2章38節
2章完結まで連続投稿中
前話を未読の方は、2章36節よりご拝読願います。
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富士ダンジョンは、もう背後にあった。
帰還ポータルを抜けた瞬間、
あれほど重かった空気が、嘘のように軽くなる。
それが、ヤチヨには少しだけ――怖かった。
「……終わった、か」
口に出して、ようやく実感する。
ヴォルカニクス=エコー・ドラゴン。
富士のラスボス。
あれを倒したという事実は、
誇りよりも先に、疲労として体に残っていた。
虎嘯大曲剣を、壁に立てかける。
剣は静かだ。
あれほど暴れていたくせに、
今は何も言わない。
「……お前も、満足したか?」
問いかけても、返事はない。
それでいい。
ヤチヨは、椅子に腰を落とし、天井を見上げた。
盾が、脳裏に浮かぶ。
曳舟八紘――ヤヒロ。
最初に見たとき、
壊れかけだと、一目で分かった。
焦点が合っていない目。
目的と手段が、少しだけずれている感覚。
それでも。
最後の戦いで、
あいつは――守った。
誰かを殺すためでも、
自分を証明するためでもなく。
ただ、
仲間が死なないように、立ち続けた。
「……ああいうのは、ずるいよ」
小さく、吐き出す。
自分はどうだった?
強くなりたくて剣を握り、
生き残るために斬り、
気づけば、斬ること自体が目的になりかけていた。
あのワイバーン戦。
一瞬、
「全部、壊してしまえばいい」と思った。
それを、
盾が止めた。
正確には――
盾の在り方が。
「守る、か……」
昔の自分には、なかった選択肢だ。
ユイの姿も思い出す。
無口で、淡々としていて。
それでも、弓を引くときだけは、迷いがなかった。
エリクサーを手にしたときの、
あの崩れ方。
あれを見てしまった以上、
この旅が「ただの攻略」だったとは、もう言えない。
ツダもそうだ。
あいつは、全部分かっていて、
それでも言わなかった。
モノクルのこと。
罪のこと。
七つの大罪という、歪んだ共通項。
「……ほんと、性格悪い」
けれど。
だからこそ、
今のこの歪なパーティが成立している。
ヤチヨは、剣に視線を落とす。
傲慢。
力を振るうことを正当化する罪。
それを背負った自分が、
これからも前に出ていいのか。
答えは、まだ出ない。
ただ一つ、はっきりしていることがある。
「……あの盾が折れるまでは」
自分は、剣を振るう。
守る者がいる限り、
壊す役割は、誰かが引き受けなければならない。
それが、
自分の罪だとしても。
ヤチヨは立ち上がり、
虎嘯大曲剣を背負った。
富士は越えた。
だが、
七つの罪が絡む物語は、
ここからが本番だ。
そう、静かに理解していた。
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