば……邪神化している間のタビノスケさんの意識ってどうなっていたんですかね? これはゲームですので、本人の意識が完全に無くなっているということは無いと思うのですが……。
『拙者は暴走したあと、強制的にログアウトを食らったでござる。そして、ログインし直して見ると、第三者目線で拙者と戦っているチップ殿達が居たで候う。……ちゃんとログインできたのは、拙者が倒された後でござった』
ああ、あの死ぬ直前の第三者視点ですか。さっきもみましたよ。
動画を見ている様になって観戦しかできなくなるんですね。
『そして、慌てて異常が無いかステータスを確認したのでござるが……なんと……』
なんと?
『レベルが半分になっていたのでござるよ! スキルレベルは減っていなかったので、また効率良く修行できるでござる!』
……マジですか?
え? あんだけ迷惑かけといて、やった本人にメリットがあるんですか?
このゲーム、高すぎるレベルは要らないだけだと言うのに?
『邪神のレベルは2600ちょっとだったと聞いているでござる。おそらくレベルの半分を使って生成されたのがあの化物なのでござるな』
えー、いいなー。
レベルが高いと敵も強いのしか出ませんし、スキルレベルも上がりづらくなるんですよねぇ……。私も暴走させて邪神を産み出したらもっと楽に稼げるのに……。
『皆もやってみるでござるよ! きっと強くなれるでござ……いたいっ!?』
テンションあげあげのタビノスケさんに向かって、メレーナさんが飛び蹴りを放ちました。……うわ、目に直撃してる。いたそー。
『……だから、それじゃあ馬鹿が真似するだけだろうが! 暴走させない為の措置、もしくはさせてもいい方法を用意しろって言ってんだよ!』
激痛に転げ回るタビノスケさんに対して、メレーナさんの怒声が飛びました。
『そ、それも大丈夫でござる! チップ殿、例の物を!』
タビノスケさんがそう言うと、チップ様はアイテムボックスから2枚のカードを取り出します。……なんですかね? 見たことが無いアイテムです。
『……それは?』
『これは邪神化したタビノスケがドロップしたアイテムだ。邪神化したプレイヤーを倒せば手に入るらしい。『ギフトカード』って名前だ』
それを聞いて、メレーナさんだけでなく、会議室の皆さんの顔に驚きが走りました。名前から察するに、その効果は……。
『これは『憤怒』と『強欲』のカードなんだが……使用すると、一定時間カードに対応したギフトを使う事ができるようになる。つまり、邪神化しても倒すことができればメリットしかないんだよ。倒した方にも、倒された方にもな』
好きなギフトを使えるようになる……。
つまり、『強欲』のギフトで暴走されそうになっても、ギフトカードを使用すればそれに対抗できるという事ですね。
パーティーやクランでギフトカードを集める事ができれば、戦略にも大きな幅ができるはずです。しかし……。
『待ってください。邪神化したプレイヤーを倒す事ができなかった場合どうなるのですか? やはり危険なのでは……』
ヒビキさんが立ち上がり、もっともな事を言いました。……その通りだと思います。
今回はたまたま勝てたから良かったですが、勝てなかった時の事を考えると軽々しく暴走なんてできるはずがありません。
ですが、そう思わない方もいるようです。
『ヒビキ……アンタ珍しく弱気じゃないか? 私はカードの話を聞いてイケると思ったけどねぇ? ……デメリット以上にメリットがでかい。これはやるしかないと踏んだよ、くくっ』
メレーナさんは先程と打って変わったかのように、楽しそうに笑いました。
『良いねぇ。デメリットがキツかったら止めようと思っていたけど、見返りが大きいとわかったら迷う必要も無くなったよ。計画通りにできる』
『メレーナ……?』
チップちゃんが心配そうに彼女の名前を呼ぶと、メレーナさんはニタリとした笑顔を浮かべました。
『チップ……アンタには悪いけど、実はちょっとした仕事が入っていてねぇ。アンタのクランメンバーに用事があるんだ……いいかい?』
!?
PKクラン『紳士隊』の仕事……、それはプレイヤーの暗殺以外あり得ません。
うちのクランに誰かから怨みを持たれている方が……? いったい誰の事でしょう? 見当もつきません。
『……へぇ、アタシは別に? 狙われる方が悪いし、狙われる方もその覚悟があって何かしたんだろ? どっちもアタシが止める権利は無いな』
まぁプレイヤーですしね。全部自己責任ですよ。
チップちゃんもそれは理解している様です。
『お、そうかい? ついでに、さっきの話を試したくてねぇ、ギフトを暴走させようと思っていたんだけど……いいかねぇ?』
『……なんだよ? さっきは反対みたいに言っていたのに。元から試す気だったのかよ?』
『くくっ、そんくらい強い相手ってことさぁ。私も久々の獲物にウズウズしていてねぇ……』
なんと言うことでしょう。
『紳士隊』の皆様は暗殺対象を徹底的に殺すおつもりです。きっとリスキルとかしまくるんでしょうね。こわっ。
『……わかった。アタシ達にとっても邪神化のデータは欲しい。どうしようも無くなったらアタシ達が手を出すが……それでいいか?』
『もちろんさぁ。じゃ、今から『紳士隊』のお仕事を始めさせてもらうよ』
うわぁ~、怖いですね~。
巻き込まれる前に退散しますか。
私はそう思い、立ち上がろうとします。すると、椅子になっていた自称お兄ちゃんの姿勢が崩れてしまい、私は床に尻餅をついてしまいました。いてっ。
もう、何をして……!?
文句の一つでも言おうとしたのですが……手遅れでした。
椅子になっていた方の首から上は消滅しており、身体は力無く床に転がっていたのです。
いつの間にか、彼は死んでいました。
『殺せ』
メレーナさんの指示が聞こえた時には既に、黒子くんは動いていました。
その手には短刀が握られており……。
「ごめんね、ポロラねぇちゃん」
身動きがとれない私に対して、迷い無く、黒子くんは武器を振り下ろすのでした……。
・ギフトカード
使用すると1日の間他のギフトを使えるようになるカード。消耗品。併用も可能で、更なる強さの可能性を見いだすことができる。




