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エピローグ~八年越しの返事~

 神殿から出たはいいものの、私の容姿はこの国ではとびきり目立つ。

 肌寒さに震えながら、エーリクがあらかじめ準備していた質素なワンピースに着替え、上からフード付きのマントを羽織った。


「ここから港まで移動し、本日中にミレルを発とうと思ってる。ずっと西に、カナンって名の海洋国家があるんだ。そこでしばらく身を隠そう」

「分かった。エーリクに任せる」


 カナンって、西大陸との中継地点にある小さな島々だったよね。西大陸の文化と、カイスベクファとミレルがある東大陸の文化、その両方の影響を受けた多国籍国家だって習った記憶がある。

 確かにカナンなら、女性の黒目黒髪も珍しくない。


「だけど港も、すでにカイスベクファ軍が掌握してるはずだ。出来るだけ戦闘は避けるけど、万が一の場合は――」

「いざとなったら、私は投降する。エーリクは逃げて。これは命令だよ」


 ここまで言わないと、エーリクはあっさり私の為に自分を犠牲にしそうだった。

 そんなの嫌だ。私が足手まといになるのなら、捨てていって欲しい。一人になっても私は諦めないから。


「分かった。一緒に行こうって決めたんだったな。俺が悪かったよ。謝るから、泣くな」

「まだ泣いてない!」


 ごしごし目元を拭ってから、エーリクの手を取る。

 エーリクは表情を引き締め、辺りを警戒しながら移動を始めた。


 

 ――とまあ、かなりシリアス気味に逃避行と洒落込んだわけですが、実際は拍子抜けするほど簡単に港まで辿り着けた。

 

 驚きつつも嬉しかったのは、市街が全く荒れていなかったこと。

 カイスベクファ軍の砲撃は、中央神殿の防御壁に集中していた。略奪も行われている様子はない。逆に、お店なんかは軍人さんたちで賑わっていた。


 エーリクいわく、私達が無事に移動できたのも、カイスベクファ側がわざと見逃がしたからとしか思えないとのこと。

 姉さんが動いてくれたんじゃないかな。

 私が言うと、エーリクは眉間に皺を寄せ、「だとしても、どうしてそこまでアキラ姫がカイスベクファに対して発言力を持ってるのかが分からない」と首を捻った。

 

 船が港を出た途端、私は盛大に酔ってしまい、エーリクはアキラ姫の考察どころじゃなくなった。


 酔い止めは効かなかった。薬への耐性が尋常じゃなく高まっているせいだ。

 従者生活が長いせいか、彼のお世話はものすごく手際が良かった。

 嫌な顔ひとつせず、臥せってしまった私を献身的に介抱してくれる。船中を駆け回り、のどごしのいいジュースや消化のいいお粥なんかも手に入れてきてくれた。


「ミヤ。ほら、ちょっとでいいから」

「ごめん、無理。食べたら吐く」

「そんなこと言って、もうずっと食べてない。ミヤ、頼むから」


 姫呼びと敬語は止めないと、私の素性が怪しまれてしまう。

 今では、エーリクは私を『ミヤ』と呼んでいる。

 どうしても彼は『ミヤビ』とは呼びたくないみたい。それは女神の名であって、私の本当の名前じゃないというエーリクの主張を、私も受け入れた。

 正直、呼び方なんてどうでもいいと思うんだけどね。エーリクのロマンチストぶりがくすぐったい。彼に名前を呼ばれて懇願されると、私は抵抗できなくなる。


 苦しすぎる船旅はようやく終りを告げ、エーリクに抱えられながらカナンの地を踏んだ。


 

 ただの人になってしまった私と、貴族ではなくなったエーリク。

 日々の暮らしにさえ困るんじゃないかと心配していた。手作業もそれほど得意じゃないし、体力はないし、言葉はちんぷんかんぷん。

 どうやって稼げばいいか悩んでいたのに、エーリクは早々に住む家と仕事を見つけてきた。若い頃の放浪生活は伊達じゃなかったらしい。新居は、こじんまりとした綺麗な一軒家で小さな庭まで付いている。二人暮らしには勿体無いくらいだ。


「語学は堪能だし、他にも色々出来るってエーランドが言ってたけど、ちょっと出来過ぎじゃない?」

「まあな」


 にやり、と不敵な笑みを浮かべたエーリクに見惚れてしまう。

 こういう自信満々なところも悔しいけど、好きだ。

 だけど、私だってエーリクの助けになりたい。

 養われているだけじゃ、籠の鳥だった女神時代と何も変わらない。


「そんなに何かしたいなら、家で出来そうな内職を探してくる」

「ありがと。こっちの言葉にもう少し慣れたら、働きに出るね。お店の壁の張り紙。あれって求人広告なんでしょ? 接客やお釣りの計算なら私にも出来そうだし」

「……相変わらず、鈍いな」


 エーリクは面白くなさそうに呟くと、私を両手で抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。絨毯から足が浮く。ソファーの上で膝だっこされるなんて、子供みたいだ。

 恥ずかしくて真っ赤になった私を、エーリクは後ろからくるむように抱き締めてきた。


「ち、近くない?」

「夫婦なのに、近くて何が悪いんですか? 姫。私にも分かるよう、教えて下さい」


 笑みを含んだ囁き声が、耳のすぐ後ろで聞こえる。

 艶っぽい低音に思わず身を竦めた。


「ずるいよ、エーリク。こういう時だけ、そんな話し方」

「ずるいのはどっちだよ。相変わらずぽやぽやと誰にでも愛嬌振りまいて。また変なやつに懐かれたらどうするつもりなんだ」


 甘い口調で責めながら、エーリクは私の耳や首、肩に口づけていく。

 変な人に懐かれた覚えは全くないんですが。


「そんなことしてないし、これからもしない!」


 振り返って、睨みつけた。

 エーリクの方こそモテてる癖に、自分を棚に上げようたってそうはいかない。年を重ねてますます魅力的になった彼は、道を歩くだけで女の人に溜息をつかせる悪い男だ。

 二軒隣の娘さんから「奥様がいても構いません」って告白されたの、知ってるんだからね。奥様わたしが構うわ、誰が許すもんか!


 ねちっこく追求してやると、「そんなことで嫉妬したのか」とエーリクは目を細めた。可愛くてたまらない、と言わんばかりの蕩けそうな眼差し。


「他の女なんてどうでもいい。俺の全てはとっくにお前のものだし、ミヤだってそうだろ?」


 鼻持ちならない自信家の癖に、最後の問いかけには僅かな不安が混じってる。こういうとこ、本当にずるい。


「そうだよ。だから一緒に頑張らせて」


 こつん、とおでこをくっつけ、二人顔を見合わせて笑う。

 どちらからともなく唇を重ね、そのままソファーに倒れ込んだ。


 

 カナンに移り住んでから三年――。

 色んなことがあった。

 

 私が大人になっていくのを、エーリクは大げさなほど喜んだ。

 「これ以上年の差が開いたら、洒落にならなかった」と昼間笑った彼は、夜中、ベッドの中で私を抱きしめ泣いた。

 肩を濡らす熱い涙に気づかない振りで、目を閉じ続ける。

 護衛騎士時代、何十年でも傍にいると言い切ったエーリクがどれほど苦しかったのか、私は全然分かっていなかった。


 三年目、私は街で配られていた号外を読み、ミレル神聖国の終わりを知った。

 女王アキラが、凶行に倒れたのだ。

 

 姉が王位につき、ミレル神聖国の国家正常化と民主化を宣言してから三年。カイスベクファとの条約締結の記念式典は、混乱の内に中止された。

 姉を突き落としたのは、元司祭だったらしい。

 十名に満たない犯人グループはすでに処断済みだと報じられていた。華々しい式典で起こった突然の悲劇に、国民感情は神殿の完全解体に傾き、ミレル神聖国の名前は変わるという。ミレルはもう、女神の治める国ではなくなる。


 「こんなの嘘だ。……信じない。私は絶対に、信じない!」


 泣き叫び、荒れ狂う私を宥めるため、エーリクはしばらく仕事を休んだ。

 

 私が後始末を押し付けたせいで、姉は死んだ。

 強引に国を簒奪したやり方を責められ、それでも働き詰めに働いて、ミレルの膿を出し切った最後の女神は、わずか二十一歳でこの世を去ったのだ。罪悪感と自責の念で、息をすることさえ苦しかった。

 エーリクはすっかりやつれた私の前に跪き、「お前を連れ去った俺を恨め」と縋った。


 最近になって、ようやく心が落ち着いてきた。

 綺羅星のように輝き、短い生涯をミレルの改革に捧げたアキラ姫を、私は誇りに思う。そんな彼女の仮にも妹が、いつまでもぐずぐず泣いてばかりでいいわけがない。

 


 

 そんな私達の苦悩と悲しみの日々を、目の前の男はどう思っているのか。

 是非とも聞きたいところだ。


「もっと早く知らせるつもりだったんです、本当に。大使赴任の引き継ぎや引越しの準備で、知らせが遅れてしまったことは、本当に申し訳ないと思ってますよ」


 三年ぶりに見たイソラは、相変わらずの薄味イケメンっぷりだった。

 もういい歳なはずなのに、若々しい外見をキープしてることにも理不尽な怒りが湧き上がる。


「嘘ばっかり。私があの知らせを聞いてショックを受けようが、どうでも良かっただけでしょ。……よくよく考えてみたら、あんただけは全部分かってたんだよね。エーランドのしてたことも、姉さんの思惑も。全部知ってて、私には隠してた。姉さんに取り次いでもくれなかった。見当違いなことばかりする私を眺めるのは、楽しかった? そんなに私が嫌いだった?」


 当時味わった孤独と劣等感が、一気に噴き出してくる。

 言ってるうちに興奮してしまい、泣きながらイソラに掴みかかった私を、エーリクは止めなかった。

 流石に悪いと思ったのか、イソラは大人しく殴られていた。


 なんと女神死去は、アキラ姫とカイスベクファ国王、そして今では名前を変えフレドリック・ハルベントとなったイソラの三人で仕組んだ茶番だったらしい。

 凶行に及んだ元司祭たちは犬死だったというわけです。相変わらずやることが容赦ない。


「こうでもしないと、神殿を完全には解体できなかった。国民の女神信仰と依存は、予想以上に手強かったんです。……神殿にいた時のことはすみません。嫌いではありませんでしたよ。ただ、今度こそ守るべき人を違えたくなかっただけです」


 私が落ち着くのを待って、イソラはソファーに腰掛け、応接テーブル越しに私たちと向き合った。

 時々、お腹や胸を押さえている。すごく痛かったんだろう。私も手が痛い。

 エーリクは薬箱から湿布を取り出すと、私にだけ貼った。


「他に方法がなかったことは私にも分かったよ。昔のことも、もういい。今更だし。それで、姉さんは?」

「ライラ・ハンベルトとして、同じくカナンにきています。今頃カイスベクファ大使館で、部下たちをしごいている筈です」


 途端にイソラの綺麗な顔が、ふにゃり、と笑み崩れる。

 姉さんを自分の奥さんに出来たこと、一緒に大使として働き始めたことが嬉しくて堪らないらしい。


「そっか。アキラの名前はもう使えないもんね。……それは分かったけど、姉さんは?」


 なんで今日はイソラ一人で来たのか、ってことを聞きたいんだけど。

 分かってるくせにすっとぼける彼の独占欲に、顔を顰める。


「ライラには内緒で来ました。まずは私が挨拶に伺い、ミヤビ様の現状を確かめてから妻に知らせようかと。彼女はああ見えて、非常に臆病なところがあるのです。妹に許して貰えるか分からない、などとそれは愛らしく懊悩しておりまして」


 妻、と声に出すたび、彼が振りまく幸せオーラが憎い。

 オブラートに包んではいるものの、要は偵察だ。私が姉さんを傷つけないか見極めに来たってこと。

 そんなことする筈ないと厳重に抗議したいのに、どうしても頬が緩んでしまう。

 

 だって、妹って。姉さんが私のことで悩んでるって。

 夢みたいだ……いや、夢じゃないわ。まだ手が痛い。


「元々お前はカイスベクファの間者だったというわけか。その髪と目にまんまと騙された」


 それまで黙っていたエーリクがようやく口を開く。


「私が全て説明してもいいのですが、ミヤビ様には是非、読んで頂きたいものが」


 そう言ってイソラは、上着の内ポケットから大事そうに一通の手紙を取り出した。

 手紙、かな? パンパンに膨らんで、封筒の蓋は閉まりきってないけど、たぶんそう。


「ミヤビ様の手紙は、全て大司祭(あの男)の手に渡り、一の姫には届いていませんでした。その後は、カイスベクファ国王陛下へ貴方がた二人の助命を請う為に、証拠として私が使ってしまいまして。カナンに来てようやく、妻に渡すことが出来たのです」


 そうだったのか。返事が来ないのは当たり前だった。

 道理ですんなりミレルを脱出できたわけだ。

 今でも監視はついてるのかもしれない。イソラが直接我が家を訪ねてきたところを見ると、私達の情報はカイスベクファ側に筒抜けなんだろう。疚しいことは何もない。どうぞ好きに見張って下さい。ついでに庭の草むしりしてくれたら、すごく助かる。


「妹に読んで貰えなくてもいい、それだけのことをしたのだから、とライラは言っていました。ミヤビ様の手紙を読んで、彼女は泣いていた。これまでの態度にわだかまりはあるでしょうが、どうか読んでやってくれませんか」


 アキラ姫なりに必死で、他にどうしようもなかったのだと思う。頑なな態度は己の心を守るため。そうじゃなきゃ、神殿では生きていけなかった。視野が狭かったのは、私も同じだ。

 

 両手で手紙を受け取り、そっと胸に押し当てる。

 最初の手紙を書いてから、八年。ようやく通じあえた。姉さんが私に、返事を書いてくれた。

 こみ上げてきた激しい喜びに、喉が詰まった。

 

「……一人で読みたい。あとでエーリクにもどんなことが書いてあったか話すから。いい?」

「それで構わない。だけど、あんまり泣くなよ。頭が痛くなったら大変だ」


 エーリクは私の眦に愛しげに触れると、おもむろに立ち上がった。

 部屋の隅に立てかけてあった訓練用の木刀を手にし、不敵な笑みでイソラを見据える。アキラ姫夭逝の知らせで酷い目にあったのはエーリクも同じなので、止める気はさらさらない。


「さて、俺は直接お前に聞くことにしよう。フレドリック・ハンベルトが本当の名前なのかどうか、どうしても引っかかるんでな。散々ミヤを苦しめた責任も、ついでに取ってもらう」

「仕方ない。お手柔らかにお願いします。私ももう、いい年なのでね」

「まだ四十だったか?」

「まだ三十七です!」


 これだけは譲れないとばかりに訂正するイソラと、やる気満々なエーリクを見送り、ゆっくり手紙を開いた。


 

 ――親愛なる私の妹へ


 出だしの宛名が目に入った途端、みっともなく嗚咽を漏らしてしまった。

 まだ一文も読んでいないのに。涙腺、しっかりしろ。


 『女神様』としか呼んでくれなかったアキラ姫の冷たい眼差しが、柔らかな筆跡で塗り替えられていく。ずっと呼んで欲しかった。ようやく、呼んで貰えた。

 ぼろぼろと溢れた涙は、だけどすぐに止まった。


 ……これ、本当に姉さんが書いたんだよね?


 じっくり筆跡を検分してみたけど、間違いはないみたい。上がってきた書類の中で何度も見かけたアキラ姫の字だ。

 今ではすっかり懐かしいミレル公用語で綴られたそれは、控えめに言っても、解読困難なポエムだった。


【この広い世界、引き合わされたちっぽけな二つの魂。

 ようやく認めることが出来る。おぞましい業が血で結んだ偶然を。

 憎むべき定めに抗ってきた箱庭の春。何度も、何度もあなたを捨てた。

 捨てなければ進めなかった】


 ……ごめん。何が言いたいのか本気で分からない。


 更に途中からは、壮大な妹賛歌みたいになった。【光照らす無垢な珠玉】というのはどうやら私のことらしい。アキラ姫の中で、私、つやつや光っちゃってる。

 完璧な女性だと思っていた姉の愛すべき欠点に、とうとう噴き出してしまった。


 ポエミーな文体に心の中で突っ込みながら、手紙を読み進める。

 大体だけど、アキラ姫の置かれていた状況が掴めた。

 

 イソラは、前世の部下だったこと。

 フレドという名前でカイスベクファに間諜として送り込まれていたイソラが、徐々に姉に懐いていったこと。そんな姉がミレルの手先によって殺されたことにより、イソラは神殿に復讐を誓ったこと。

 一の姫として転生してきた姉とイソラの再会。姉は母の死を目撃して以来、ずっとエーランドの監視下に置かれてきたこと。

 ミレルから神殿派を一掃する為、かつての主であるカイスベクファ国王と手を結んだこと。

 

 書かれていた内容は、あまりに予想外過ぎて、思わず手紙を置いてしまった。

 しばらく頭をかかえ、大きく息を吸って、もう一度読み返す。

 

 十三歳の小さなアキラちゃんの中身は、うんと年上の女性だった。うわ……これは痛い。何が痛いって、当時の私の言動が痛い。

 

 でも手紙のおかげで、色々なことに納得がいった。

 アキラ姫は、カイスベクファ人だった前世をやり直そうとしていたんだ。

 イソラの強力ガードも、しょうがない……とはまだ思えないけど、深い事情があったのは分かった。


 彼女は一度、ミレルに殺されている。

 しかも幼い時分に、母の死にも立ち会っている。

 大司祭も、彼の言いなりに動く女神わたしも、みんな敵に見えたんだろう。

 

 それでも私の命を惜しんでくれた。手紙から、当時の彼女の葛藤が痛いほど伝わってくる。

 

 エーランドは殺さず捕縛し、国際裁判にかけたそうだ。

 彼は今や、殉教者になりそこねた犯罪者ってわけ。命で贖わせようと思った私より、姉の報復は激しかった。安易に死なせるものか、その目で国の終わりを見届けるがいい、って感じの文章にゾクリとする。

 エーランドが望んだ女神の国は消えた。残り少ない余生を屈辱にのたうち回るであろう彼に同情はしない。母や『ミヤビ』達はもっと無念だった筈だから。

 

 重苦しい報告が多い中、ジョルジュ達四人が今では立派にミレルを支える政治家になった知らせは、私の心を弾ませた。

 民の為に奔走している彼らを思い浮かべ、しみじみ感慨に耽る。良かった。本当に、良かった。

 ランツ家はしたたかだから、次男の妻になった私がこの先利用されないか心配だ、という文章は二度見してしまった。したたかさで言えば、姉さんとイソラには誰も勝てないと思うよ。


 詩的表現が強すぎて分からないところは、後でエーリクに聞こう。【紅い雫の宝石箱】とかね。この世界特有の慣用句なのかな。

 

 二十枚目の便箋をめくり、最後の一枚に視線を走らせる。

 そこで私は再び泣かされた。


 

【いつか、会いたいです。会って沢山お話しをしたい。

 会って直接謝りたい。

 貴女に姉と呼ばれるの、本当は嬉しかったから】


 

 かつて私が願いを込めて綴った言葉にありったけの気持ちを乗せて、彼女は長い手紙を結んでいた。






これにて完結です。

連載を追って下さった皆様、本当にありがとうございました!


エピローグに合わせ、アキラ姫サイドの番外編も更新されています。

赤い雫の宝石箱のお話は、ぜひそちらでお楽しみ下さい。

活動報告には、2人企画の裏話を載せています。ネタバレOKの方はどうぞ。

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