教師はアウトだろ!
「ここが土野高校か......」
中3のときに一度だけ学校見学に行ったが、結局偏差値が合わなくて受験はやめた土野高校。ここを訪れるのはそのときの学校見学ぶりだから緊張する。それに......
「別の高校の制服って目立つよな......」
「不審者だって思われたらどうしよう」
土野高校はいかにも恋愛ゲームの舞台らしい明るい色の制服だが、俺たちが通う栄宮の制服はどこにでもあるようなブレザーだ。校舎に入ったらめちゃくちゃ目立つだろう。
「入りたくないよ〜......」
「じゃあ陽向はここで待っとけ、俺だけで......」
「やっぱり僕も行く......!」
土野高校に入ろうとする俺の腕を軽く引いて陽向は首をぶんぶんと横に振った。俺もつい強がってしまったが、やっぱり一人で入るのは心細いから正直に言うと助かった。
大丈夫、ハンカチを事務員か教師に渡すだけだからと励まし合いながら、とうとう俺たちは土野高校の門をくぐった。
「やば、なんかめっちゃイケメンいるんだけど......」
「あの制服って栄宮だよね。そうそう、めっちゃ頭いいとこ......」
まだ校舎に入ってすらいないのに、陽向の整った容姿を見た土高の女子生徒たちが早速ヒソヒソと噂をし始めた。まずい、もう目立ち始めてる。くそー、職員室はどこなんだよ!
校舎に入って二人できょろきょろ探していると、中学3年のときに同じクラスだった女子が話しかけてくれた。事情を話すと職員室まで案内してくれたので、なんとか最短ルートでたどり着くことが出来た。
「よしっ、ドア叩くぞ......」
「......僕も一緒に叩くよ」
緊張しながらなぜか二人がかりで職員室のドアを叩くと、下手すりゃ新卒くらいの若い女性教師が出てきた。なんだかふわふわしていて優しそうな感じだ。怖そうな先生じゃなくてよかった。
「すみません。僕たち、栄宮高校の......」
その応対してくれた教師の顔を見て、突然陽向の言葉が途切れた。え、何事?
「す、すみれさん......?」
今、陽向はこの教師のことをすみれさんと言ったか。すみれさん、すみれ、菫。蓮華に続いてまた花の名前。
嘘だろ。教師が攻略対象? いや、まだ分からない。たまたま花の名前がつけられている攻略対象外の登場人物かもしれない。そう信じたい。
だって......教師と生徒の恋愛はモラル的にアウトだろ!
「あっ、急にすみません。覚えてますか? 僕、水城陽向です」
「......! ひなくん!?」
教師......すみれさんも陽向に心当たりがあるようで、水城陽向という名前を聞いた途端にぱぁっと明るい表情になった。というかひなくんって陽向のことか?
「久しぶりひなくん! とりあえず応接室いこっか?」
すみれさんとかいう人は俺のことなど眼中に入っていないらしい。今日は蓮華のときから蚊帳の外なことが多くてちょっと疲れる。
「そっか、そんなことがあったんだね。大丈夫、二条さんにしっかり渡しておくからねっ!」
栄宮に通う俺たちが土野高校まで赴いた理由を説明してハンカチを引き渡すと、すみれさんはしっかり受け取ってくれた。俺は、すみれさんが陽向にばかり注意を向けているのを良いことにじっくりと観察してみることにした。
紫がかった黒髪に緑色の瞳。そして優しそうな顔付きの美人だ。いかにもすみれって名前が似合う感じ。この人は本当に攻略対象なのだろうか。ちょっと探りを入れてみるか。
「あの、さっきからずっと気になってたことがあるんですけど......陽向と先生の関係性って......?」
質問してみると、すみれさんは顔を赤くした。今の質問に何か照れるような要素あったっけ。
「ご、ごめんなさいっ、説明不足でしたね。ひなく......水城くんとわたしは幼馴染なんです」
「陽向、そうだったのか?」
「まぁ一応......」
まぁ一応ってなんだよ。もしや照れてるな? 幼馴染に一応なんてないだろ。
もしすみれさんの言うとおり2人が本当に幼馴染だったら攻略対象である可能性が高い。恋愛ゲームでも少女漫画でも何でも幼馴染ってありがちだからな。
「昔は近所に住んでたんですけど、水城くんが中学に上がるタイミングで引っ越しちゃって......」
「へェ〜......」
本当に幼馴染っぽいな。それが分かったから良かった......いや、やっぱり良くない。幼馴染かどうかよりも、すみれさんが攻略対象か否かが気になる。
「ひな......水城くん、ちっちゃい頃はあんなにかわいかったのに、かっこよくなったねぇ〜」
「すみれさん、あまり学生相手にかっこいいとか言うのは良くないと思いますよ......」
「あっ! ごめんなさい。まだ先生になったばかりだから慣れてなくて......」
陽向に指摘されてから間違いに気付くなんて教師失格じゃないか? 先生になったばかりとは言っても大学で教職取ってたんだからそれくらいわかるだろ、生徒の見た目についてを言及するなんて言語道断ってことくらいは。頼むから攻略対象外であってくれよ。
「じゃあ、先生じゃなくて幼馴染のお姉さんとして言うよ。ひなくん、大きくなったね」
「新ヒロイン解禁 雲母すみれ]
ああ......
「まだやらなきゃいけないことがあるからここまでしかお見送りできないけど、今日はありがとう。松代くんもありがとうございます」
やるべきことは果たせたのでさっさと俺たちは帰ることにした。見送りは不要だと言ったが、せっかく会えたんだからとすみれさんが引かなかったので職員玄関まで着いてきてもらうことにした。幼馴染と奇跡的な再会をして流石の陽向もテンションが上がってるみたいだし。
「先生、ハンカチをよろしくお願いしまーす」
「じゃあすみれさん、またいつか」
「あっ、ちょっと待って」
背中を向けて来賓用スリッパから靴に履き替える俺にバレないように、すみれさんがこっそりと陽向に近付いている。残念、職員玄関にありがちな全面ガラス張りの扉に反射してバレバレです。
「絶対また会おうね、ひなくん!」
耳打ちなんかしちゃって。
やめろ、教師が高校生相手にメロメロするところなんて見たくないぞ。
それに、そっちはヒソヒソ話のつもりかもしれないけど、俺にもはっきり内容が聞こえてる。そう伝えるために大きめに咳払いをすると、すみれ先生は肩をビクッと跳ねさせてからガラスに映る自分たちの姿を見て赤面した。俺は本来なら攻略対象と陽向が結ばれるようにサポートする立場だが、攻略対象が教師となったら話は別だ。陽向が高校を卒業するまでは徹底的に邪魔させてもらうからな。親友として、元教師志望の人間として。
「無事に渡せてよかったな、ひなくん」
「......今なんて?」
「だから〜、ハンカチ渡せてよかったな! ひなくん」
本来なら幼少期の頃特有の変なあだ名なんて触れちゃいけないものだけど、どうしてもひなくんというあだ名が面白くて帰りについイジってしまった。怒っているかと思って陽向を見ると、なぜか羞恥と喜びが入り混じった複雑な表情をしている。どういう感情?
「ごめん、もう一回僕のことひなくんって呼んでくれない? なんか友樹にひなくんって言われるとおかしくなりそう......」
「おかしくなりそうなら呼ばれない方がいいんじゃ......」
「いや、呼んで。あと一回でいいから」
ああ、やっぱりイジらなきゃよかった。
あれ、そういえば土野高校に通っているはずの宮井桜には遭遇しなかったな。
「また邪魔してくれましたね! 松代友樹!!」
「あ、女神サンちわーっす」
「その適当な挨拶わざとですよね!?」
その日の晩、やっぱり恋の女神が俺の夢の中に侵入してきた。言いたいことは分かる。なんで土野高校に行ったのに宮井桜と会わなかったのか、とかだろ。
「わざわざ土野高校に導いてさしあげたのに......なぜ宮井桜と出会わなかったのですか!」
ほとんど当たってる。女神、おバカキャラというか、結構思考が単純なんだよな。
雑に謝ると、杖を持っていない方の手で胸ぐらを掴まれてぶんぶんと揺さぶられた。そのときになってようやく違和感に気付く。あれ、女神なんか小さくなった......?
「え、力使うと身長縮むの?」
「ああ......やはり縮んだと分かりますか」
身長が縮んだことを指摘すると、女神は暴力を振るう気力をなくしたのか、俺の胸ぐらから手を離した。
俺がデカくなったとかではなく、本当に女神が小さくなったのか。身長を削ってまでこの世界に干渉したのに宮井桜と陽向の接触がなかったって、ちょっとだけ可哀想になってきた。だから救済措置として何かしてやろうという気にはならないけど。
「それでどんな干渉したわけ?」
「猫を......」
「猫を?」
「猫を、あなたたちの通学路に向かうよう誘導しました。それから二条蓮華のハンカチを落とさせました」
それだけ? 蓮華本人に干渉するとかではなく、猫とハンカチだけ? それでこんなにも背が縮んでしまったのか。うわー、可哀想。女神の力、燃費悪すぎだろ。
「まぁ会うかどうかは運でしょ。学校だって結構広いんだぞ?」
「うぐぐ......会うことに賭けたんです......!」
ギャンブラーな女神だな。それでその賭けは宮井桜と陽向が出会うどころか、雲母すみれという新たな攻略対象に出会わせてしまうという結果に終わるなんて。
「とにかくっ、次は絶対に宮井桜と出会わせてみせます!」
「おー、頑張れよ」
素直に応援したつもりなのに、なぜか女神の怒りを買って再び杖でぶん殴られた。そういう暴力的なところがなかったら俺だって協力する気になったかもしれないのに......
なんとなくキャラ紹介
雲母すみれ
陽向の幼馴染で攻略対象。
新卒で土野高校に赴任した新米教師で、ドジっ子属性持ち。うっかりさんでもある。




