『戦闘狂』
私が『戦闘狂』と呼ばれるようになったのは、初めてのクランのお仕事をしたときでした。
夢見の扉での修行を終えた私は、『死神』を暗殺するべく行動を開始しました。
彼の手がかりを探るべく、ソールドアウトでも比較的穏健派である『ノラ』の扉を叩き、クランに入隊したのです。
第一部でのストーリーをクリアしたことを伝えると、それじゃあ早速……、という事で他クランの戦争に投入されました。
その時の私は、集団で戦う際のコツというか注意点を全くわかっていない子狐さんでした。
なので、敵と味方の区別もわからず、とりあえず襲いかかってきたプレイヤーを殺していたのです。
私は知らなかったのですが、夢見の扉でストーリーをクリアする新規プレイヤーは驚くほどに少ないそうです。まぁ、最初はクランに寄生してプレイする方が楽なのは、確かですからね。
なので襲いかかって来るプレイヤーさん達はそれほど強い訳ではなく、私にとっては皆さん美味しい経験値でした。
そして、経験値稼ぎに夢中になっていた私がふと気が付くと、いつの間にか周りには誰もいなくなっていたのです。
おかしいな? と、不思議に思って戦場を見て回っても誰もいません。地面を掘って隠れているわけでも無く、後方に下がった訳でもありませんでした。
どうやら、私が全員殺してしまっていたそうです。
後で話を聞いてみたところ、私が助っ人として参加していることを知らなかった方が居たらしく……。
知らないやつがいる! 死ねぇ!
と、いきなり襲いかかったのだとか。
そうやって襲いかかって来られれば、反撃するのは当然です。
そして、仲間を殺した相手を敵だと判断するのも当たり前のことです。
ですので、誰も悪くはなかったんです。不幸が連鎖した、ただの事故だったんです。
けれども、心を痛めた私は申し訳なくなって、ちゃんと取引先のクランに頭を下げに行きました。
殺してすいませんでしたと、素直に謝りに行ったのです。……しかし。
「ち、近付くな! 味方殺しめ! 頭イカれた奴と関わりたくなんてないわ! 帰れ!」
そんな心無い言葉と共に石を投げつけられ、私はショックを受けました。心を深く抉られた様に感じたのです。
この傷を癒すために━━━━私はそのクランを潰しました。
……ええ、彼等がログインする度に戦闘を挑み、キルペナを利用して戦えない状態にまでステータスを引きずり下ろしたのです。
もうやめてください。許してください、と。
そうやって地べたに頭を擦り付けながら懇願して来るまで、暗殺を繰り返しました。
そんな生活を続けていたせいで、見掛けると必ずと誰かと戦っている、というのが皆様の私に対するイメージになってしまったようです。
それが『戦闘狂』という二つ名の由来でした。
決して、戦場で敵味方関係無く虐殺した事が理由では無いのです。……そのはずです。
そんな私の一面だけを切り取られて馬鹿にされているような二つ名は、とても不本意ではありましたが……、そのときにはどうでもよくなっていました。
私の目的は『死神』への復讐。
二つ名については……多めに見ます。それを正すのは逐一で良いでしょう。
……そう思っていたのですが、どうやら間違っていたようですね。
どうやら私は……。
とても頭に来ていたようです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
開封された私の『プレゼント』は、黒い手袋から、籠手にへと変化していました。ちょっとスタイリッシュです。
能力を発動すると籠手が直接変化するのではなく、まるで生えてくるように武器が現れるようになりました。
『妖狐の黒籠手』。
それが新しい名前です。
しかも、生えてきた武器は私の想像したように形を変えてくれるようです。……今度は武器以外でも再現できるみたいでした。
ですので……。
私の頭の中のぐちゃぐちゃを、『妖狐の黒籠手』は忠実に再現してくれました。
能力が発動すると同時に、バチバチと黒い稲光が私を中心に円形に拡がります。
その後、黒籠手から絡み合った木の枝の様に刃が周囲へと展開し、自動で周りのプレイヤーに襲いかかったのです。……ほほー、これはこれは。
私は自動で伸び始めた刃がピタリと止まる様子を想像しました。
すると、思った通りにその成長が止まります。
「え……何あれ……動きキモい……」
「なんか生えてきたと思ったら……え、触手? なんか触れたら死ぬっぽ」
黙らせなさい。
私がそう呟くと、刃は再び増殖を繰り返し、失礼な事を口走った方々の元に伸びていきます。
そして数十本の刃の枝によって、不届き者達をバラバラに引き裂きました。……んん~、便利ですねぇ。
どうやら、この刃は思ったように動いて、思ったように形を変えてくれるみたいです。
今はこんなにぐちゃぐちゃな状態ですが、ちゃんと操作すれば今までのように武器を作ったり、様々な物を作ることができるでしょう。
一先ず能力の確認をした後、刃を籠手の状態に戻し、私は味方に振り返ります。
そして、にっこりと素敵な笑顔を見せました。
貴方達は……私の味方ですか?
そう質問すると、モブ虫さん達は全力で首をブンブンと縦にふります。
「あ、当たり前だろ? クランメンバーだもんな! 俺達は戦友さ!」
「おうよ! ぽ、ポロラちゃん可愛いよ、ポロラちゃん! ……あ、可愛いくないネカマって言っていたのはコイツです」
「ばッ!? ……そんなこと言ってないよ~? ポロラちゃんは可愛い狐さんだよね~」
私を馬鹿にしていたモブ虫さんが、そう言いながら土下座をしていました。どうやら反省はしているようです。
……まぁ、今のところは良いでしょう。
今は戦争中ですし、味方同士で殺しあっている場合ではありません。今は一刻でも早く、セクハラもふ魔族達を殲滅しなければならないのです。
そう思い、私は敵に向き直りまし……あれ?
貴方達……なんでそんな目で私を見ているんです?
振り返った私を歓迎したのは、まるで見惚れたような目をした変態さん達の姿でした。一人一人が手を合わせて、おお……、とか、はぁ……、とか感嘆の声を漏らしているのです。控えめに言って気持ち悪いです。
「貴女が……女神様の使いなのですね……?」
違います。
私はアホなことを口走った女信者さんに対して、籠手からピアノ線を伸ばしました。
それは彼女の首に絡み付き、すぱっと首を切り落とします。
すると、凄惨な現場を目撃した変態さん達が、わっ、と沸き上がりました。
今度は、自分にやってほしいだの、導いて欲しいだの、理解に苦しむような事を言い出します。
えぇ……? ホントに何がどうしたのです?
「やはり……、もふもふは良い。見るだけで癒される。いや……もう限界だぁ!! 人が我慢していたらよぅ、更にもふもふしやがって! そうやってお前が扇情的に誘うから、俺達はおかしくなっちまうんだよ! なんだよその尻尾は……最高かぁ!?」
マスターと呼ばれていた、見知ったセクハラもふ魔族が信者の前に現れて、本性を現しました。先程の落ち着いた様子はどこかに行ってしまったようです。
……って、私の尻尾?
それがどうしたというのです……、って、外套が……ない!?
これじゃあ、耳も尻尾も丸見えじゃないですか!? 狙ってくれと言っているようなものですよ!
私は焦ってウィンドウを表示し、『妖狐の黒籠手』の能力を確認します。……何々? 『貴女は自分の獣の証を隠す事ができない』……?
なにこのデメリット!?
ふざけるのも大概にしてくださいな!?
し、しかし、私の尻尾を見ただけでケモナーさんが大興奮するというのは、あまりにもチョロ過ぎます。
もしかして、こちらにも何か変化が……。
もふん×3
うっそ。
私は目を疑いました。そして、一度深呼吸をしてからもう一度自分の腰から生えている尻尾を確認しました。……そんな事あり得ません。だって、『プレゼント』を開封すると強くなれるとしか私は聞いていませんもの。
見た目が変わるわけが……。
ふりふり×3
ふ、増えてる……。
なんということでしょう。
私のチャームポイントであり、狙われる理由の一つである、もふもふチャーミングな尻尾が……。
3本に増えていたのです。
もうビックリですよね。試しに尻尾を振ってみたら、ちゃんと思ったように動くんですもん。
触ってみても感触はありますし、更にもふもふしています。手触りは相変わらず抜群ですね……ハッ!?
私は今気付きましたが、目の前の変態さん達はこの事に気づいていたということですか。
だから、この圧倒的なもふ量に目を奪われてしまったという訳ですね。
……。
なぁんだぁ……そういうことですかぁ……。
屠るべき敵は理解しました。
守るものが増えました。
どうやって敵を殺せばいいのかも……確認しました。
もう、迷うことなど一つもありません。
私は籠手から刃の枝を大量に生やしました。そして、それらをまとめ、束ね、折り重ねて、巨大な獣の爪を作り上げます。
それは籠手の動きと連動するように、私の側で浮いていました。
……さて、始めましょう。
さて、もふ魔族の皆さん。改めまして自己紹介を。
私はポロラ。狐の獣人、職業は魔法剣士。
ギフトを持たない一匹の忠実な狐さんです。
そんな私の二つ名は『戦闘狂』……え? 知っている?
それなら結構。
それでは早速、その間違いを死を持って正しましょう。
貴方達は私に指一本触れることができずに死ぬのです。この尻尾に触ることは許しません。
無様なウジ虫のごとく、潰れてミンチになると良い!! びょおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
私は咆哮を上げながら、敵に爪を振り下ろしました。その瞬間、人の形をしていたものが気持ちの悪い肉片に変化しました。
そこから吹き上がる血液が、まるで私を祝福するように空高く舞い上がり……。
夕焼けを美しく彩るのでした。
・尻尾
3本あれば皆で楽しめる。もしくは、殺される人数が増える。夏場はきっと暑い。




