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『憤怒』

 タビノスケさんとチャイムさんの戦闘は佳境を迎えていました。


 お互いの仲間は徐々に数を減らしていき、お二人の一騎討ちのようになっています。

 巨大化したタビノスケさんは数多の触手を地面に叩きつけチャイムさんを押し潰そうとします。

 しかし、歴戦の猛者であるチャイムさんは逆に触手を踏み台にして触手の化物へと飛びかかりました。


 見ているこちらも思わず緊張してしまう程の、一瞬の油断も許されない戦いを繰り広げていたのです。


 ……え?


 私の方はどうなったか……ですか?



 なんか気がついたら皆死んでましたよ?



 私は大爪を作り上げて敵陣に突っ込んだのです。

 マスターと呼ばれていたもふ魔族さんは迎撃する気満々でしたが、部下の方々は私に殺されることを望んでいたそうで……。


「でっかい動物に殺されるとか……本望です!」


 とか言って自ら私に首を差し出しました。うーん、今の私には理解できない世界です。ごめんなさい。


 という事で、変態さんの首狩り体験は速やかに終了しました。……なんか味方の首も飛ばした気もしますが、気にしない気にしない。


 最後に残った件のセクハラもふ魔族は耐久力が凄まじいらしく、四肢をもいで磔にしておきました。なんでも作れるというのは便利ですねぇ。


「く……目の前のもふに触ることもできないとは……。不甲斐ない……」


 おや? まだ息がありましたか。

 そういえば貴方は『怠惰』持ちのウジ虫さんでしたね。このまま生かしておけば能力で悪さをするのは明白ですね……、そうだ。


 私はニンマリと笑いセクハラもふ魔族さんに提案をしました。


 死に方を選ばせてあげましょう。


 この黒籠手の爪に切り裂かれて死ぬのと、咆哮で吹き飛ばされて死ぬの、どちらがお好みですか?


 私の慈悲のこもった声に感動したのか、セクハラもふ魔族は爽やかな笑顔を見せてこう言いました。


「尻尾で……キツメに殺してください……」


 うわぁ……。


 貴方は正直なウジ虫さんですね。……特別ですよ?


 私は変態の要望に答えるべく、黒籠手から刃を伸ばします。

 それは私の身体に絡みつく様に伸びていき、腰の位置に来ると形を変化させました。


 後方から見ていた方は、新しい尻尾が生えてきたように見えたでしょう……。


 その尻尾を伸ばし、私は目の前で磔になっている変態さんを包み込みます。すると刃の間から赤黒い液体が、呻き声と共に漏れ始めました。


 そこで少し強めに、きゅっ、と尻尾を絞ると更に勢い良く液体が溢れます。


 あれ? もう死んじゃったんですかぁ? よかったですねー。望みがかなって。……幸せでしょ? ふふふ……。


「やっぱり白◯の者の類いじゃねーか……」


 そんなよく分からない事を後方で言われました。……何の話です? 私がわかる言葉で褒めてくださいよ。


 声の方に振り向くと、何故か地面に座り込んで休憩しているクランメンバー達がいました。手にワインボトルのような物を握っている人もいます。


 な、何してるんです!?


「え? こっから観戦でもしようかなって話になってな。……飲むか?」


 飲みませんよ! まだ戦いは終わっていないでしょうが!


 私が怒るとクランメンバーの一人がタビノスケさんを指差しました。チャイムさんを触手で絡めとっています。


 ……ピンチじゃないですか! さっきまであんなに調子良かったのに!

 た、助けに行かないと……!


「それはそうなんだけどさ、もうここから先はついていけそうに無いんだよね……。助けにも行けなそうだし……というか、長も本気出すみたいだし、ぶっちゃけ俺達いらない……」


 本気?


 そういえばチップ様は奥の手を用意していると言っていました。もしかして、その事でしょうか?


「あはははは!! 残念だったでござるな! これで残るはチップ殿一匹……なんぞぉ!?」


 高笑いをするタビノスケさんの触手が、どこからか飛んできた光線……レーザーのようなもので切断されました。


 その後もレーザーによる攻撃が襲い、タビノスケさんは慌てて逃げています。


 その間に、触手に拘束されていたチャイムさんが地面へと落下しました。そして、黒子さん達に回収されています。


 まさか……今のは……。


「まったく……チャイムを倒したくらいでさぁ……調子に乗んなよ、タビノスケ」


 チップ様?


 気がつけば、私のすぐ側にチップ様が立っていました。手には大型のショットガンのような銃を持っています。


「たっく……お前ら! タビノスケはこっちで何とかするから、りんりんをなんとかしてこい! ライブが続く限り相手のバフは無くならないぞ!」


 そして宴会をしようと準備していたメンバー達に指示を出します。


 チップ様からの命令は絶対です。彼等はゆっくりと動き出しました。……それじゃ、私も行きましょうかね。


「あ、ポロラはアタシと一緒な」


 私もアイドルさんの討伐に向かおうとしたのですが、後ろからチップ様に肩を捕まれました。


 え、あれとマジで戦うんです……?


「マジマジ。……心配しなくていいよ、メインで戦うのはアタシだから。支援をしてほしい」


 そうは言いますが……、タビノスケさん相手にどう立ち回るというのです? なんか最初よりも大きくなってません……?


 私は触手を再生しているタビノスケさんに目を向けます。すると、あちらも気付いたのか、ギョロリと目が動きました。


「おや? 新顔でござるな……。初めまして、タビノスケでござるよ。以後よろしく」


 そして丁寧に挨拶をされました。あ、ポロラです。初めまして。……って、いやいや!?

 なに普通に挨拶しているんです!? 私達敵同士なんですよ!? 後、その見た目でまともな事されても結構困りますって!


「あ、こういう奴だから、諦めてくれ」


「こういう奴でござる」


 こういう方でした。


 ……それはそうと、随分と余裕みたいですね。貴方の味方はもうほとんど残っていないみたいですが? さっさと降参してしまいなさいな。


 私がそう言うと、タビノスケさんはこちらにちょっとづつ近寄りながら高笑いを上げます。


「はははは! そうでござるなぁ! まともに戦えるのは拙者とりんりん……ケモナーくらいでござる」


 ……は? 先程の変態は始末しましたが……。


 私が疑問に思っていると、何処からともなく馬が走ってきました。そして、タビノスケさんの前で立ち止まり、こちらをじっと見つめてきます。……馬?


 そして、その馬を皮切りに、どんどん様々な動物が集まってきます。


「ふふふ……、さっきはありがとう。思っていたのとは違ったが、斬新な死に方を経験できた……」


 こゃ!?


 聞き覚えのある変態の声が、馬の方から聞こえました。


 ……まさか、中身が先程の変態なのでしょうか? 死ぬ前に『怠惰』の能力で動物に憑依したのかもしれません。

 そして、周りの動物は彼の『プレゼント』なのでしょう。『怠惰』持ちならば集団戦闘の能力を持っているはずです。


 厄介な能力をお持ちで……!


「お褒めの言葉をありがとう。……さて、これからが本番だ! タビノスケさん!」


「ふむ、それじゃあ始めるでござる。……にゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 猫ですかね?


 そんな間抜けな声が響き渡ると、動物達に変化が起きました。

 彼らの身体がびくんと脈動すると、どんどん筋肉が膨張していきます。そして、徐々に原型がなくなっていき、大きくなってゆきます。……こ、これは?


「タビノスケの『憤怒』の能力だ。増加と増幅……。無理矢理ステータスを引き上げられる……実際みたのは初めてか?」


 初めてですけど……。


 文章では知っていましたが……、実際に見ると中々気分の悪いものです。


 動物だったものは、筋肉の塊となってしまいました。5メートル程の肉の塊で、新しい手や足が至るところから生えています。


 あっという間に、化物の軍隊が出来上がってしまいました。


 ……勝てるのですかね?


 私が不安に思っていると、チップ様は不敵に笑いました。


「勝てるよ。……アタシだって、ソールドアウトだ。……『サモン』!」


 チップ様は味方NPCを召喚する魔法を使用しました。

 すると、天空に巨大な魔方陣が現れて、そこからな何かがふってきました。……って、何ですか!? コレ!?


 鈍重な音を立てて落ちてきたそれは、人型をしているロボットでした。

 タビノスケさんと同じ位の大きさで、流線型のボディが特徴的です。腕にはマシンガンを装備しているようでした。


「汎用人型兵器『アーマーズ』だ。……アタシはコイツに乗ってタビノスケを倒す、ポロラは周りの雑魚を頼んだ」


 は……はい……。


 私の頭は軽い混乱状態でした。

 向かい来る肉の化物達に、世界観を無視した近未来兵器……トッププレイヤーの方々には常識が通用しないことはわかっていましたが……、まさかここまでとは……。


 しかしながら、これは私も好き勝手暴れても良いと言うことでしょう。幸いにも目の前にはストレス解消用のサンドバッグが並んでおります。


「いくぞ、ポロラ。……皆殺しだ」


 チップ様の姿が消えると、アーマーズと呼ばれたロボットが動き出しました。まるで生きているかのような滑らかな動きです。


 チップ様もやる気なのでしょう。……それなら。



 全力で……飛ばして行きますよぉ!



 展開している大爪を、敵に向け、私は走り出しました。

 忠実なチップ様の狐として……花を咲かして見せるのです! ナンバー2は私のものだ!


 こゃーん!!


・アーマーズ

 機械大国『ザガード』で作られている戦闘兵器。大量生産はできないが、1体あれば一個大隊の戦力を期待できる。騎乗した者のステータスを飛躍的に向上させ、高速戦闘を可能にする。原型はとあるプレイヤーの『プレゼント』によって作られた。

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