無力
なんとかこの物語をおわらせたいです
感染症は、世界を止めてしまった。
人々の暮らしも、生産も、文化も、何もかもが止まったように見えた。
けれど、本当に止まったわけではない。
人は生きている。
食事をする。眠る。働く。
病気にもなるし、怪我もする。
病院は、そうした人たちを助ける場所だ。
私は無力だと感じながらも、それでも看護師として働くことだけは辞めなかった。
私の時間が止まっている間にも、ほかの世界ではレイドが行われていたらしい。
誰かが戦い、誰かが勝ち、誰かが消えていく。
その事実を知っても、私の心は動かなかった。
いや、動かせなかった。
『このままでは、この世界は終わってしまうな』
仕事終わりの帰り道。
創造主様の声が、頭の中に響いた。
「……っ」
足が止まる。
「そんなこと言われても、私は何もできません」
声が震えた。
「何の力もなく、誰かの命が消えていくのを、ただ黙って見ているだけなんです」
そうだ。
私は何もできない。
大きな力の前では、人間なんてあまりにも無力だ。
『まあ、メイ君にその気がないのであれば仕方ない。レイドで不戦敗となるか、病で死に絶えるか。どちらが早いだろうね』
「……そんなこと、言わないでください」
分かっている。
私が戦わなければ、この世界は他の世界に淘汰される。
分かっているのに、身体が動かない。
心が、ついてこない。
「メイ様」
そっと、シロマちゃんの声がした。
「もしも、今までのことが無かったとしたら、どうされますか?」
「え……? シロマちゃん、それはどういう……」
「過去に戦って救ってきた人たち。守ってきた人たち。そして、メイ様がお仕事の中で関わってきた人々」
シロマちゃんは、静かに続けた。
「そうした出会いや時間がもしも無かったとしたら、メイ様は今、これほどの無力感を感じておられたでしょうか」
「……」
「無力だと感じるのは、メイ様が命の重さを知っているからです。救えなかった命だけではなく、救えた命の重さも、知っているからです」
「シロマちゃん……」
「今一度、お考えください。メイ様がこれまでしてきたことは、本当に何の意味もなかったのかを」
私は、答えられなかった。
けれど、胸の奥で止まっていた何かが、かすかに音を立てた気がした。
救えなかった命がある。
それは消えない。
けれど。
救えた命も、確かにあった。
私はまだ、その意味を見つけられていない。
それでも、もう一度だけ考えてみようと思った。
私が、何のために戦ってきたのかを。




