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【第38話 Clean】

 献上品の重箱を完成させた来翔一行は、エルフの里を出て帝国を目指す馬車の中にいた。


 ビリーが首都エントについて説明を始めた。


「首都には冒険者ギルドがあるんだが、来翔は冒険者ってのを知ってるか?」


「う〜ん、こちらの世界の冒険者は詳しくは知りません。一応、あちらの世界では冒険者みたいな仕事をしてますけどね」


「たぶん、来翔さんが考えてるような冒険者と変わりねぇはずだ。首都で自由に振る舞いたいのなら、冒険者登録しておくのが手っ取り早いぜ。なにせ、冒険者登録すると勇者に出会えるチャンスが高くなる。勇者が一人でクエストに参加することなんてないからな」


「それなら、重箱を納品したら冒険者ギルドへ行ってみます」


「あぁ、そうした方が良い」


 数日後、帝国の首都エントに到着した。



 ◆



 早速、来翔は納品先である総督官邸へと赴いた。制作者である来翔だけが官邸に通されたため、ネーラとレフトとリスタオールはビリーの首都の屋敷へ先に帰った。


 官邸の会議室のテーブルには重箱が十五個、曲げわっぱが三十個、余った世界樹の木材で作った櫛が六十個、整然と並んでいた。五人の魔道士たちが精神を統一して鑑定を行っている。


「旧コナ国からわざわざお越しいただきありがとうございます。鑑定にはしばらく時間がかかりますので、こちらのお茶でも飲みながらお待ちください」


 受付の愛想笑いが綺麗な女性がお茶を出してくれた。


 来翔が三杯目のお茶を飲み終えた頃、ようやく会議室が騒然とし始めた。魔道士たちが報告書をまとめながらひそひそと言い合っている。


「こ、これをどう報告すれば良いのか……」


「素直に本当のことを書くしかなかろう!総督は嘘を見抜く天才だぞ!」


「それにしても、これをそのまま報告して、総督が素直に信じるとは思えんのだが……」


 受付嬢が痺れを切らして尋ねた。


「皆さん、どうしたのですか?こちらの献上品に不具合でもありましたか?」


「不具合なんてものじゃないですよ!これは全部が国宝です!まず、ここにある物は全て世界樹ですよね!来翔さん!」


「はい。よくわかりましたね。魔道士の方は皆さん鑑定ができるものなんですか?」


「鑑定ができるのは魔道士の中でも限られた者だけです。……ってそんな呑気な話をしている場合ですか!貴方!これは世界樹ですよ!世界樹!」


「はい。そうですよ。世界樹で作りましたから」


「とにかく、これは大変なことなんです!総督閣下へ至急ご報告しなければなりません!失礼します!」


 魔道士たちが大慌てでどこかへ立ち去った。受付嬢だけが気まずそうに愛想笑いを浮かべていた。



 ◆



 納品を終えた来翔は、ビリーに教えてもらっていた冒険者ギルドへやって来た。


 中に入ると荒くれ者がたむろしている。来翔はギルドの受付へと歩いていった。


「すいません。冒険者登録をすると勇者と一緒にクエストに参加できると聞いたのですが、現在の勇者はどんなクエストをしているんでしょうか?」


 受付に座っていたのは、まだ若い可愛らしい女の子だった。


「現在の勇者様は北の大地まで護衛のクエスト中です」


「北の大地はここから遠いんでしょうか?」


「早ければ二ヶ月後には戻られます。それで、本日は冒険者登録でよろしいですか?」


「あ、いえ。勇者が帰られてからで結構です。二ヶ月後くらいにまた来ます」


「そうですか。またのお越しをお待ちしております」


 来翔はギルドを後にした。



 ◆



 ビリーの屋敷に帰って、皆に事情を伝えた。


「という訳で、ワタルさんが北の大地から帰って来るまで二ヶ月ほど暇になりました。冒険者登録もしてません」


「それなら来翔、俺様が北の大地まで案内してやろうか?一応、北の大地にあるセモ国にも俺様の屋敷があるぜ。勇者の情報を集めに行くかい?」


「でも、ワタルさんは護衛のクエスト中ですから、旅をしているはずです。こちらから追いかけると逆に行き違いになりそうなので、大人しく二ヶ月間待った方が良いと思います。首都でバイトでもして気長に待ちますよ」


 早速、来翔は首都の新聞を買ってきた。ネーラとレフトと三人で求人募集欄を広げる。


「来翔、どんな仕事を探してるの?木工職人とかも首都で募集してそう?」


「パッと見た感じでは職人系のバイトはないね。首都には工房があまりないみたいだ。一番多いバイトは接客業だよ。僕みたいなオジサンでも雇って貰えるかな……」


 それを聞いていたリスタオールが口を挟んだ。


「来翔さんのように顔の整っていない、いわゆる美形ではない男性ですと、逆に貴族の淑女が集まるようなカフェ店員をなさるとかなりモテますのよ? 貴族というのは見た目とお家柄で結ばれますの。良い血統同士で結ばれすぎた結果、貴族には美男美女しかいません。ですので一周まわって、来翔さんのような美形ではない顔立ちの方はモテますのよ?」


 ネーラとレフトが新聞紙の上で笑い転げた。


「ピヨピヨピヨ!」


「あはははは! 来翔、美形じゃないからモテるんだって! あはははは!」


 来翔は苦笑いしながら求人欄に目を戻して、結局、冒険者ギルド内にある酒場の店員アルバイトに決めた。



 ◆



 バイト初日。ギルドへ出勤すると、昨日応対してくれた受付嬢のフランがにこやかに出迎えてくれた。


「来翔さんにはカウンター内でお酒を作る作業をお願いします。詳しくは厨房のヨーレンさんの指示に従ってください」


 そう言ってフランが厨房へ連れていってくれた。魔物肉を仕込んでいたオバサンが振り向いた。


「今日からお世話になります。来翔と言います」


「はいよ! ギルドの酒場なんで客層は悪いけど、アンタは大丈夫かい?」ヨーレンが優しく微笑んだ。


「何とか頑張ります!」


 するとフランがヨーレンに耳打ちするように言った。


「ヨーレンさん、こちらの来翔さんはまだレベルが1だそうで、冒険者から絡まれた時は助けてあげてください」


「えぇー! アンタ、そんな歳までレベルアップしたことないのかい! どこぞのボンボンかい?」


「ハハハ、ボンボンではないんですが、強敵からはずっと逃げ続けてきたので、中々レベルも上がらないんですよね」


「まあ、賢い選択だよ。無茶して死ぬよりはマシさ。ある意味、今までレベルが1ってのは賢さの証明でもある。私はそんなアンタのことは嫌いじゃないよ」



 ◆



 来翔の酒場店員としての一日が始まった。


 朝は冒険者のほとんどがクエストへ出てしまうので酒場には誰も来ない。来翔は生活魔法を駆使して酒場をピカピカになるまで掃除し始めた。午前中のうちに酒場が見違えるほど綺麗になってしまい、フランとヨーレンが揃って唖然としていた。


「まさか来翔さんが生活魔法を使えるなんて……。どうして最初に教えてくれなかったんですか? 生活魔法が使えるなら、店員バイトよりもずっと稼げる仕事がたくさんありますよ?」


「ハハハ、僕は酒場店員でも良いんですよ。前にもフランさんに言いましたけど、勇者に会うためにここで働いているので、ギルドにいた方が会えそうですし」


 ランチタイムになると、冒険者というよりご近所の人たちやギルド周りで働く労働者が昼食をとりに集まってきた。この時間は酒を頼む者もなく、紅茶を煎れたり皿を洗ったりてんてこ舞いだったが、生活魔法のおかげでクオリティの高い紅茶が手際よく仕上がり、皿洗いも驚くほど効率よくこなせた。一連の動きを見ていたヨーレンが、初日からすっかり来翔を高く評価してくれた。


 こうして、来翔の酒場店員生活が静かに始まった。



 ◆



 一方、福島県ではダラス将軍が考え込んでいた。


 ゲルダを奥尻島へ送り出してから一ヶ月以上が経つ。ゲルダだけが帰ってこないのは理解できる。三百人の新鮮な人間を届けたのだから、王国がゲルダを歓迎して式典などで忙しくなるのは当然だ。白蜥蜴隊もゲルダと共に国中を回っているのかも知れない。だが、フェリーだけは帰ってくるはずだった。ゲートをフェリーは通れない。ならば相馬港に戻っていなければおかしい。


(ゲルダ達に何かあった)


 ダラス将軍は有能だ。感情に流されず冷静に損切りができる。ゲルダの救出を諦め、奥尻島の自衛隊ごとゲートを滅ぼして独占することを決めた。そのためには燃料棒が必要だ。


 人間兵から、青森の六ヶ所村に人類を1000回も滅ぼせるほどの核廃棄物があると聞いた。六ヶ所村からは奥尻島が近い。ダラス将軍はコモドドラゴン族のゾドンをリーダーとする黒汚染隊を五十人編成し、青森へと進行させた。



 ◆



 数日後、ゾドンと黒汚染隊が六ヶ所村に到着した。


 しかし、核廃棄施設は跡形もなく消えていた。穏やかな、何もない村がそこにあった。


 黒汚染隊の中には東大や京大出身者が多い。核廃棄物を扱うには専門知識が必要だからだ。彼らはすぐに答えを出した。過去に福島原発の燃料棒を使ったテロ行為を鑑みて、政府が世界一危険な六ヶ所村の施設を極秘裏に移転させたのだ。そして六ヶ所村を動かせたのなら、この国の原発は全て撤去されたと見るべきだと。


 ゾドンはあまり頭が良くなかった。どこかに原発が残っているはずだと言い張り、黒汚染隊に徹底的に調べさせた。だが、いくら調べても原発はこの国から綺麗に消えていた。


 燃料棒を諦めたゾドンと五十人の黒汚染隊は、国道四号線を南下して福島県へ帰ることにした。隊列を組んで行進していたその時、空から無数の矢が豪雨のように降り注いだ。


 矢は途切れなかった。あっという間に五十人の黒汚染隊員が全員、無数の矢を全身に受けて人の形をなさなくなった。


 唯一ゾドンだけが、矢が刺さりながらも致命傷を免れて身を屈め、ひたすら耐えた。


 やがて矢が止まった。


 ゾドンが背中に刺さった矢をシッポで払い落とし、二股の舌をチロチロと出して匂いを探っていると、何故か胸から血が噴き出した。


(撃たれたのか)


 胸を両手で庇いながら辺りを警戒すると、視界の中にゆっくりと歩いてくる二人の女が見えた。派手な貫通弓を持った女と、地味なコンパウンドボウを持った女だ。


 二人が弓を構えてゾドンへ矢を放った。無数の矢と貫通の矢がゾドンに刺さった。貫通の矢はゾドンを貫いた。もはや逃げる力も残っていなかった。


「やっとタコ助の仇を打てたわ。協力ありがとう」


 貫通弓の詩音がコンパウンドボウの桜井へ言った。


「いいえ。私も餌にされかけた恨みがありますから」


 ゾドンはその二本の魔法の弓を見て、ようやく思い出した。函館山で喰い残した二人だ。


(そうか……あの日、コイツらを喰い残したのが俺のミスだったか)


 そんな後悔の中で、脳天を貫通の矢が貫いた。


 この日、黒汚染隊は国道四号線の南下中に全滅した。



 



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