#40. 天敵/ゴルトライザー
状態異常『毒』──防御力関係なしに、一定のダメージを一定の速度で与えてくる厄介な状態異常だ。
エルドの狙いは魔法でも物理攻撃でもなく毒殺。
地味だけど、こんな大イベントで毒死なんてかっこ悪い──そう思って剣を抜こうと前に出たが、エルドに肩を押さえ込まれ、剣がさらに深く刺さる。
ぐり……と白い刃を身体に深く押し込まれると、吐き気すら覚える気持ち悪い嫌な感覚が走って思わず藻掻いてしまう。
これが毒に侵される感覚なのかな……うっぷ。
ゲームだから痛みは無いとはいえ、自分に剣が刺さってる光景はなかなかショッキングだ。
じわじわと減少していくHPゲージに目をやると、その上に毒のアイコンが表示されている。
……全く明滅していない。毒状態の継続時間が減ってないんだ。
ということは、今まさに突き刺さってる剣が毒属性を持ってて、刺しっぱなしだから毒を受け続けてるってわけか。
「それなら……【ダストワール】!」
「おっと、危ないなぁ!」
範囲攻撃でエルドを牽制、距離を離す。
マズいな……コユもこれ以上MPを使うわけにはいかないし、私も残りMPはスキルを一度だけ発動できるくらいしか回復してない。
それに──。
「HPの減りが速い……ただの毒じゃないですね」
「ご明察。この《白魔剣【悪毒】》はお前達が未だ辿り着けない第三ダンジョンの先で手に入れたものだ。毒の上位互換『劇毒』を付与する。あの時竜翼のチビにブッ壊されたが、まったく過去の僕は用意周到だ! 予備を持ってて本当に良かったよ! おかげでお前に勝てるッ!」
「……勝てる? 何言ってるんですか……勝つのは私ですよ? ようやくここまで来た……ここで勝てたら凄く楽しくなる!」
──いつもいつも、いっつも思惑通りに行かない。
隠しダンジョンを攻略しても生配信急上昇ランキングの1位に届かなかったし、エクスユニルのノーダメクリアも《血鬼夜行》やツバサ達、そして《キャラバン》の第三ダンジョン攻略に話題を持っていかれたし。
どんな凄いプレイヤーなんだろうって思ったら、目の前の男は嫌な奴だし……なんでこんな奴に負けなきゃいけないんだ。
「……それにしても、よく私の攻撃に耐えられましたね」
コユにアイコンタクトを取ると、私の意図を察してくれたのかエルドに気付かれないよう小さく頷いた。
私はチェーンソーを薙ぎ払って、エルドの注意をこちらに向ける。
「【光帳加護魔法】……いわゆるバリア。僕の奥の手さ。お友達のエクスプロージョンにも耐えられる」
「それで生き残れたのか……でもそんなスキル、連発できないですよね。次の攻撃は耐えきれませんよ」
「いいや、耐えられるさ」
あれだけ仲間がほぼ一撃でやられていったところを見ているはずなのに、エルドはそう豪語する。
「死んでドロップした僕の金を相手に拾われるなんて絶対にゴメンだ。だから僕はVIT、RES、LUCに極振りしている。スキルも被ダメ軽減、HP上昇、リジェネ……ほとんど生存アビリティ系で揃えてる。これだけ生存特化なら相手がどれだけ高い火力で殴って来ようが耐えられる……! 耐えて耐えて、相手が毒で死ぬのを待つ!」
大袈裟に手を広げてそう言ってのけた。
見るからに無防備、自分から隙を見せてきたな。
それだけ防御力に自信があるってことか。
いざ自分が戦うとなれば、エルドはたとえソロでも相手に勝ってきたのだろう。
「アハハハッ! 完璧な戦術だろ! 卑怯だなんて言ってくれるなよ? これはゲームで、この戦い方だって正しいんだからなぁ!」
あぁ、もう勝った気でいるのがムカつくな。
でも耐え凌いで毒殺……それが彼の必勝法なのだ。
毒……対策してなかった。
どう戦えば……どうやって…………いや?
確かに毒はめんどくさい……けど、待って。
「…………あれ?」
なにか、引っ掛かる。
ダメージの通りが悪くて、それなのにHPが高くて、さらに自動回復持ちの……生存特化……?
私の勘違いでなければ、もしかして。
いや、勘違い、間違いなんかない。
それは私の経験が否定していた。
つまり、間違いなく私は勝てる。
「あぁ、そっか。なぁんだ……そんなことだったのか」
「どうした? 自暴自棄ってやつか?」
「いや、それって攻撃力のないカリカーンじゃないですか」
「は……?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、エルドはその場で固まった。
防御力に優れ、最大HPが多く、自動回復までする……それはまるっきり《濫伐者カリカーン》だ。
違うところと言えば、カリカーンと違ってこの男は攻撃力がほとんど無い。
毒ダメージに頼るしかないのだ。
「まだ気付いてないんですか? 死んでお金がドロップしちゃうのが嫌で、そんな生存特化にしちゃったんですよね? 自分が死ぬ前に相手を倒すんじゃなくて、相手が死んでくれるのを待つスキル構成と装備にしちゃったんですよね?」
「……そ、それがなんだよ」
「この私を前にして、そんな装備で大丈夫ですか?」
チェーンソーがグルルンと唸り声を上げると、その攻撃を受ける気満々だったエルドの表情はみるみるうちに血の気が引いて青ざめていく。
「…………ぁ」
エルドが誤ちに気付いた時にはチェーンソーの刃が肩を抉り、赤いダメージエフェクトと黄金に煌めくゴルトコインが血潮のように噴き出した。
「ゴルトライザァァァァーーッ!!!!」
【コイントス】のバフでゴルトドロップ量はかつてないほど上昇してる。
加えてチェーンソーの連撃──ドロップするのは1Gどころじゃない。
1ヒットで100Gか200G……連撃効果で10ヒットでもすれば、一千もの黄金の大雨が降り注ぐ。
「あっ、ああああああぁぁッッ!!? 僕のッ、僕の金だぞ!? やめろ、こんなこと許されるかっ!! 許してたまるかッ!」
「【ゴルトライザー】はこのゲームが許してる。あなたがやってた集団PKだって、ゲームは許してた……」
許されないのは、そこに悪意があるかどうかだ。
「──でも、あなたが貯め込んだこのお金は、ユヅキさんにプレイヤーを襲わせて稼いだものでしょ! 私達を襲った時みたいに、最後の一撃だけ自分が担当しただけだ! ユヅキさんの声を聞かず、強制して稼いだものだ! そんなの楽しくなんてない、そんなのゲームじゃないッ!」
「──ッ! そんなことはどうでもいい! 俺が稼げさえすれば……ッ!」
もう一撃、チェーンソーを振りかざす。
いや、もういい。適当でもいいから振り回す。
攻撃スキルなんて使わない。
なるべく長く、この攻撃が続けられるように。
【ゴルトライザー】が発動するように、ヒット回数だけを稼ぐ。
「やめっ──ああぁっ……クソッ! なんで毒っ、遅せぇよ! クソッ! クソォッ! 早く死ねよぉっ!!」
弱々しく振られる白い剣は乱雑に振り回したチェーンソーに打ちのめされ、弾き飛ばされた。
「──この程度で死んでたまるかッ! あなたも死なないでしょ! ほら! これも、これも、この攻撃もっ! 決定打にはならないッ! あぁっ、さすがタフですねぇ!」
「あっ、やめ……! ああぁっっ!」
「ほらほら、さっきまでの威勢はどうしました!!」
「もうない! もうねェよ! 1ゴルトも残っちゃいねぇよっ! だからっ、もう、攻撃しないでくれよォォ!」
「あぁ、そうですか。分かりました」
「……へ?」
ぬかるんだ地面はもう黄金に埋め尽くされてしまった。
多分、ゴルトがゼロになったというのは嘘だろう。
私を油断させて攻撃チャンスを作るつもりなのが視線で分かる。
でも、これ以上搾り取るのは流石に可哀想だ。
この辺でやめてあげよう。
ただし、私は──だけどね。
「まぁ、私はもう攻撃しませんが……親友が怒り心頭でして」
「な、何の話……」
「ほら、あの子……爆発好きでしょう? 防御されちゃったのがけっこう頭に来てたみたいで……さっき詠唱が終わったところなんです」
「は? ……っ! まさかエクスプ────!!」
目を見開いたエルドが空を見上げた時、既にその目と鼻の先には閃光する雫のようなものが落ちてきていて。
イベント開始直後にも見た光の雫を目で追ったエルドは、防御手段をもう使ってしまったことを思い出したのか、私を睨んでなにか悪態を吐こうとしていたが──。
「 」
どんな言葉も、鼓膜を破りそうなくらいの爆発音によって掻き消えてしまった。
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それでは次回も楽しんでいってください!
──GOOD LUCK!




