第16話 魅惑のギターソロ
ライブ会場に突然ワープ。
大歓声からの大音量。
イントロを聞いただけで、わたしはときめいた。
これは、新曲だ。
Yoshiel & The Follen を知ってから、わたしは曲をめちゃくちゃ聞きまくり、このライブのために学習してきた。
憧れのYoshiel様が、今、ステージ上にいる。
ノリノリのリズムにあわせて、腕を振った。
体全体で感じる音楽は、縦ノリだ。
新規参入のわたしでも、体が勝手にリズムを刻む。
左隣で、タルト先輩もノッテいる。
右隣のオクト部長は……、
腕を組んで眉間にしわを寄せ、石像のように動かない。
「部長! 一緒に曲に合わせましょうよ」
と、声をかけたところで、大音量に消されて届かない。
アリーナ席の最前列から三番目。
これは、非常に目立つ。
そして、曲は大人気のヒット曲へ。
これは、新規も古参も関係ない。
なんていい曲。
♪生きているなんて 遠回りって知ってる
いっそのこと 地獄に落ちればいいんだ♪
このときのYoshiel様、妖艶だ。
やばい、付いて行きたくなっちゃう。
♪君の魂は、さまよう子羊
僕に預けてくれないか
僕と堕ちてくれないか
この想いのありったけを 君に♪
キャー!
他のファンたちと一緒に、わたしも叫んだ。
「堕ちまーす。わたしも堕ちまーす!」
「チルちゃん、チルちゃん!」
「え? 何ですか? 先輩、聞こえませーん!」
「僕たち、もうとっくに地獄に堕ちてる側だからー」
「あ、そっかー! あはははは……」
オクト部長は、呆れたようにため息をついた。
そのとき、
一瞬だけ、Yoshiel様がこちらを見たような気がした。
「あ、こっち見た! Yoshielさまぁー!!」
曲が終わって、MCタイム。
「きょうは、君たちのために完全燃焼するけど、覚悟はいいかぁ?!」
キャー!
「いいでーす!!」
わたしは、Yoshiel様に向かって手を振った。
「ありがとう。さて、きょうは珍しい客がいるみたいだ……」
ファンたちは、ざわざわしはじめた。
「誰かな。一緒にコラボしたミュージシャンって、いたっけ?」
「さあ、ヨシフォーはあまり他と組まないけど?」
「ってかさ、前列で直立不動で立ってる、背の高いやつ。うざくね?」
「無反応で、Yoshiel様が怒った?」
「え、まさか……」
「まさか……あれは……」
Yoshiel様はギターを取り出して、静かな旋律を弾き始めた。
わたしの耳を通し、ハートに響くメロディは、はじめて聞く曲だった。
なのに、なぜかこの感じ、……懐かしくて優しい。
誰かの波動によく似ている。
この周波数……安心する……
……なんでだろう
部長の近くにいるときと、同じ感じがする。
「あ、間違えた」
Yoshiel様の指が、止まった。
「間違えたんで、やり直していい?」
会場からどっと笑いが起きた。
かわいいー。
こういうところ、なんだか、わたしの右隣で石像になっている部長と似ているんですけど。
そうだった。
実は、Yoshiel様とオクト部長は、兄弟だった。
そのとき、わたしは見た。
弾き直したYoshiel様のギターに合わせて、オクト部長の指が震えている?
いいえ、動いている?
え、まさか、コード進行を完璧に覚えている?
「あ、ダメだ。やっぱりこの曲は、僕には弾けない」
Yoshiel様が、諦めてギターを降ろしたその瞬間。
「……」
オクト部長の指が、わずかに動いた。
「……っ」
一歩、前に出た。
「……俺に任せろ!」
オクト部長が、上着を脱いでステージにあがろうとした。
警備スタッフが慌てて止めに入る。
「今日のサプライズゲスト、オクトでーす!」
Yoshiel様の発表に、会場は「おおおおおお」と湧いた。
オクト部長は、スタッフをふりほどく。
Yoshiel様が手を貸さなくても、ヒョイとステージに飛び乗った。
「おおおお!! オクト―――!」
オクト部長は、ネクタイを外し、こっちに投げてきた。
わたしとタルト先輩が受け取ろうとしたが、他のファンの子にネクタイは取られた。
「あ、ネクタイ……」
(ちょっと欲しかった……)
「チルちゃん、しょうがないよ」
「だって」
オクト部長は、白いワイシャツの裾を、スラックスから出した。
まるで、ロックスターのようだ。
「俺に貸せ。弾いてやる」
「言うと思った。この曲は、お前じゃないと弾けないんだよ」
再び、ギターの静かなイントロが始まった。
今度はオクト部長のギターだ。
「オクトがメンバーだった頃の古い曲だけど、聞いてください。
『Endless work』」
え、残業がテーマなの?
♪何を奏でればいい? 君の胸に残るには
不確かなことばかり 増えていく
どんなに遅くまで残ろうと
奏でし歌声は響く 残業 ♪
いや、この曲、未来を予測してたの?
「……ねぇ、チルちゃん」
「はい?」
「部長ってさ、ヨシフォーの元ギタリスト」
「え?」
「初期のメンバーだよ。古参のファンにとっては神だから」
「え、悪魔なのに?」
ラストのコーラス部分は、Yoshiel様とオクト部長が一緒に歌っている!
仲良く、ひとつのマイクに寄り添って……
えーーーー、ええーーーーっ!
わたしの脳は、情報過多でバグった。
「チルちゃん、倒れないでねー。あ~ぁ、また白目むいちゃってる……」




