DAY49 重なる影、守る嘘
太陽ゆっくり沈んで
辺りに影を落としていく。
光は狭まり、
影を長く伸ばしながら、
1日を仕事を終えるように、
辺りが暗くなっていく。
一馬は地下2階で身を潜めている。
休憩所兼事務室、
…のような場所で待機する。
軽く周囲を片付け
息を殺して床に座っている。
一馬は今回、
無駄に動くのを辞める事にした。
理由は、変電所の違和感と、
空調ダクトから見えた、
何か分からない存在。
もう一つは、
”死亡ペナルティ”がある時点で、
無駄死にする理由が無い。
夕焼けが、闇へと切り替わる。
足元の非常用パネルだけが、
建物内に灯っていく。
一馬は地上2階の様子を、
下から確認してみる。
一馬(高さもあるし、見えないよな…。)
一馬は大人しく
床に座り静かに身を潜める。
ガサッ
一馬「!!!」
ガサッガサガサガサッ…
一馬はガラスの隙間から、
周囲の様子を見渡す。
特に空調用のダクトを注視して見る。
一馬(来た来た…)
スキャヴァーが空調ダクトから、
這い出てくる。
高さがあるから、
空調ダクトは小さく見えているが、
実際の所、スキャヴァーは楽々通れる大きさ。
違和感の正体、
これで一つの嘘が消されていく。
一馬(トーマスは、
スキャヴァーを、
建物内の地下への
侵入経路を塞いで閉じ込めた。
被害を最小に…
そう説明していたが…)
実際には閉じ込めてもいないし、
出入り自由のフリースペース。
一馬(スキャヴァーの巣?変わり?…。)
ここでもう一つ、
疑問が頭をよぎる。
一馬(今トーマスは
怪我をしているのか?何をしているんだ?)
ドォーン
ドォーン
銃声音が反響している。
一馬「なっなん…」
思わず声が出そうになる。
暗い場所にも目が慣れてきた。
目を凝らし、
銃声の方を観察する。
光が顔に影を落としている。
男が慎重に歩いている。
周囲を見渡す男に向かい、
小さな影が近づいていく。
一馬(えっ?)
一馬は目を見張る。
体格は3歳から4歳ぐらいの子供。
しかし、トーマスに近づき、
床のゲル状の人間に食らいつく瞬間…
一馬(はっ!?
スキャヴァー?
いやいや、違う違う違う、
手足が違う、ヤモリよりは…)
一馬「……蜘蛛…。」
**********
トーマスは子供のような
蜘蛛の傍を片時も離れない。
子供を守る様に、
周囲を警戒している。
食べている姿は、
はっきり見えないが、
ゲル状の部分を食べている。
一馬は息を殺し、
様子を見ている。
カチンッ
体勢を動かした瞬間、
体勢を崩してしまう。
ナイフを持っていた
手を床につけてしまう。
トーマス「誰だっ!!」
一馬(やばいやばいやばい、
あーバカバカバカバカバカ、
なんてお茶目な失敗をぉぉぉ。)
一馬は大きく息を吸う。
一馬「トーマスか?」
トーマスは虚を突かれる。
一馬「ジョーカーの依頼で来た!
あんたの兄貴だろ?安否の確認を頼まれたんだ。」
トーマス「……手を上げて出てこい。」
トーマスの警戒心が伺える。
緊張感が高まって、
空気が重く感じる。
一馬「OK!わかったよ。
撃つなよ!今から立つから。
撃つなよ?いいなっ!ねっねっ!」
トーマス「うッうるさい!
さっさとしろ!
下手な真似はするなよ。」
両手の平を相手に向けながら、
ゆっくり立ち上がる。
トーマスが近づいてくる。
トーマス「少し下がれ。
下手に動くと手元が狂うぞ。」
一馬は言葉に従い、
大きく1歩下がる。
トーマスは
扉を雑に開け放ち、
少しずつ下がっていく。
トーマス「出てこい。
何をしていた?何故ここにいる?」
一馬「依頼だよ、い・らぁ・い!
あんた達が変電所修理にいって
2週間ぐらい返ってこないってジョーカーが。」
事実も含まれているが、
一馬は適当に話をでっち上げる。
一馬はトーマスの
顔色が変わるのを感じる。
一馬「ジョーカーが、
怒ってたんだよっ!」
一馬はトーマスの反応で、
かまをかけてみる。
トーマス「えっ?」
一馬(きたぁぁぁぁぁぁー、
兄弟間のヒエラルキーマウントきたぁ!?)
一馬のスキルが発動!
一馬は前回の記憶を反芻しながら
トーマスの人物象を分析する。
一馬「そうだよぉー!いい迷惑だよ!
あんたの兄貴怖すぎだろ!
スキャヴァーはいるし怖くて隠れてたら
ショットガンで脅迫とかマジあり得ない。
絶対言いつけてやる!絶対!」
トーマス「ああああ悪ぃ悪ぃ!
脅かして悪かった許してくれ。」
前回と同様、
警戒心MAXでの顔合わせ。
しかし、それ以降は、
意外と協力的で、いい奴の印象があった。
さらにジョーカーへの反応は、
習慣的に刻まれた従属関係。
一馬は周囲を見渡す。
子供のような蜘蛛がいない。
トーマス「なんか見たのか?」
トーマスの雰囲気が変わる。
うろたえてた男の
雰囲気とは真逆の殺気が感じられる。
一馬「怖くて隠れてたのにー。
何を見るんだよぉー
なんだよスキャヴァーとか、
見るの初めてだしぃ」
一馬はピエロを演じる。
トーマス「わっ悪い。
と、とりあえず上に上がるぞ。
スキャヴァーが入ってくるから。」
一馬はトーマスと、
前回の地上2階に休憩室に向かう。
**********
トーマスは通常のルートを使い、
2階まで上がっていく。
一馬は、その後ろをついていく。
実際には、
建物の入り口以外開放されている。
一馬(防火扉を閉めていただけだったのか…)
出入りは自由で、
思い込みで勝手勘違いしていた。
しかし前回、
口裏を合わせた
トーマスがいた事実…
ここでもトーマスの嘘が判明した。
2人の足音だけが響く廊下。
休憩室に向かう、
長い廊下を歩きながら、
改めて建物の上を観察する。
空調調整用のダクトが、
張り巡らされていて、
移動し放題だと言うことがわかる。
しかし
スキャヴァーの大きさでは難しい。
一馬(子供の大きさなら…)
一馬とトーマスは
休憩室に入りひと息つく。
一馬「トーマス、事情を話してくれよ。
なんで戻って来ないんだ?他の奴等は?」
トーマスは口を濁し、
黙んまりを決め込む。
言い訳を探してるのだろうと、
一馬は仮定して話し出す。
一馬「それより…
あの子?は、どこに?」
一馬はカマをかける。
トーマスの目の色が変わる。
驚きと戸惑いに、
みるみる目頭充血する。
焦りと緊張でトーマスは、
戦闘態勢に入ろうとし、
ショットガンに手を伸ばす…その瞬間。
カチリッ
一瞬速く、
一馬は体制を整え、構える。
一馬「動くな…。
……トーマス……正直に言えッ」
一馬は自然と隼人をイメージし、
声を落とし、銃をトーマスに向ける。
トーマスは睨みつけながら
中腰で固まっている。
先程とは変わり、
立場が逆転する。
ドンッ!
一馬がトーマスの足元に、
威嚇の為、銃弾を撃ち込む。
一馬の立ち姿や、
立ち振る舞いは、
隼人姿…そのもの。
構えや視線や…そして雰囲気までも…。
当然、この世界線の
トーマスは、隼人を知らない。
しかしトーマスには、
死線を乗り越えた、
プロフェッショナルが、
目の前に立って、銃を構えてるように映る。
生き死にを、
潜り抜けた者の威圧感を、
トーマスは肌で感じ取る
出会ってまだ浅い隼人を、
一馬は良く目で追い観察し、
時には、兄のように信頼を寄せていた。
隼人の影が一馬に重なる。
一馬は自然と、
立ち回りと口調を真似し、
トーマスに畏怖を与える。
トーマスには先程、
怯えていた青年には、
もはや見えてはいない。
トーマスの額から、
冷汗が流れ、あごを伝い床に落ちる。
一馬が短く鋭く、口を開く。
一馬「これで最後だ…言え!」
トーマス「……。」
「お?…おと…ちゃん…」
!!?
一馬が反応し、
拳銃を声の方向に向ける。
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拳銃の残響が、
虚しく夜の空気に溶け込んでいく。




