第8話 クラスタの動揺
ピューリタンが連れて行かれた後、コンピューターに通信が入る。クラスタはパネルにタッチし、コンピューターを操作する。すると、画面に1人の女性が映し出された。クラスタと同じ連合軍将軍のケイレイトだった。
[久しぶり、クラスタ将軍]
「ケイレイト将軍…… 何か用か?」
[ううん、特にないよ。長い時間がかかったようだケド、ファンタジアシティを手に入れたようだね。おめでとう]
「ああ、防衛長官が前任のクォット将軍から新任のピューリタン将軍に変わって一気に攻め落とせた」
ファンタジアシティの侵攻戦は数ヶ月にも及んでいた。前任のクォット将軍は経験豊富な国際政府の名将だった。彼の軍事能力は高く、クラスタとは互角だった。
しかし、ピューリタンが連合軍のデスピア将軍を倒し、極秘に進められていたスウィーパー計画を暴いた。その手柄で彼女は将軍へ、そしてファンタジア防衛の任務を任されてしまった。
問題はピューリタンの手柄だった。彼女がスウィーパー計画を暴けたのは全くの偶然であった。当時、准将だった彼女はたまたま連合軍に捕まり、スウィーパーの戦闘データ収集に使われた。
その過程でスウィーパーが暴走。デスピアとスウィーパーは死亡した。そして、トワイラルを始めとする仲間の助けもあって無事に脱出出来た。
いってしまえば偶然が重なり、彼女は手柄を得ただけだった。その手柄だけで昇格。ファンタジア防衛長官を任されてしまった。
[ファンタジアシティ陥落、ね。ところで、その時市民はどの程度死んだの?]
「…………! い、いや、知らないッ!」
[へぇ、そうなんだ。ま、市民なんかいくら死んでもいいんだよね。クラスタ将軍は]
「……ち、ちがっ……!」
明らかな動揺だった。イスに座る彼女の体はガクガクと小刻みに震える。額に汗が滲み出る。
[頑張ってね。これからも]
「……あ、ああ」
最後、一瞬だけ不気味な表情を浮かべたケイレイト。彼女の姿は画面から消えていく。だが、画面が真っ暗になってもクラスタはそこから目を離せなかった。
*
今は、もう昔の話――
「助けてくれ!」
「イヤだッ! 死にたくないッ!!」
「殺さないで!」
「いやぁッ!」
炎上がるとある都市。空中を飛び交う飛空艇。そこから落ちて来る無数の爆弾。それは地面に着弾し、大勢の市民を巻き込み、爆発する。
バラバラになった人の体の一部が血をまき散らしながら飛ぶ。血は白いコンクリートの地面を赤く染め上げていく。
「死にたくない!」
「なんで私がこんな目に!」
「みんなどこ!? 私を置いて行かないでぇッ!」
ある市民は頭を抱え、背を低くしながら逃げる。またある市民はバトル=アルファが持っていたアサルトライフルを持ち、進むのに邪魔な市民を殺しながら我先にと逃げる。
ここは地獄の都市。狂気と混乱の渦に呑まれ、死にゆく街・ティトシティだった。
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
バトル=アルファが無差別に市民を撃ち殺していく。女性や子供にも容赦はなかった。彼らは敵を見つけけると無差別に発砲する。無差別に射殺していく。
「“ティトシティ除去計画”を実行せよ…… ティトシティの連合軍を完全排除し、世界の平和を守り抜け! その為の犠牲は仕方なしの犠牲!」
上空から大規模な爆撃を行うのは国際政府特殊軍の艦隊だった。大型艦隊から小型戦闘機までもが爆撃を行う。街には大勢の市民が生き残っていた。にも拘わらず国際政府は爆撃を行った。
ティトシティは占領されていた。連合軍によって。問題は国際政府の対応だった。ティトシティを占拠した連合軍を“全軍”だと勘違いした。
連合軍全軍を消せば世界の平和は守られる。手っ取り早く、尚且つ確実に全軍を完全に消すには市民を見捨てた大規模な爆撃。国際政府はその考えに至り、この作戦を行った。
「死にたくな、ぐぁぁッ!」
「ぐぇッ!」
「いやあぁぁぁッ!!」
当然の事ながら人質となっているティト市民も犠牲となる。彼らは世界平和の為の犠牲となった。世界の為に死を強制されたのだ。
国際政府はこの事を隠ぺいするつもりだった。市内に大量の反乱軍が侵入し、無差別殺戮を行い、街は滅んだ、という事にするつもりだった。
「死にたくない、死にたくない……」
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
「許してぇッ!」
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
だが、それは失敗に終わり、国際政府は威信を失う。そして、世界大戦を勃発させてしまった。国際政府を見限った大勢の市民が連合軍に加わり、世界は殺戮の嵐となった。
連合軍の狙いはこれだった。国際政府の性格を熟知していた彼らはティトシティを大軍で占拠すれば政府は必ずやこの作戦に出ると分かっていたのだ。
「痛いよぉ…… 助けて……」
[攻撃……!]
「もう、ここで死んじゃうんだ…… 俺達、みんな……」
ティトシティを占領した連合軍。ティトシティでの殺戮を望んだ連合軍。問題はなぜかその事実が、連合軍が殺戮を狙ったという事が世界に知れ渡ってしまった事だった。
国際政府派の市民と連合軍派の市民。そして、どっちつかずの市民。ほぼ同勢力の国際政府・連合軍。これらが戦争を長期化させ、世界を荒廃させてしまったのだ。
戦場となったティトシティの郊外に立つ若い女性。彼女は一般市民と変わらぬ服装をしていた。なぜなら彼女は市民なのだから。
「……な、なんで? 一緒に脱出しようって…… なんで、なんで死んだんだよぉッ!」
大量の血を流し、命を失った1人の若い男性を前にして彼女は泣き崩れる。彼女のすぐ後方には燃える街。前には緑が広がる。
あと少しだった。あと少しで脱出出来るハズだった。だが、無情にも彼は彼女を残して死んだ。そして、その死が世界を更なる混沌へと落とす事になる。
彼の名はリュート。そして、彼女の名はクラスタ。クラスタ=セルヴィタス。テトラル軍事大学の若き優等生だった――……
【世界の流れ】
◆SC 2011
・2月:世界大戦勃発『ティトシティの戦い』
・8月:クラスタ、連合軍将軍の地位へ
・10月:スウィーパー暴走。デスピア死亡
・12月:ピューリタン、将軍の地位へ
◆SC 2012
・5月:ファンタジア陥落『ファンタジアシティの戦い』
スレイヴ・ドール計画立案