#39. 勝つのは私達だ
スキルを発動した瞬間、《焔輝刃ロア・ゼロス》はエンジンの内部構造が発光。熱を持ち始める。
熱い白煙を噴出し、私とコユを包み隠した。
「なんだ? ……いや考えるのはあとだ。魔法隊! 撃ちまくれ!」
そう声を上げたのはエルド。
今度の水属性魔法は私達をしっかり狙っていて、白煙を突き破ってくる。
けど、もうそんな攻撃は問題じゃない。
矢のように貫かんとする水球が、白煙もろとも黒い剣によって薙ぎ払われた。
「……は? なんだ、それ……?」
目を見開いたままそう言葉を漏らしたエルドは、掻き消された白煙の中から現れた浮かぶ6枚の黒剣から目が離せなかった。
「さあ、何に見えるかしら」
「……っ! 剣に変形……? そんな訳ない……晦冥の付属スキルは〝起動〟と〝加速〟の2つだけのはずだ……! それは防具も装備できないクソ武器だろ!?」
「そうね。本当に嫌なデメリットだわ」
コユの周囲にふわりと浮かぶのは、エクストラスキル【変形】によって1枚の大盾が6枚の薄い板に分離・変形したものだ。
それはさながら剣のようで、大盾には見えない。
「……ハッ! タンクがアタッカー気取りってか! 守り手がいないんじゃあもう死ぬしかないねぇ!」
そう言って、近接武器を持った前衛職を全員透明化させたエルド。
さらに容赦なく、魔法攻撃は続行してくる。
物量で押し切るつもりだろう。
──でも、関係ない。
お前達は知ることになる。コユの凄さを。
《機械仕掛けの晦冥》は付属スキルがある武器としては名の知れた盾だけど、これが多くのプレイヤーから嫌煙された理由は防具装備不可のデメリットだけじゃない。
その操作難易度が一番の理由だ。
コントローラーなんて便利アイテムはない。
ひとつひとつ、イメージしなきゃいけないんだ。
目まぐるしく状況が変わる戦場で盾の動きを正確にイメージして操作する。
タンク役として敵の攻撃を受け止めるなら距離感やタイミングも重要になり、盾に乗るのであれば加えてバランス維持が必要だ。
そんな大盾だから、まともに使う人なんていなかった。
誰にも見向きされない盾だったから、コユはそれを極めた。
「魔法だろうとプレイヤーだろうと、カナメには近付けさせない!」
6枚の黒剣が踊るように宙を舞う。
飛来する魔法攻撃を打ち消しつつ、コユは透明化プレイヤーの足跡を見逃さずに剣を振り払う。
1枚の大盾を操作するのだって難しいのに、コユはそれを6枚に分けてそれぞれを自在に操っていた。
「ダメージがえげつねぇ! こいつホントにタンクか!?」
「おい! そっちに剣行ったぞ!」
「盾だろ!?」
透明化していたプレイヤー達がそんなことを言う。
縦横無尽に飛び交う黒剣は迫る透明化プレイヤーのHPを恐ろしい勢いで削っていた。
その様子に、エルドは唖然としながら頭を掻きむしる。
「なんで……なんでだよ……! 見えないんだぞ……!?
見えないのに、なんでそこまで出来るんだ!?」
なんでと言われても、地面がぬかるんで足跡は見えるし。
それに《機械仕掛けの晦冥》の装備条件に高いSTR値が要求されるから、筋力・物理攻撃力を上げるSTRと、MP・魔法攻撃力を上げるINTの極振り型にしているコユは攻撃特化モードである【変形】時の火力が光る。……としか言いようがない。
あの6枚の黒剣は言うなれば《黎明剣》だ。
「……【顎】!」
「もうその手には乗りませんよ、ユヅキさん!」
透明化したユヅキさんの攻撃をチェーンソーで受け止める。
すると、制限時間が過ぎたのかユヅキさんの透明化が解除されて、ようやく顔が見えた。
「……楽しそうですね、ユヅキさん」
剣を振る時の気迫は相変わらず肝が冷えるけど、透明化が解除されたユヅキさんは少し……笑っていた。
「凄いよ……この人数相手に戦えてるなんて……《機械仕掛けの晦冥》に3つ目のスキルがあったなんて知らなかった……あの子以外にあの盾を使いこなせる人がいないなら、それはもう普通のエクストラスキルじゃない……ユニークスキルだよ……!」
「ちょっ、コユのことばっかりじゃないですか!」
「カナメちゃんはこれから見せてくれるんでしょ? だって言ってたもんね……楽しもうって。だったら楽しませてよ、私に『ゲームが楽しい』って思い出させてっ!」
爛々と瞳の奥を輝かせ、後方へ飛び退く。
はらりと艶のある黒髪が揺れて、刹那、ユヅキさんは青い雷を纏った。
帯電してる……?
コユの大盾に3つ目のスキルが付属してたなら、ユヅキさんの刀にも3つ付属していてもおかしくない。
「……ちょうど終わったところですよ」
熱く滾ったチェーンソー。
柄を握りしめると、私の手に光の筋が通っていく。
まるで血管を伝って光が昇ってくるようなそれが《焔輝刃ロア・ゼロス》の付属スキル【限界加速】。
「カナメごめん、もう持たないわ……っ!」
「おーけー、あとは任せて」
コユの【変形】はMP消費量も多いうえに、6枚を同時操作しなきゃいけないからコユ自身に疲労が溜まる。
それでも透明化した前衛職を薙ぎ倒し、《キャラバン》の残りプレイヤーを10人まで削ってくれた。
「おいユヅキ、一旦戻ってこい! 透明化の射程外に出るな!」
「うるさいなあ!! これだけ数を減らされたらロクに目隠しもできない! さんざん水魔法撃ったせいで下がぬかるんで足跡残るし、もう透明化したって無駄でしょ! バカ!」
「ば……バカ!?」
ユヅキさんはまさかの断固拒否。
……いや、当然か。
これは赤バンダナを被ったあのギルドマスターと同じ、ゲーマーの性だ。
勝ちたいという本能が萎縮していたユヅキさんの心を前へと押し出した。
でも、私はユヅキさんに謝らなければならない。
勝ちたいって思ってくれているところ申し訳ないけど──。
「──勝つのは私です!」
「私だって勝ちたいっ!」
赤熱するチェーンソー。
熱い白煙を噴き出し、背中を押されるような感覚に私は足を踏ん張る。
対するユヅキさんは全身に纏っていた青い雷が刀身へ集束──青い刃が輝く。
「──【神雷】ッ!!」
先に動いたのはユヅキさんだった。
その瞬間、ユヅキさんのHPが何割か……半分もいかないけどかなり削られる。
MPだけじゃなく、HPも削って発動する自傷技だ。
青い刃が閃光し、ユヅキさんは一瞬のうちに私の懐へ潜り込んでくる。
HP減少のデメリット──スピードが桁違いだ。
ダメージも相当なものになるだろうし、普通なら私はとっくに首を斬られていたはずだ。
「まだそんな大技を隠してたんですね」
「……ッ!? 受け止めた……!?」
神速の一撃──輝く青い刃は私の首まであと一歩、数センチのところでピタリと動かない。
赤熱するチェーンソーは【神雷】を難なく受け止めていた。
【限界加速】──。
これは自身のバフ効果を倍化させる効果を持つ。
つまるところ、【コイントス】で付加しまくったバフが徐々に上昇……最終的に倍の数値に膨れ上がる。
「【ダストワール】ッ!!」
上がりまくった攻撃力で範囲攻撃スキルを放つ。
【コイントス】……防御無視30%、倍化。
【コイントス】……命中率40%、倍化。
【コイントス】……攻撃範囲45%、倍化。
防御なんて許さない、回避なんて許さない。
──だって、勝つのは私達だ。
確定クリティカルによって真っ赤に閃光するライトエフェクトは、蒸気を発しながら周囲の木々をも薙ぎ払い、暴風を巻き起こしながら赤い光の軌跡が瞬いた。
「──すごいよ……カナメちゃん……っ」
腹部に付けられた大きな赤いダメージエフェクトを見下ろしたユヅキさんはそれだけ言い残して光となり、ポリゴン体が砕け散った。
ユヅキさんだけでなく、攻撃範囲倍化で残りのタンクや魔法使いすらも両断。
いくつもの人魂が揺れるなか、私は口から蒸気を吐き出した。
【限界加速】の効果終了。
これのデメリットは30秒しか発動できないことだなぁ……あとめちゃくちゃ熱い……。
まぁ、とは言えリベンジ成功だ。
私達は《キャラバン》に勝っ──。
「…………ぅえ?」
突然、不快な感触が胸の辺りを襲った。
視線を落としてみると、なぜかダメージエフェクトが散っている。
赤いプリズムのようなものがパラパラと、滴る血のように。
「奥の手なら、こっちにもあるんだよ……」
「エルド……ッ」
背後から聞こえてきたエルドの声と共に透明な剣が姿を現す。
私の胸を背後から穿いたのは、真っ白な両刃の剣だ。
でも、これは……ダメージを受けた時に感じる不快感だけじゃない。
この吐き気すら覚える気持ち悪さは……まさか──。
「毒か……ッ!」




