029 - ありす -
029 - ありす -
俺の名前はレオ・タァド・・・いや、今はローリー・コーンだ、短命種の28歳、成り行きでとある組織に入っちまった。
今俺は組織所有の輸送船・・・に偽装した研究船の中に住んでるが予想以上に快適だ、清潔な船内、美味い食事、寝心地のいいベッド・・・。
今までは俺の持ってたボロ船の操縦席や床で寝てたから身体が痛かった、だがその船も既に宇宙の塵になってしまった。
俺は今、第8実験エリアでそこの筆頭研究員の手伝いをしてる、昨日に続いて今日で2日目だが・・・正直やべぇ!。
「もうすぐだねローリーさん、隔離室内のマイクをお願い」
「分かった」
ぽちー
「あぁぁ!、痛いっ!痛いよぉ!」
指示通り操作卓のスイッチを入れるとスピーカーから隔離室の音声が流れた、そこには金髪の女が手術台みたいなベッドに手足を拘束されている。
女は首輪をして防護服を着てるから宿主だろう、身体にピッタリとした防護服に包まれた女の腹は大きく膨らんでいる。
「まーだかなぁ、まーだかなぁ」
俺のすぐ隣には若い男が座っていて強化ガラスで仕切られた隔離室の中を楽しそうに眺めてやがる。
「わあぁぁん!、痛いの!、お願い殺して!」
操作卓のスピーカーからは女の悲鳴が聞こえる、ずっと叫んでたんだろうな、声が枯れちまってる。
「ねぇローリーさん、確認だけど実験体の首輪は虫が体外に出ようとしても毒の注入はされないよね」
そんな事は当然知ってる筈の男が俺に尋ねる、俺はカルテを眺めて答えた。
「首輪への指令と通信は全て無効化されている・・・と書かれてるな」
「そう、なら問題無いね、彼女の死亡は星団には行かない・・・つまりどういう事か分かる?」
何でこいつはこんなに楽しそうなんだよ!、俺達の目の前では宿主の腹を食い破って今まさにベンダル・ワームが出て来ようとしてるのに・・・。
「さぁな、ろくに勉強なんてしてない俺には分からねぇな」
「ふふっ・・・」
「ぎゃぁぁぁ!」
男が答えを言う前にスピーカーから大きな悲鳴が聞こえた、俺達は強化ガラスに目を向ける。
「ごほっ!、げぽっ!」
女の膨らんだ腹が激しく波打ってる、どうやら腹を食い破ってベンダルが出て来たようだ、だが防護服に阻まれ外には出ていない。
「・・・」
もう女は悲鳴を上げてない、口から大量の血を吐いて動かなくなった・・・死んでるのか?。
「防護服は・・・1世代前のベアトリス37型かぁ、なかなか優秀な強度だねっ!」
そう言って俺に輝くような笑顔を向ける男・・・背中まである真っ白な長髪、少し垂れた銀色の瞳、線が細くまるで少女のような男の名前はアリス・テキーラ。
俺と同じでもちろん偽名だろう。
「ローリーさんっ、虫が外に出るお手伝いをしよう、使い方は分かる?」
「あぁ、昨日教わったからな」
かたかたっ・・・ぽちー
俺は卓に備え付いてる端末を操作して首輪で封印されている防護服を遠隔操作で解く。
しゅぅぅ・・・
防護服の首元が緩んだのと同時に胸元から2匹のベンダルが這い出して来た。
幼虫から成虫になりかけの真っ黒い身体に節のある6本の足、背中には触手が蠢いてやがる・・・あれが俺の腹にも入ってると思うとゾッとするぜ。
「キシャァァ!」
「いやぁぁぁ!」
今ベンダルを見て叫んだのは死体になった女のすぐ隣・・・並んだベッドに仲良く拘束されていた全裸の少女だ。
防護服も着ていないし首輪も無いから宿主じゃない、黒髪黒目で耳は尖ってないから短命種だろう・・・見た感じ10代半ばってところか?。
「やぁだぁ!、来ないで、来ないでぇぇっ!」
じたばた・・・
少女を認識したのかベンダルが女の死体の胸元から隣のベッドに飛び移る、少女は半狂乱だ・・・激しく暴れてるから手を拘束している枷が擦れて手首から血が滲んでる。
「ローリーさんはまだ知らないかなぁ・・・ベンダル・ワームの本当の恐ろしさ」
「あ?」
アリスがニヤニヤしながら俺に言った、何だよ?。
「ほらよく見ててー・・・あ、その前に実験体その2の測定値はきちんと記録できてる?」
俺は卓のモニターを見た、記録中と表示されてるな。
「大丈夫そうだぞ」
「そう、それなら問題無いね」
「・・・」
「嫌ぁぁぁ!」
「キシャァァァ!」
ベンダルが少女の胸元に辿り着いた、成虫になったばかりだが予想してたよりでかい、足を広げたら少女の肩幅くらいあるんじゃないか?。
「んぐぅ!」
「ベンダルが顔に張り付いたぞ!」
「うん、そうだねー」
驚く俺にアリスが他人事みたいな気の抜けた返事をする。
「ほら、足を使って顔に張り付いたでしょ、これから口をこじ開けて触手を体内に張り巡らせるの」
「何だって?」
こいつ・・・えらく不穏な事を言い始めたぞ!。
「んー!、んー!」
じたばた・・・
じた・・・
「気を失ったかぁ・・・次に目覚めた時には彼女は立派なベンダル・ワームだね」
「何・・・だと?」
「やっぱり知らなかったんだねー、まぁ仕方ないかなぁ、星団はこの事実を隠してるし人がベンダル・ワームに「なる」ところなんて見る機会は無いからねー」
ちょっと待て!、今こいつは何て言った?、人がベンダル・ワームになる?。
・・・
・・・
「・・・を・・・の中・・・」
「・・・」
「ねぇ!、聞いてる?」
隣に居たアリスが俺に声をかけた、あまりの内容に思考が停止してたようだ・・・って顔が近い!、こいつは顔がいいから間近で見るとドキッとする。
「麻酔を隔離室の中に充填してって言ってるの!」
「あ・・・あぁ、今やる」
ぽちー
しゅぅぅぅ・・・
・・・
・・・
・・・
「7、6、5、4、3・・・もういいかなぁー、換気が終わったら中に入るよー」
「・・・おぅ」
俺は卓にある換気ボタンを押した。
・・・
「ローリーさん、隔離室内の大気の状態は?」
「問題無し・・・と表示されてるな」
「ベンダル及び実験体その2の状態は?」
「俺には分からん、生体データーを出すから見てくれ」
ぽちー
「うんうん、麻酔が効いて休眠中・・・大丈夫そうだね、さぁ行こうか!」
アリスが俺を見る・・・あぁ、そうだったな。
「身体に触るぞ」
「敏感だから優しくしてねっ」
「・・・うるせぇ(ぼそっ)」
俺は立ち上がりアリスの腋に手を入れた。
「あぁん!」
「色っぽい声出すんじゃねぇ!」
「だってぇ・・・」
俺はアリスの両腋に手を入れて椅子から持ち上げ、近くに置いてある車椅子に乗せた。
そう、アリスには手足が・・・両腕は肘の上、両足は膝の上から先が無い、フローリンによるとベンダルに襲われた時に喰われたらしい。
「うん、優しく扱ってくれた所は評価できるね、85点っ」
「85点って何の点数だよ!」
「僕の助手に相応しいか否か・・・だけど?」
「俺はしばらく船内の雑用をしろって言われてるが?、アリスの助手になるのかよ?」
「今のところいい感じだね、フローリンさんには相性が良かったら僕の助手にしていいよって言われてるから・・・さぁ早く隔離室に入ろう!」
なるほど、俺はアリスの便利な手足って訳か・・・。
がこぉ!
身分証を入り口のスキャナーに通すと分厚い扉が開いた、この先は今まで俺達が居た部屋とガラスで仕切られた隔離室の中だ。
からから・・・
俺はアリスの乗った車椅子を押して中に入る・・・マスクをしてるのに酷い腐臭が漂ってるぜ畜生!。
「これは防護服の中のにおいだよ、皮膚や肉、排泄物の一部が腐ってるから・・・僕やローリーさんの服の中も同じ臭いがすると思うよ・・・ふふっ」
臭くて顔を顰める俺に気付いたのかアリスが笑いながら俺に言った。
「嘘だろ普段こんなに臭わねぇぞ!」
「防護服は外気と完全に隔離されてるから普通に暮らしてたら完全に無臭だよ、ベアトリスの防護服は優秀だからねー」
「・・・」
「先に実験体その1の方を診ようか、手袋をして防護服を脱がせて」
「何でだよ?」
「ベアトリス社からの委託実験も引き受けてるんだぁ、これは本業じゃないけど僕のお小遣い稼ぎだよ」
俺は言われた通り手袋をしてカメラを死体に向け撮影を始める、それから首元が広がっている防護服に手をかけて・・・。
ずるり・・・
ぬちゃ・・・ぬちゃっ・・・
肩から胸にかけて服を脱がせたが・・・畜生!、吐きそうだ!。
服の中に入ってた肉体は皮膚がドロドロに溶けて紫色になってた、一部の肉も溶けて表皮の下にある黄色い皮下脂肪が剥き出しになってるぞ!。
「こんなに溶けてるのに痛くねぇのな・・・」
俺の呟きにアリスが答える。
「僕たちがいつも使ってる洗浄液あるでしょ、あれに麻酔と感染症を防ぐ消毒液が入ってるの、皮膚が溶けるくらいの強力な奴が・・・ね」
ぼこっ・・・ぽこっ・・・しゅぅぅぅ・・・
空気に触れた紫色の身体に水膨れが出来始めた!、防護服を脱ぐと俺もこうなるのか・・・やべぇな!、怖過ぎて絶対に脱げねぇぜ!。
死体には両手足に星団の紋章入りの枷が嵌ってるから完全に脱がせる事は出来なかったが防護服切除用のナイフも使ってどうにか脱がし終えた。
「死にたての実験体なんて滅多に手に入らないからね、空気に触れた肉体が溶け落ちる経過を撮影した映像は高く買ってくれるんだぁ、あ、もちろんローリーさんにも分け前をあげるから心配しないで」
別に心配してねぇしこんなの二度とやりたくねぇぞ!。
俺はアリスの指示に従い防護服の一部や皮膚と筋肉のサンプルを死体から採取してケースに詰める・・・これをベアトリス社に送るらしい。
腹の中にはまだ2匹のベンダルが居て床にも1匹転がってたから回収して鍵付きの箱に放り込んだ、この女は4匹に寄生されてたようだ・・・まさか人間の腹を割く事になるなんて思ってもみなかったぜ。
作業が終わり、ベッドの隅にある赤いボタンを押すと出て来た水と一緒に死体が下に吸い込まれていった、アリスによるとベッドの下には配管が通っていてこのまま船の端にある廃棄物処理室へ送られるそうだ。
「次は実験体その2だね・・・ここからが僕の本業だよ」
俺は隣のベッドで横たわるベンダルに顔を覆われた黒髪の少女を見た・・・この隔離室に入ってからずっと気になってたやつだ!。
「さて、今の状態は宿主の身体を喰い破って出てきた成体が他の人間に取り付いた直後だよ」
「・・・おぅ」
俺に説明してくれてるようだから適当に返事をする。
「成虫になってからは大きくなるのが早いよー、2日もあれば上半身が覆われて触手は脳にまで到達するかなぁ」
「は?」
俺はここまで聞いてようやく恐怖を感じた、薄々そうじゃないかと思ってたがこれ以上聞きたくねぇ!・・・だが無情にもアリスは楽しそうに話を続ける。
「顔の部分は成長すると口や牙になるよ・・・この娘は生かされたままベンダルに操られて他の人間を襲うようになるの」
「ベンダル・ワームはこんな事して増えるのかよ!」
俺は今まで宿主の身体から出た成虫がでかくなってベンダル・ワームになると思ってたぞ!。
「知らされてないからねー、増える過程なんて見た人は少ないだろうし・・・星団に住む人達に過度な恐怖を与えないように「上」が配慮したの」
「上って誰だよ?」
「聖帝陛下、この事実が広まると宿主達への迫害が一層酷くなるだろうからね」
そんなアリスの言葉を聞きながら俺は指示通り少女の記録と部屋の後片付けを続けた・・・。
しゃわわわぁ・・・
仕事を終えた俺は隔離室の隣にある部屋でシャワーを浴びている。
まだ鼻の周りに腐臭が纏わりついてるような気がして気分が悪い・・・だが備え付けの強力な消臭剤入りソープで洗ったからいくらかマシになった。
それから・・・アリスの奴は先に俺がシャワーで丸洗いした、身体に触れる度に色っぽい声で喘ぐから変な気になりそうだったが全力で耐えた!。
シャワーの後には洗浄機に乗せて防護服の中も洗ってやった、今までどうしてたんだよ!。
そう尋ねると一応義手と義足は持ってるらしい!。
「何で使わねぇんだよ!」
俺が聞くと・・・。
「義手や義足を使っても壁に掴まりながら何とか歩けるって感じだし、手も上手く物を掴めないの、それに付けると痛いから嫌いなんだぁ」
そう言って笑った。
俺はシャワー室を出て身体を拭き、洗浄機の上に放置していたアリスを回収する。
シャワー室や洗浄機が隔離室の隣にあるのは汚れた身体で外を歩かないようにする為だろう、アリスは自分の部屋があるのに殆どここで生活してると言っていた。
「ローリーさん今日はお疲れ様、明日もよろしくね・・・あ、そうだ、お薬を飲んだ後の性欲処理もお願いしたいなぁ」
こいつとんでもない事を言いやがったぞ!。
読んでいただきありがとうございます!。
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