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第1話 ~始まりの絵~

 その絵を一目見て、私は惹き付けられた。


 高校生になって、新たに入った学校の廊下に金賞の札と共に貼り出されていたとある絵。それを見て衝撃を受けた。

 どこかの自然公園みたいな風景画だが、決して完璧なる写実ではない。けれど、まるでその優しいタッチである絵の中に入ったかのような感覚になった。

 私は絵の前にしばらくぼーっと立ち尽くした。そして気づいたら胸が高鳴っていた。

 そう、恋をしたのだ。その絵に。そして会ったこともない絵の作者に。

 絵の下に作者名が書かれている。

『二年二組 明野 千代』

 私は会いに行くことにした。あけの ちよさんに。自分の想いを伝える為。


「(あけの ちよ先輩……女の子だ……。私、女の子を好きになってしまった……)」

 今までずっと恋愛対象は男の子だった。女の子ともなれば一筋縄の恋愛とはいかないだろう。けれど! それでも私は明野先輩に恋をしたんだ! 絶対に告白する! えーっとまずは先輩の教室に行ってから人気の無いところに呼び出して……。

 そうこう考えているうちに二年二組の教室に着いた。教室の中を覗くが、だれが明野先輩かわからない。取りあえず、近くの人に尋ねてみた。

「あ、あの……」

「? 何?」

 男子の先輩がこちらを見る。

「あけの ちよ先輩っていらっしゃいますか……?」

 先輩は一瞬怪訝そうな顔をした後「ああ」と何かを思いついたみたいだった。

「あれ、『ちよ』じゃなくて『ちしろ』って読むんだ。よく間違えられる。俺も最初間違えたし」

「ちしろ……?」

 珍しい読み方だ。

「今呼んでくる」

 先輩は教室の奥にいる人物に声をかけた。かけた……けど……。その人物がやって来た。

「はじめまして……だよね? どうしたの?」

 その人はあの絵のように柔らかく優しい声……の男の人だった。

 ちしろだと男の人でも通るよねうんうんてかイケメンで心臓がはち切れそうどうしようどうしよう……。

「大丈夫?」

 明野先輩は固まっている私に心配そうに声をかける。優しい。好き。

 しかし私の脳内はフル回転で混乱しており、どうすれば良いのかを考えた結果、当初の目的である『告白』だけが選ばれた。私の口から大声が出る。

「明野先輩の描いた絵を見て、絵と先輩が好きになりました!!! 付き合ってください!!!」

「……」

 周囲が静まり返った時、私は自分の失態に気づいた。公開処刑? ってか、こんな状況で明野先輩がオーケーする訳なくない? 先輩にも迷惑をかけてしまった……。

 私がやっちまったなと勝手に沈んでいる時、明野先輩が口を開いた。

「君、お名前は?」

 とても、優しく聞くものだから、私は昂った気持ちが落ち着いてなんだかほわほわした。

「御波 栞(みなみ しおり)、です……」

 自己紹介をすると先輩は穏やかに笑った。

「御波さん、僕の絵を好きになってくれたの?」

「はい……」

 でも緊張はする……。

「絵が好きになって作者の僕も好きになってくれたの?」

「は、はい……。初めてなんです、こんな素敵な絵に出会えたのは……。この絵を描ける人に告白しなきゃ後悔するって思いました……」

 冷静になると、素晴らしい絵を描けるからといって、その絵の作者が素晴らしい人格を持っている訳ではない。それでも……。

 明野先輩はにっこり笑って言った。

「御波さん、僕、御波さんのこと知らないから、お友達からっていうのはどう?」

「え?」

 まさかそんな提案をされるとは思わなかった。あんな失態をしたのだからフラれて終了かと……。

「駄目……かな?」

 明野の先輩がする澄んだ目に私はドキドキして……。

「お、お願いします!!!」

 そう了承すると、明野先輩は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、これからよろしくね」

 明野先輩が手を差し出すので、私は恐る恐るその手を取り、握手を交わした。大きな、男の人の手にときめいた。この手であんな絵を描いているんだな……。

 しかし。

「あの……友達って何をすれば……?」

 誤解しないでもらいたい。決して私はぼっちで友達との交流の仕方がわからない訳ではない。ただ、学年も性別も違う明野先輩と友達という関係性を作るにはどうしたらいいのかわからないだけだ。

 明野先輩は、んーと考えてから言った。

「一緒に登下校して、一緒にお昼ごはん食べて、休みの日には遊んで……」

 いきなりフルスロットルではないか? 明野先輩って案外大胆……?

「あ、そうだ。よかったら美術部に入らない?」

「美術部?」

「うん、僕も入ってるから一緒の部活にすれば一緒にいられる時間が増えるでしょ?」

 やはり大胆。でも。

「は、はい……!」

 そう言ってもらえたことが嬉しくて。

「緩~い部だから好きなことしてたらいいよ」

 こうして、明野先輩と私の物語は幕を開けた。柔らかに微笑む先輩に心臓を高鳴らせながら。

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