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殺し屋レインのお仕事  作者: ナマケモノ
1章 無法都市編

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レインが生まれた日





暗殺者とは本当に恵まれない仕事だ。

これはある程度仕事を覚えた12歳頃にふと感じたことだ。

他国の裏稼業の人間はどうかはわからないが

僕が住む神聖ブルガリア帝国では特にそうだ。


そう思う理由を6つ並べる


1、任務による拘束時間の長さ

暗殺者といいながら、情報収集と称して身分を偽り敵国に潜入したりする任務がある。それにより年中、馬車馬のように働くことになる。


2、裏稼業を行う人間への差別

神聖ブルガリアは王国は格差社会。高位の貴族、王族に富が集中する社会構造になっている。それにより身分による差別は勿論存在する。暗殺者は功績により貴族の位が与えられることもあるが、子爵までが限度。それにより人を殺して成り上がった家であるというレッテルをはられ、社交界では嫌悪や侮蔑の対象としてみられることが多い。


3、口封じに消される可能性がある

暗殺者はその特性上重要な国家機密や知れ渡れば貴族が境地に陥る情報を入手しやすい。それにより、口封じのために同業者に狙われたり、罠に嵌められたりすることがある。


4、人権がない

任務失敗とはその人物の評価を落とすことになる。クライアントにとって暗殺者は道具だ。道具の性能が落ちたら治すこともあれば破棄されることもある。修理不能な重大な怪我をおってしまえばそれで最後だ。使えない道具は破棄するしかないのだから。つまり人権がない


5、死亡率の高さ

暗殺者のターゲットに平民がなることはない。ターゲットになるのは生きていると困るような影響力のある人間。つまり高位貴族等が多い。敵国に行くこともあれば自国の敵対する貴族なども標的になりやすい。

そういった人間は保身にだけは長けた連中だ。腕の良い護衛の10人~20人ざらにいるし、50人くらいいることもある。故に最初から数的不利を被った状態で戦いを挑むことになる。普通の感覚だとかなり難しいものだとわかるだろう。それなのに安全に大集団で戦う騎士の方が王国では評価される。


6、幼少期からの過激な訓練

これは道具としての価値を高めるために必要なことだ。これは誰かに強制されることはないが、これを怠るものは死と隣り合わせのこの仕事で生き延びることは難しい。そして怠っていなくても難しい。


そんな僕レイス=クロードは王国の暗殺貴族の名門クロード子爵家に姓を受けた。


幼い頃から王国最恐の暗殺者と言われる父。シリウス=クロードから暗殺に必要なことをこれでもかというくらいに叩き込まれて育った。そしてそれ以外の娯楽などを父は決して僕に与えようとはしなかったし、禁じられていた。

ただ僕には魔法の才能があったため、他の兄弟たちと違い、魔導書などはよく買ってもらっていた。

暗殺に使えるからだそうだ。

この魔法で遊んだり、改良したりするのが唯一の楽しみだった。


それから10歳の頃には父上と一緒に仕事に同行するようになっていた。僕には歳の離れた兄が2人いて、その2人が独立したのを機に自分も実践の段階に入らせてもらえたのだろう。


仕事は今まで一度も失敗したことがなかった。

実際にやってみた感想は正直なところ気持ちのいいものではなかったが、自分は大きな怪我を負うことなく、3年間任務を成功し続けることができた。

しかし、度々思う…。

(面白くない…。)

任務といわれても、気持ちが乗ってこないのだ…

淡々と言われたことをやり、言われた通りに人を殺す。

やる気が出ないのは当然だ。そこに僕の自由意思が全く反映されていないのだから…

魔法書を買うついでにこっそり買った絵本を見る。


この絵本の物語のようにお姫様を助けに行ったり、一攫千金を狙い、金銀財宝が発見するような仕事ならやる気も出るというもの


そんな僕の悶々とした僕に転機が訪れた。

13歳のころだった。正直…良い転機ではなかった。


父上が敵対国であるレギア帝国の任務から帰ってこなくなった。標的の始末、情報収集の報告はあがっていたので、任務は成功させたらしいが…肝心の父上は戻ってこなかった。


2ヶ月後、父上は死亡したものとして処理された。



◆


クロード子爵家は次期当主としてすでに選定されていた長男のライアン兄貴が父上の跡を引き継ぐことになり、次男のギール兄貴がサポートする体制になった。

兄上達からはレイスはまだ幼く一人では危険だとの事で任務からは外されていた。その方が僕としてはありがたかった。

クロード子爵家の任務はライアン兄貴とギール兄貴の2人で行っているらしい。

僕は来たる任務のために魔法と体術の修練を欠かさずに必死にやった。やはり父上が死んだというのがレイスとしては大きなショックであった。あれだけ強かった父でも失敗するのだ。この世界を生き延びるためにはまだまだ力が足りない……

そう実感した。



◆



そしてまた次の悲劇がレイスを襲った。


父の死亡から2ヶ月後、ライアン兄貴とギール兄貴が任務に失敗し、死体で発見された。

兄2人は優秀だった…にも関わらずどうして…

兄達は遺体となって家に戻ってきた…

ライアン兄貴とギール兄貴は激しい戦闘の痕跡がみられ外傷が多かった。しかし、ライアン兄貴の方が外傷は少なかった。顔色を見るに恐らく毒に侵されて亡くなったのだろう。


この短期間でレイスは共に生きてきた家族を全て失うことになった…

これまでレイスは父の仕事を手伝い、人の死に触れ続けてきた。同業者の死にも直面したことだってあった。明日は我が身だと考え、寝れない夜もあった。そんな死が日常の一部であったレイスですら…

家族の死は到底受け入れがたい事実であった。



生前の2人の事を思い出す。兄達は父の失敗を挽回するべく奮闘していた。

危険が及ぶのを避けたかったか、はたまた足で纏いと思われたからかレイスを任務から遠ざけていた。


そして2人は父が死んだ裏背景を探っていた節があった。今思えば当然だろう。父に関しては僕達家族に伝えられたのは父が死んだということだけ。任務の詳細や死因なども一切聞かされていなかった。




正直、ここで3人との生活は楽しいことより辛いことの方が圧倒的に多かった。

父親は熱心に技術の指導をしてくれていた。訓練はかなりスパルタだった…。そこに父親としての愛情があったのか正直わらかない…。

というよりも、毎日の訓練がスパルタすぎてそんなことを考えることすらなかった。


兄2人とは仲が良かったわけでも悪かったわけでもない。比較的良いお兄ちゃん達だったが、実践訓練ではライバル視され、殺伐とすることもあった。

それでも家族だ…。全員殺されたりすると、精神的にくるものがある……

垂れる涙を拭きながらそう思う。


これまで父も兄達もずっと過酷な任務を何年も続け、生き延びてきた。

そんな3人がここ立て続けに死んだのだ。



これは本当に偶然なのか?そう思わざるを得なかった…


長男のライアン兄貴にはミーシャという奥様。僕の義姉にあたる方がいて、葬儀を取り計らってくれた。

ミーシャさんも暗殺者の一族の家の出で父が死んでからは度々屋敷に来てくれていた。


レイスだけでは葬儀を催すことすらままならなかったため本当にありがたかった。


(弔うことができて本当に良かった…)


葬儀を行った後、ミーシャさんは実家に戻ってくるように通達が来たらしく。そのまま実家に帰ってしまった。

最後別れるときにミーシャさんは僕に言った。

『本当にごめんなさい』

レイスを1人にすることへの謝罪だろうか。ただ少しニュアンスが違うように感じ、疑問に思っていた。



クロード子爵家の邸宅は一人で住むには広すぎた。

天涯孤独となった今、どうしたらいいのかわからなかった。

父上が生きていると信じて待つべきか。

今国外にいるという名前も居場所も顔すらもわからない実の母を探すべきか。


でもどちらも望みは薄いだろう。父はすでに半年は帰ってきていないし、実母は情報がほとんどない上にそもそもレイスは国外への行き方すらわからない。


レイスは武術、格闘術などの肉弾戦闘と魔法に関しては厳しい修練を積み重ねてきたが、それ以外のことはほとんど何も教えらてこなかったし、していなかった。

留守番を任されることがあったため、少し家事ができる程度だ。


レイスにやれることは少ない。

だからこそやれること確実にやることにする。

レイスはこの時腹を決めた。


(もし3人の死に誰かの意志が反映されているのであれば漏れなく僕も殺しにくるだろう)


もしそうであれば情報を吐かせて始末すれば済む。でもこれが偶然が重なった結果だった場合……

(本当にどうすればわからないから一番困る。)


たが、そんなレイスの不安はすぐに解消されることになる。



◆



葬儀から2日後の晩、レイスは何か手がかりがないかと父と兄弟たちの書斎で仕事の依頼書、手紙のやり取りなどで怪しいものがないか探っていた。

外は激しい雨が降り続いていた。まるで今のレイスの心境のようだ…



情報収集が目的ではあったが……

とりあえず、何かをしていたかった。じっとしていると感傷的になってしまう。



すると、ふと窓を空けて外を確認した。

(何か視線を感じる…。この反応誰かいる?)

レイスが気付くと同時に外からナイフが飛んできた。

迂闊だった。

探し物に気をとられ、接近に気がつかなかった。


冷静に魔法を展開する。

「千里眼(クレアボヤンス)」

この魔法の効果は2つあり、遠方の風景を視認することができること。そして視認したい対象以外のものを透過させることができる。


(敵は6人…。かなり実践馴れしていそうだな)

そのうち3人が家の中に侵入してくる。

全員黒いコートにフードを目深に被っており、顔が見えない。


それを確認し、レイスは窓をから勢いよく飛び降り、包囲の合間を縫って逃走した。


それを見て包囲していた敵3人とその後ろから家に侵入した敵3人が追いかけてくる。


レイスの予感が上手く的中した。彼らは泥棒ではなく、暗殺者だ。彼らにとっての失敗はレイスを仕留め損なうことだ。


レイスはスピードを上げ、木々が生い茂る雑木林に駆け込む。敵6人全員を雑木林に誘い込み、1人づつ始末するつもりだったが、レイスの思い通りにはならなかった。

敵は3組のツーマンセルを作り、1組は雑木林の外に残り、もう2組はレイスを追ってきた。

(本当にやりにくい…。多分、寄せ集めの人間ではなく、普段から組織的に動いている人間達だろう。そして、声を上げずに連携が取れていることから、遠隔で声を飛ばす魔法を使っている可能性がある。)

(ならば…。先に狙うのは外の2組。中に入った4人に気取られずに消す。)


方針を決めるとレイスは魔力を薄く広範囲に魔力を放出し、幻覚魔法を発動した。

幻覚魔法は魔力を敏感に察知できるものがいれば、フェイクを簡単に見破られてしまう。

その為魔力を広範囲に巻き、敵の魔力感知を麻痺させる。そして巻いた魔力の範囲に幻を自由自在に展開できる。

この魔法はレイスが最も得意とする魔法だ。

レイスの幻覚魔法は王国最恐の暗殺者である。シリウス=クロードをも欺く。



レイスは等身大の土人形を作りだし、それに自分の幻影を被せる。土人形を魔力により幻影と重なるように移動させる。そして、自分の身体を幻影で透明化させ、そのまま離脱する。


向かったのは雑木林の外にいる敵。接近し、敵2人の首を短剣で切り裂く。


あと、4人…。


レイスの幻覚は空気の流れや音、魔力、殺気さえも幻覚で消すことができる。そして精神干渉魔法を脳に直接作用させ、目の前の事象を疑いにくくさせる。


敵2人が絶命したのを確認し、雑木林に駆け込む。

1人は生かして、今回の件に関して事情をを吐かせたい。

本来はリーダーを特定し、そいつに吐かせたいところだが恐らくその余裕はない。

仮にレイスの魔力が漂う領域を抜けられたら幻覚が解けてしまう。

なので、レイスは一番強いと感じた人間を生かして捕らえることにした。


土人形と幻影を加速させ、レイスがいる方向に誘導する。


そして、向かってきた片側2人の首を切り裂く。

それと同時に2人の幻影を作りだし、人形を追わせる。


あと2人…。


雑木林の入り口付近で人形を振り返らせて、反撃の構えを取らせる。

人形に向かって攻撃を繰り出す。2人の敵。


人形が2人の攻撃を受け止め、ガッチリつかむ。その隙に片方の敵の首に短剣を突き刺した。


もう1人の男は人形の拘束から脱出する。

味方が全員脱落したことに気付かず、元から息をしていない人形にとどめをさそうとする。

人形を刺そうとした瞬間に足のアキレス腱を切り裂く。倒れ込んだ男の背中に短剣を刺した。


「ぐっ!!」

敵は苦しそうな声を上げ、地面に倒れこんだ。

レイスはその人物のフードを捲りあげた。

その男の顔は見たことがなかった。

王国にいる暗殺者じゃないのだろうか…


苦しむ男をレイスは無慈悲に蹴り上げ問いかける。

感情を読まれぬように冷静にそして冷酷に

「あなた自身のこと、僕を狙った理由、依頼人、そして僕の兄や父上について知っていることを話してください」

男は侮蔑を含んだ笑みをレイスに向けた。

「いい気になってんじゃねぇよ!!ガキが!!」

「俺のことはいい!お前らこのガキを殺せ!!」


「……」

(そういえば、まだ幻覚を解除していなかったな…)

レイスは両手でパンッと一回音を鳴らす。

レイスが書き換えていた幻想が現実に戻る。


「……バカな!!」

男のすぐ傍には先程まで一緒にレイスを追い立てていた男の亡骸が転がっており、その10メートル程先にも味方2人が同様に血を流し倒れていた。


「ちなみに外にいた2人も始末した。」

男の顔が絶望の色が浮かぶ。

「あとはおっさんだけだ。早く吐いてくれ。時間の無駄なんだ」

「お前が何をやろうと俺は喋らねぇ。さっさと殺せ」

そう言って男は目を瞑った。


暗殺者は大体の場合、痛覚に対して人並み以上に耐性をもっている場合が多い。レイスも同様だ。

理由はこうやって敵の手に堕ちたときに情報を守り通すためだ。拷問を行っても時間の無駄だろう。


だから、精神干渉魔法を男にかけうえで拷問することにした。

脳内の前頭前野、扁桃体、受容体を侵す。

感情のコントロールを奪い、思考を奪い、体外の刺激への感度を上昇させた。


男の手のひらに短剣を刺す。

「ぎぃやぁぁぁぁぁ!!」

男の絶叫が響き渡った。そして間髪いれずに短剣をぐりぐりと押し込む。

「あああああぁぁぁぁ!!」

「おっさん。僕はあんまり獲物をいたぶる趣味はないんだ。だから早めに吐いて!!!」

「やめろ!!やめてくれぇぇぇぇ!!!」

「勿論やめるよ。おっさんが知っていることを吐いてくれたらね」

そう言ってレイスは短剣を男から抜いた。

「はぁ…はぁ…」

「さぁ、まずは自分のことからはなs」


レイスが問いかけた瞬間、男を舌を思いっきり噛んだ!!

「んんんん!!」

(こいつ!!)

レイスは焦り、再度、精神干渉魔術と幻覚魔法をかけた。

「な、なんで…どうして死ねない…」


「危なかった…。精神干渉魔法と幻覚魔法を直接貴方の体にかけました。なので今貴方の体と脳は自分が健康体であると錯覚して動いています。」

「痛覚が残りつつも呂律はしっかりと回るでしょ?」

レイスは無慈悲に問いかける。

「さて、もう逃げられないですよ」

「クソッ…」

それでも男は話そうとしなかった。随分な忠誠心だ。精神干渉とは洗脳や催眠の類いではない。


あくまで精神の誘導、誘惑に近い。ある程度であればコントロールできるが被術者の意志が強い場合、抵抗されることが多々ある。

故に精神干渉をかけつつもレイスは攻め方を変えた。


「随分な忠誠心だね。そんなにおっさんの主人は凄いのかい?僕はそんなに忠誠を誓うほどの人にあったことがないからわからないよ」

「ふん!それは可哀想なことだな。信じるものがない人間はいざにというときに弱い。」

おっさんは哀れみの顔を僕に向けた。

「いざというとき?」

「自分の力ではどうしようもない状態になったときだ…。おれはその時試されているんだと感じる」

「ん?誰に」

「神だ!!」

「神?」

「ああ、そうさ。神は我々に試練を与える。だが、それを取り越えることで神に認められし、人間。聖人となれる!!」

(なるほどな。このおっさんは聖教の人間か。聖教の人間と話したのは始めてだけど…イカれてる…)


「その神は何故僕ら一族を殺すんだ??」

レイスは感情を殺し、冷静に問いかける。

「殺すのではない。救うのだよ」

「は?」

「汚れし肉体を浄化し、良き肉体での転生促すのだ」


(ちょっと、何言ってるかわかんない…)


わからないがひとまず質問を続ける。

「汚れし肉体って何のこと?」

「神に選ばれた種族。それこそが人間だ!故にそれ以外の種族は醜悪な肉体で醜悪な存在である!」


ていうことは何だ?僕の体は汚れし肉体でその肉体は人間以外のもの……


「……え?つまり、僕が人間じゃないってこと?」

「そうだ…」

(僕が人間じゃない?どういうことだ?)

「僕みたいなブサイクは人間じゃないということ?それはあんまりじゃない?美男美女以外は畜生にも劣るってか?」


ズレた質問であると理解しながら問いかけた。


「顔の美醜の話ではない…」

「あ?」

「血だ…」

「どう言うこと?」

「お前らの一族は混じっている」

レイスは恐る恐る聞いた。

「なにが混じってるっていうんだよ?」

男は冷静に答える。

「そこまでは聞いていない」



(つまりなんだ?俺達一族の血には遺伝的に人間以外のものが混じってるってことか?)


でも、そんなことありえるのか?

父上からは祖父母は愚か母上の話の話もろくに聞いたことがない。

そもそも人間と異種族は子供を成せるのか?そもそもどうやって人間同士の子供が生まれるかわからないレイスにとっては考えるだけ無駄だ。


考えてもわからないことは考えないのがレイスだ。

レイスは素早く切り替えた。


「君達が死んでも追手はくるのか?」

わかりきった質問だが、一応問いかける。

「ああ。俺達はお前ら一族の存在は許さない。神からのさばきぅい…」

レイスは精神干渉魔法と幻覚魔法を解いた。もう聞くことらなさそうだからだ。

(さて…どうするか…)

レイスは決断を迫られた。このまま襲撃を受け続けるともはやジリ貧だ。


ひとまず、6人の亡骸を回収し、家に帰ることにした。


◆


6人の亡骸を玄関に置き、淹れたての紅茶で雨に濡れた体を温める。


「とはいえ…やれることなんて限られているんだよな…」


敵はわかった。聖教だ。聖教は神聖ブルガリア王国の国教で教会騎士団をという王国騎士団にもひけをとらない戦力を有していて、国内でも高い軍事力を持っている組織だ。


そして、聖騎士といわれる強力な騎士がいるらしい。実際にあったことがない故にレイスには正確な強さはわからないが、警戒した方がいいだろう。


「逃げるしかないよな…まず」

「そしてどこまで通じるかはわからないが自分の死体も偽装しよう」

見破られる可能性はあるけど、追われないに越したことはない。

土人形に幻覚魔法を添えて、回収に来た人たちに精神干渉魔法をかけて、死体を直ぐに処分させるようにする。


「そして、潜伏先の選定と生活費…」

「この家と聖教の暗殺者が持っている貨幣を使えばしばらくはもつ…か?」


レイスはこれまで自分の生活費がどれだけかかっていたかもわからない。仕事を探すのは最優先事項だろう。

「あとは新しい名前だ。人間社会に紛れこむにはやはり名前は絶対に必要だろう」


さて、ある程度無難な名前がいいよな…

今でも激しく降り続ける雨を見て、閃いた。


「レイン」


レイスが最も得意な属性は水だ。それに今の自分の名前にも似ているから、忘れることもないだろう。



今日がレインの生まれた日だ…


レインは思う。家族を殺した聖教への恨みは到底消えるものではない。しかし、それと同時に不謹慎にもワクワクした気持ちもあった。これまで暗殺者という名の猟犬だった。逃げられない宿命に抗うことができなかった。


だが、これからは違う。

「僕はここからやり直す」



これから

色々なことを学んで、

色々な人と出会って

色々な遊びもしたい。

自分自身の自由意思に従って…


「復讐したい気持ちは確かにある。でもなんか暗くない?…それ?」


そう自分に問う…


レインの中には2つの感情がある。


家族の復讐をしたいという憎しみの気持ち…


そして、クロード子爵家という枷をはずされ自由になったようなスッキリした気持ち…


この2つの感情を胸に抱き、家を出る。

本当に必要なものだけを持って…



◆



その後、レインは偽装した身体の焼却作業に立ち会った。人には見えない身体で。

当初の作戦は上手く行ったようで肩の荷が一気に降りたような気分だ。



そして王国内でもクロード一族の最後の生き残りレイス=クロードが死が伝わった。

それはクロード子爵家の長い歴史に幕を閉じることを意味する。


それを見て安堵したレインはふと呟いた。

「さて、これからどこに行こうか」



これは戸籍を失った少年。

暗殺者レインの物語である。






この作品を読んでいただきありがとうございます。

拙い文章ではございますが、楽しんでいただけると幸いです。

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