【第129話 道南の日常】
「クノン、君らはいつ帰るんだい?」
ゾーン団との最終決戦から二ヶ月も経って、江差の山も紅葉で真っ赤に染まっていたのにも関わらず、フェアリーたちはまだ来翔の家に泊まっていた。
「え? 良いじゃん! 私たちはこんなに小ちゃくて可愛いんだから、何人いても嬉しいでしょ?」
来翔は微妙な顔をして答える。
「うん……何もしないならいてもらっても構わないんだけどさ……」
来翔は、庭の巨大過ぎる赤トンボを見つめて呟いた。
「エリーの巨大化は今日から禁止します……」
それを聞いた女王クノンが、驚きの表情で答える。
「え? なんでよ!?」
「庭の巨大な赤トンボを見ても、クノンはおかしいと思わないのかい?」
「ダンバインみたいでカッコイイじゃん! 来翔もショウ・ザマみたいに赤トンボに乗ってみなよ!」
庭では巨大化されて戸惑って首を傾げている赤トンボがいるのだが、赤トンボはLEONをじっと見つめて捕獲してしまった。
「あ!」
来翔がLEONがトンボの前足で捕獲される瞬間を見て困惑した。隣では呑気にゲラゲラとクノンが大爆笑していた。
「クノン! 赤トンボは空の支配者なんだよ! 早く元に戻さないとLEONが喰われる!」
「え? LEONがトンボを食べる側なのに?」
「あんな巨大なトンボはLEONの舌では捕えられないだろ!?」
「あ、そっか……」
ところが、前足にガッチリホールドされていたカメレオン族のLEONは、その前足からバリバリと美味そうに食べ始めていた。
「ほら? やっぱり食べてるじゃん!」
LEONは巨大化した赤トンボを美味そうにバリバリと食ってるので、来翔も何も言えなくなったが、それでもクノンに食い下がる。
「でも、今回はLEONが食ってくれたから良いけど、あんな巨大なトンボを野放しにしたら、アチコチで人が行方不明になるだろ?」
「アハハ! トンボは人を食べないよ!」
クノンはますます笑い転げていた。
「食うよ! 昆虫って小さいから人を襲わないけど、本来なら地球で最強なのは昆虫なんだよ! だから、エリーには巨大化禁止と言ってくれないか?」
「え〜。それじゃつまんないじゃん!」
来翔もほんの少しだけ譲歩して答える。
「良し! それなら、食べ物限定で巨大化を許可します!」
クノンは首を傾げて不思議そうに答える。
「トンボも食べ物だよ? LEONが大好きじゃん!」
「そこから説明しなきゃダメか……」
来翔は項垂れてしまった。庭では巨大化トンボはLEONに喰われ、もう羽根しか残されていなかった……。
◆
江差の秋は、田吾作にとっても稼ぎ時でもある。何故なら、冬眠前のヒグマが一番活発な時期なのだ。この日も田吾作は、LEONと共に山に入っていた。
「やんや! LEON! その虫みてぇな妖精はなんなのよ!」
「アリャマ! 凄い、田吾作! フェアリーを見えるのか?」
「当たり前だべ! この! 保護色のLEONでも見えるんだど? オラに見えねぇもんなんてねぇ!」
そんな田吾作の言葉を聞いて、『隠蔽』スキルを持っているメモルにクノンが告げる。
「ねぇ。メモルなら田吾作から完全に隠れられるんじゃない? 試してみてよ!」
恥ずかしがり屋なメモルは、その場から完全に消えてしまった。メモルの隠蔽は、LEONの保護色や田吾作のかくれんぼとは全く違う。この世界から抹消されてしまうのだ。
ところが、田吾作は無造作に虚空の中からメモルを掴んでしまった。
「何やってんだ? おめぇ! ん? まさか、今のが『隠蔽』ってやつかい?」
クノンとLEONが愕然としてしまった。田吾作の手の中で、恥ずかしがり屋なメモルの顔が真っ赤になって呟いた。
「ほら? すぐにバレた……。恥ずかしいよぉ〜」
LEONは狩りの師匠である田吾作の事を、また一段階評価を上げていた。
(これが、本物の狩人なのか……)
そんなLEONがますます尊敬していると、田吾作がおもむろに松茸を見つけて採取していた。
「お? 松茸あったど。そういや、『巨大化』スキルあるやついたべ? インコばデッカくしてたもんな? この松茸もデッカく出来ねぇか?」
そんな田吾作の呼び掛けに、エリーがニコッと笑って答える。
「出来る! 出来る! ほら? 大きくな〜れ!」
すると、松茸は『巨大化20%』スキルで二十倍の大きさになった。
「アリャマ! 田吾作も私と同じことを考えた!」
「やんや! LEONもオラと同じことをしたんかい?」
「私は昨日、赤トンボを巨大化してもらった! 美味かった!」
「やんや! 赤トンボかい! とにかく、ここで巨大化されても困るから、小さくしといてくれや! 家に帰ったら巨大化してくれや! あとで栗も拾っておくかい? 妖精さんは松茸ご飯と栗ご飯なら、どっちが好きなんだ? 巨大化さえあれば、毎日、松茸ご飯も栗ご飯も食い放題だへさ!」
フェアリー達から、歓喜の声が上がっていた。
◆
一方、上ノ国ではワタルとチックルが、上ノ国のcudoというパン屋へ来ていた。
「お? チックル、今日はロールケーキがあるよ? 買ってこうか?」
「買う! 買う! きっとマーガレットも喜ぶよ!」
ワタルはパンとロールケーキを一本買ってから、家に帰ってきた。
家では、マーガレットとヒクイドリのファルコが待っていた。
「マーガレット。ロールケーキを買ってきたから、皆で食べようか?」
「あら? ロールケーキ? 良いわね。私が切り分けて来るわね?」
それを聞いたチックルが、プンプンに怒ってマーガレットを引き止めた。
「だめよ! マーガレットが切り分けちゃ!」
「あら? どうして?」
「だってマーガレットはお姫様だから、包丁も下手なんだもん! いつもケーキをグズグズにしちゃうんだもん! ワタルが切り分けてよ!お料理はワタルの方が上手いんだもん!」
そんな謎のこだわりのチックルを見て、ワタルとマーガレットが思わず笑ってしまった。
「良いよ。俺が切り分けるよ………」
ロールケーキを持ったワタルは「は!?」と立ち止まった。そして、ガレージにある魔法剣を持ち出してきて、刃をアルコールで念入りに磨き上げる。
「チックル。君の力を貸してくれ!」
そう言うとワタルは、ロールケーキを真っ二つに切り分けた。ロールケーキは綺麗に二分の一に切り分けられた。
「ほら? 決断剣なら正確な二分の一になるよ?」
さらに四分の一にカットして、皿にロールケーキを盛り付けてテーブルに並べた。
「平和な世の中になっても、この決断剣の使い道があって良かったよ。少しデカイけど、正確に二分の一にカットできるから、ピザなんかも今後は綺麗に切り分けられるね!」
チックルもマーガレットもニコニコ笑顔で、綺麗に切り分けられたロールケーキを美味しそうに食べていた。
そんな幸せそうな一家団欒の様子を、壁に立てかけられた魔法剣が静かに見守っていた。
(第130話へ続く)




