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【完結】私の幸せ  作者: P太郎
カーラ
50/59

大切なものは奪われる

湯浴みを終えて、就寝までの少しの時間。寝室を照らすシャンデリアの光量は低いけれど、文字を見ることはできるから流行りの恋愛小説を読んでいた。

三日前に再会したアリアから勧められたものだけれど・・・なるほど。あの子が好きそうな内容だと思う。一人の女性が、二人の男性から想いを向けられて惑うけれど、決められずに二人共から愛され続ける。溺愛物と言うらしい。


(・・・一人に決めないのは良くないと思うわ)


第一章を読み終えて、内容の濃さに胸が一杯になったから小説を閉じた。

淡い黄緑色のマタニティドレスを着た私は、息を漏らしてグラスに注いだ水を一口飲んだ。時計を見れば、時刻は九時になろうとしている。


「遅いわ・・・お仕事が多かったのかしら?」


夫のハリーは開業医で医院は自宅と一体化している。居住スペースから廊下を進めばすぐだから、今まではこれほど帰宅が遅くなることはなかった。


(今日の診察はもう終わっているから、書類仕事が終わらないのかしら・・・)


様子を見に行ってみよう。

椅子から腰を上げて、大きく膨らんだお腹を撫でる。昨日は良く蹴られたけれど、今日は大人しい。深く眠っているのかしら。


「もうすぐ生まれるから、準備しているのかも」


ハリーは一週間内には破水が始まると言っていた。産婦人科のお医者様だから信頼できる。

早く産まれてきてほしい。私もハリーも、赤ちゃんと会えるのを心待ちにしているのだから。

お腹を撫でるのが癖になってしまっていた。当たり前のように右手で撫でながら、寝室の扉を開こうとして、その前にノックをされる。


「お、奥様。起きていらっしゃいますか?」


声の主は住み込みの家政婦さん。この時間は自室にいるはずだけれど、何か用事があるのかしら。

幸せの中にいた私には、声が震えていて、怯えているなんて分からなかった。


「ええ、起きているわ。どうかされたの?」


扉が開かれる。そこにいたのは顔面蒼白の家政婦さんと・・・血に汚れながら微笑んでいる軍服姿のレグルスで。


「え、えぇ?」


「あっ、ぐぅ・・・うがぁ、ぁ」


レグルスは後ろから家政婦の首を掴むと締め上げた。目を見開いて苦痛に歪む顔。口から呻き声が漏れて、最後に呻くとぐったりと、手が離れたから床に落ちた。

床に、家政婦の死体が、殺したのは、殺し、レグルスが。


「いっ、いやぁあっ!!」


レグルスがいる。私の目の前で簡単に人を殺して、私に向かって笑っていて、私を、私を殺しに来た!!


「な、なっ、なぜ!?貴方、なぜ、わた、私を殺し、殺しに!?わたし、もう貴方に、貴方の恋人に関わらない、のに!!どうして!!」


体が震える。怖い。お腹を守らないと、私の中に愛しい子がいる。命乞いを、この子だけは助けてもらわないと、どうやって・・・まだ生まれていない、私は死ぬことはできない、まだ産んでない。怖い、殺さないで、怖い、やめて。


「・・・こんばんは、カーラ」


今絞め殺した家政婦の死体を跨いだレグルスは、私へと踏み込んできた。私を殺すために近付いてきた。

逃げないと、逃げないと殺されてしまう。お腹を守らないと。


「こ、来な、こないで!!」


唇は震えて歯もカチカチと鳴っていた。そのようなことを考えるのは現実逃避だと分かって。

レグルスを見据える。優しく微笑んでいるのは以前のようで、それでも血に塗れているから異常だった。家政婦さんの前に、誰かに危害を加えたと分かる。


おかしい。レグルスはおかしくなっている。私を殺そうとしたときも異常だったけれど、今は更におかしく見える。穏やかな顔と暴力を振るったと分かる血が、ちぐはぐで、おかしさを際立たせている。

お腹を守らなければ、命乞いをしないと。産みたい。大切な私の子供。愛するハリーとの大事な子供。


「お、おね、おねが、ころさないで!ころさないで!妊娠、しているの!!この子を産まないと、私、たいせつなの!!だからころさないでぇ!!」


上手く話すことができない。これではレグルスに届かない。

膝をついて、お腹を守りながら頭を下げた。


「ころさないで、ください・・・貴方にも、貴方のデイナにも私は何もしません。していません。関わろうとしていないのです。だから、殺さないでください・・・お願いします、お願いします・・・」


「・・・・・・」


レグルスは何も答えてくれない。

ただ、私へと近付いてきて、身を屈めてきた。


「ぁ・・・はあ、ぁあ・・・はぁ」


涙が溢れてくる。怖くて、殺されたくなくて、胸が痛い。心臓が張り裂けそうなほど強い鼓動を繰り返している。痛い。苦しい。恐怖で震えて、喉が引き攣っていて、息が苦しい。


「カーラ・・・」


「ひぃっ!!」


触れられた。レグルスが私に触れた。昔とは違って短くなった私の髪を撫でるように手を動かして、頬に触れ、顎を掬い上げる。


「ぁ、あぁ・・・ぁ・・・い、いや・・・」


あのゾッとする昏い赤色の瞳が、私に向けられている。


「僕が君を殺すわけがないでしょう?ただ迎えに来ただけです。僕の妻である君を連れ戻しにきました」


微笑みは絶えない。血に塗れた顔が不釣り合いな笑みをずっと浮かべている。レグルスの赤い瞳は、顔を染めている血と同じ色をしていた。

恐怖から私の心臓が、更に締め付けられて痛みが増していく。


「迎え、なんて、連れ戻すなんて意味が、わ、わたし、それに貴方の妻では、ないわ・・・私、妊娠して、けっ、結婚しているの?分かる?」


笑みが失せた。あのとき、私を殺そうとしたときの憤怒の形相が浮かぶ。

恐ろしい顔。いつも穏やかに張り付いたような微笑みを浮かべるレグルスだったから、あのときも、今も怖くて。


「い、いやっ、殺さないでぇ!!」


離れようと膝で後退ろうとした。

でも、レグルスは逃がしてくれない。私の顎の下を掴んで、肩を掴んで固定された。顔を下げることも動くこともできない。


「いやぁっ!!」


「君を殺さないと言っているでしょう?怯えないで、大丈夫ですよ。僕は君を迎えに来ただけです。邪魔なものも始末したから僕達には障害もない。一緒に帰りましょう」


「はな、はなし、いやぁっ!!」


何を言っているのか分からない。怖い、死にたくない。それだけで、いきなりレグルスが抱き締めてきたのを防ぐこともできなかった。


「はなしてぇ!!」


「聞こえなかったようですね。カーラ、落ち着いて聞いてください・・・僕らを引き離すもの、君の夫というものは始末しました。君は縛っていた枷がなくなったことで自由の身になれたのですよ」


「はぁ、っ・・・な、に?」


「あの夫面をしていたクソジジイを殺しました。君を汚してガキを孕ませるなんて許せない。許せるわけがない。君は僕のものなのに。僕だけが君に触れられることができたのに。それなのに勝手に触れて犯して孕ませるなんて殴り殺す程度に収めただけでも感謝してもらいたいものですよ。引き裂いてやりたかった。君を犯したことを悔いに思うほど苦しめて苦しめてそれから激痛を感じながら殺したかった。僕のものを奪った罰は軽く済ませるわけにはいかないのに」


何を言っているのか、分からない。分かりたくない。


「カーラ」


抱き締められていことで見えなかったレグルスの顔。彼が体を離すことで、正面から見ることができた。

穏やかに微笑む血塗れの顔。口角を上げていた唇がゆっくり動く。


「君の夫を殺しました。君が僕以外を選んだから殺すしかなかったのです。カーラ、僕は絶対に君を許しません」


「はぁっ・・・あ、ぁ、あぁぁぁぁあぁぁっ!!」


事実が私の心を潰そうとした。認めたくないから、拘束されて動けないから叫ぶしかなかった。


「あ、ぁぁ、はぁ、うあ、うぅ、あぁぁっ」


涙が浮かんで頬に流れていく。何筋も、止めどなく流れて顔を濡らしていく。それを拭うことはできない。拭うよりも泣き伏して、ハリーの元に行きたい。

だけど、私を捕まえた男が許してはくれない。


「ああ、かわいそうに。泣き叫ぶほど悲しいのですね。あのような色狂いのジジイに対して泣けるなんて、よほど愛着があったとみえる。まあ、そうだとしても僕は許しませんけどね」


色狂いのジジイって誰のこと・・・ハリーのことを言っているのなら見当違いも甚だしい。彼は誠実で優しい人だった。家族の助けが及ばずに追放された女に手を差し伸べで、穏やかな生活を与えてくれた。妻にしてほしいという我儘にも答えて、子供すら授けてくれたのに。


「レ、グルス!!」


睨み付ける。怒りのままに。でも、レグルスは微笑みを絶やさずに、私の濡れた頬を手で拭った。


「レグルス、あなた、よくも!よくもハリーを!!」


触れる手を払い除けてレグルスの顔を殴ろうとした。私の手はすぐに掴まれてしまったから、もう一方の手で頭を殴ろうとして、作った拳ごと包まれる。


「く、ぅっ!はなしなさい!あなた、私のハリーをよくも!貴方だってデイナのために私を殺そうとしたのに!私に仕返しのつもり!?殴らせて!こ、ころ、ころす、ぅ・・・うぅ・・・」


どうして私の大切な人は奪われたの。私はデイナに何もしていないのに、私からハリーを奪って何がしたかったの・・・迎えに来たって何。取り戻しに来た。私がレグルスの妻って。

意味が分からない。レグルスにはデイナがいる。複数人の男性達と分かち合っていたけれど、あれほど愛していると寄り添っていたのに、求婚をしないのはなぜ。妻にしないのはなぜ。

悪女だと殺そうとした私に何をさせたいの。意味が分からない。分かりたくない。


ああ、この男は、私から全部奪って苦しめて嘲笑いたいのだろうか。


「こ、ころ・・・あぁ、う、ころさないでぇ・・・この子がいるの・・・」


死にたいと一瞬だけ思ってしまったけれど、私のお腹の中には生まれようとする大事な子がいる。ハリーの子供がいる。

この子のために、この殺人鬼から逃げなければ。守らなければ。


「・・・デイナというクソ女は死にました。フラメル王国の王太子が邪悪な魔女だと処刑したのです」


「ぇ、魔女?・・・なぜ?」


「好みの男達を魅了の魔法で操って国を傾けたからです。平和なベルアダム領にいたからカーラは世情に疎いのですね。あのクソ女は僕達に魅了の魔法を使い、心を奪っていました。偽りの愛を植え付けて、崇めさせて、本当に大切な人を傷付けるように命じてきた」


「・・・貴方、デイナのこと愛していたのではないの?愛のために私を殺そうとしたのでは」


「操られていたのです。君を殺すはずがないのに、あのクソが僕の心を奪って危害を加えるように強請ってきた。忌々しくも愛人のように侍らせて、七年間も君ではない女に愛を語らせた。あのクソさえいなければ君は僕だけのものだったのに!その膨らんだ腹にいるのも僕の子供のはずだった!!」


次第に高ぶったレグルスが鋭い目で私のお腹を睨み付ける。殺意の滲んだ眼差し。私に襲いかかったときの目で、お腹の子を殺そうとしている。


「やめ、やめて!殺さないで!大切な子なの!私の赤ちゃんなの!」


逃げようにも両手が掴まれているから動けない。藻掻いてもレグルスは手を離してくれない。

このままじゃ、赤ちゃんが殺されてしまう。ハリーとの、彼が私に授けてくれた子供まで奪われる。


「お願いレグルス!殺さないで!私の赤ちゃんを殺さないで!何でもするわ!貴方が望むことは何でも、だから産ませて!この子を殺さないで!」


浮かぶ涙が視界を滲ませる。レグルスの顔がぼんやりとした形しか見えないけれど、それでも主張している赤い瞳から目をそらさずに懇願した。

この子だけは守りたい。私の希望。私の心を支えてくれる子。ハリーが殺されてしまった今、この子しか私にはいないのだから。


「・・・何でも叶えてくれるのですか?」


「何でも、何でもする!だから赤ちゃんを殺さないで!」


レグルスが笑った。いつもの張り付いた微笑みじゃなくて、歯を見せて喉を鳴らす大笑い。


「ハハハ、ハッ!それじゃあ」


引き寄せられて、筋肉で太く逞しい腕が私の体に巻き付く。

左手を掴んでいた大きな手が滑り、薬指に嵌めていた結婚指輪を引き抜いた。


「『君』はここで死んで、僕とオルトリンデ家に帰りましょう。これからはずっと一緒だ!」


よく分からないことを言われた。嬉々とした声色のレグルスは結婚指輪を投げ捨てると、私を抱き上げた。


「火を付けなさい」


横抱きした私を運びながらレグルスは寝室を出た。控えていたらしい複数の男達・・・軍服から判断するとオルトリンデ家の私兵達だろう。彼らに恐ろしいことを命じた。


「レグルス様、いくらなんでも放火は」


「火を付けなさい。死体がよく焼けるように可燃物を撒くのです。ここは病院ですからアルコール類の貯蔵もあるでしょう。確実に死体が炭化するようにしなさい」


「・・・畏まりました。いくぞ」


「・・・貴方は、私から家まで奪うつもり?」


どよめく私兵達に背を向けて歩き出したレグルスを睨み付ける。

彼は微笑んでいた。私を見下ろしながら優しく、以前のように微笑んでいる。


「君の家はここではありません。僕達二人のためにオルトリンデ家に別宅を建てていたのです。そこが君の家になります。ずっと、僕と一緒に暮らす家・・・ああ、そうだ」


表情が変わる。真顔になったレグルスは頭だけを後ろに向けた。


「そこの死んでる女は使えそうだ。カーラの死体になるように偽装しなさい」


「は?・・・ああ、いえ。流石にその、そちらのお嬢様の死体にはできません。お嬢様にしてしまえば、この者の死体がないことで行方不明扱いになります。生存者として捜索されるはずです」


「先に燃やして跡だけを残すとか、切り裂いて活用するとかできるでしょう・・・頼みましたよ」


恐ろしい発言に目眩を感じた私は、縋るものがレグルスしかいないせいで、その分厚い胸に顔を押し付けた。こんな男にしがみつくことになるなんて。


「ああ、カーラ。早く家に帰りましょうね」


優しい声色。とても不気味で悍ましい。レグルスに良心などないのだろうか。簡単に命を奪って・・・命を。

気付いたことに顔を上げる。ゆっくりとした歩調で進む恐ろしい男は、私にうっとりとした表情を見せていた。


「レグルス、ここは医院よ。入院されている患者さんもいるし、夜勤の看護師や医師も」


「安心してください、全員殺したから大丈夫ですよ。目撃者になる者なんて残すわけないでしょう?」


にっこりと笑みを濃くした異常者。

このような子だった、だろうか・・・あまりにも身勝手で、他者の命を軽んじていて。いえ、こういう人だった。以前、私に近付いただけの貴族子息達を尋問という拷問にかけた。悲惨な姿にしたと人伝に聞いていた。つまり、今までは命を奪うほどではなかっただけで、レグルスは他人を軽視しているのだろう。だから、どのようなことも躊躇わずにしてしまう。

理解と共に込み上げるものがあったから、私は再びレグルスの胸に顔を押し付けた。


(ごめんなさい、巻き込まれてしまった人達。私ではこの殺人鬼を止めることなんてできない)


そのまま運ばれて馬車に乗せられると、すぐに医院から黒煙が上がり始めた。居住スペースの、あの場所はリビングだけど、そこの窓から炎が見える。

私の大事な家、ハリーの医院。患者さんも医師や看護師も、愛するハリーが燃やされてしまう。様々な感情で涙は止めどなく溢れて、私の頬は濡れていく。


「カーラ、揺れるからこちらに」


座席の隣に座ったレグルスが、私の肩を抱いて引き寄せる。窓から引き離されて、私の視線はレグルスの膝の辺りに落ちた。そうすれば馬車が走り出す。速度があるから、早々に立ち去りたいのだと分かった。


(そうよね、主人の蛮行に巻き込まれたのだもの・・・誰だって恐ろしい殺人現場から立ち去りたいと思うわ)


瞬きをすれば一滴、涙が落ちていった。


「・・・?え、何?」


「どうしました?」


足の付け根、陰部に濡れた感覚が、温かな水が伝っている感触がある。まさか、破水した。私の赤ちゃんが産まれようとしている。


「は、破水した。破水している」


「はすい?・・・腹の中のガキが産まれようとしているのですか?」


「レ、レグルス、お願い。病院、病院に」


「・・・」


「レグルス!」


なぜ溜め息を漏らしているのか。子供が産まれようとしているのに、何もせず私のお腹を睨み付けて。どうして、そのような顔を。もしかして、産ませてくれないの。そういう約束のはずなのに、私の赤ちゃんを殺すつもり。


「レグ、ぁっ!い、はぁっ!」


痛い、お腹が痛い。陣痛まで始まった。お腹の中が重く痛くて、抉られるような痛みがする。破水したばかりで陣痛が早すぎる。どうして今なの。ここは馬車で、いるのは助けてくれない殺人鬼だけなのに。

痛い、お腹が、お腹の中が動くような痛みが広がっていく。


「ぁ、はぁっ、あぅ、う・・・レグルス、おね、お、うぅ、ねがい、助けてぇ・・・」


手を伸ばせば、レグルスはしっかりと握り締めてくれた。痛みで霞む視界のせいで顔は分からないけれど、支えるように身を寄せてくれて。


「煩わしいガキですね。僕のカーラを苦しめるなんて・・・腹から出てきたら引き潰してやろうか」


「ひっ!?なん、でぇ、この子を、ころさないって、言った、あぁ、うっ、はぁ・・・はぁっ・・・ぅ、れぐ、るす・・・」


「・・・御者、近場の病院に向いなさい。妻が産気付いた」


壁を叩く殴打音。御者に対して何かを言ったのだろう。よく聞こえなかったから分からないけれど、レグルスは私の汗に浮かぶ額に唇を付けた。


「今は殺しませんよ、きちんと産ませてあげます・・・腹のガキが君に似ているといいですね」


どういう意味だろう。

それを問いただきたくても、陣痛が強くなってきて、私の口は呻き声しか出せなかった。

病院にいつ辿り着くのだろう。断続的に陣痛がきて痛くて、レグルスに抱き支えられているとしか分からない。痛い、お腹が痛い。痛みが私を支配して何も考えられない。




気付いたときには病院の分娩台にいた。私は息も絶え絶えで、それでもお腹の痛みに耐えて、お腹ではない部分も痛み出して、痛くて、裂けそうな痛みが強くて。


「もう少し、もう少しですよ。力んでください」


言われるままに力んだら、ズルリと抜け出た感覚を感じた・・・ああ、赤ちゃんの泣き声が聞こえる。

霞む意識の中で聞こえた。私の胸の上に赤い血の塊、違う、赤ちゃんが乗せられた。


「おめでとうございます、女の子ですよ」


女性の声は助産師か、女医か。

分からないけれど、泣いている私の赤ちゃんに、手を伸ばした・・・───。

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