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【完結】私の幸せ  作者: P太郎
アリア
48/59

獣と一緒に豪奢な牢獄の中で

案の定、強姦描写があります。ご注意ください。

最終手段として、というよりは我慢できなくなっていた。

マルチェロ家のお屋敷に連れてこられたあと、ルーベンスは早々と婚姻届を提出した。私が屋敷に用意されていた部屋でぼんやりとしていた間に、役所に提出したと言われた。

放心してしまうのは仕方がないと思う。何もかもが突然で、何の障害もなく決められてしまい、元々行動が遅い私にはついていけなかった。


マルチェロ家の当主で国の宰相を務めるギリアム・マルチェロに会ったのは正午前。大人しくて控えめで、殆ど社交の場に姿を現れないと有名な夫人を、マルチェロ宰相は侍らすように身を寄せながら私と顔を合わせた。

ご夫妻は、しどろもどろで挨拶をした私に優しい笑みで微笑んでいたけれど。


「子供が楽しみね。ルーベンスとアリアさんなら、きっとエリザベスにそっくりな娘が生まれるわ」


夫人は密やかに、それでいてはっきりと良く通る澄んだ声で仰っていた。マルチェロ宰相も納得するように頷いている。

ああ、お父様達がマルチェロ家を怖がる理由が分かった。私のお母様にご夫妻で執着されている。顔がそっくりな娘の私を嫁に迎えたのは、いつかはお母様に似た子を授かるだろうから。

ルーベンスにそっくりな美貌の夫人は、私のお母様と髪質と髪色、瞳の色すら同じだった・・・マルチェロ宰相も異常な方だわ。


(気持ち悪い)


不快感に胸が焼けるような感覚が襲ってきた。


「母上、アリアに聞こえています。何より子供など授かりものだ。母上の望み通りになるとは限らない」


「あら、聞こえていましたの・・・でも、アリアさんには期待しているのよ。絶世の美少女としてわたくし達の目を奪ったエリザベス。その髪色と瞳の色は違っても、貴女はエリザベスにそっくりですもの」


「ルーベンス、すぐに子を作れ。跡継ぎの男子は必要だが、この国は優秀であれば女子の叙爵も可能だ。何人か作り、そのうちの一人か二人は、エリザベスそのものの美しさと我がマルチェロ家の血脈にある優秀さを得るだろう」


(気持ち悪い!)


不快感が凄まじくて、それでもきちんと退室の声を上げた私は逃げるように自室に戻った。自室は、私の好みを熟知した家具のデザインと色味。私の預かり知らないところで用意されていたもの。

それらにも吐き気を感じて、必死に耐えて、窓枠に身を寄せると外を眺めた。外の景色だけは私の趣向とは関係ない。私を懐柔するべく用意されたものじゃないから安心する。


その日のうちに、コルネリアが私を助けようとマルチェロ家に来たのを知った。現在の情勢を考えたルーベンスが、私の安全を考慮したことで会わせなかったとも知った。本来なら私はコルネリアの手で安住のベルアダムにいるはずだった。でも、もう叶わないこと。

本当に身勝手。安全なんて言っていたけれど、私を逃がしたくないだけ。お屋敷から出すつもりがなく、ルーベンスと一緒でなければ外出はさせられないと説明された。屋内は自由に移動できるけれど、侍女と護衛が常に目を光らせて私を監視している。つまり軟禁状態。


怒りと嫌悪から初夜は当然拒否した。侍女達が私の体を磨き上げ、整えるために薄化粧すら施して、生地の薄い白いナイトドレスを着せてしまった。だから、ルーベンスが寝室に来れないように鍵をかけて、扉を家具で塞いだ。

それなのに、朝に目覚めたらルーベンスが寝室のソファに寝ていて「心の準備ができていないんだから仕方ない」なんて言ってきた。

悲鳴を上げた私を見つめるだけ。おかしいのか、口元を手で押さえていたけれど・・・そうよね。合鍵は持っているだろうし、塞いだ家具も私が動かせたのは化粧台の椅子だもの。小さくて背が低いから、ルーベンスなら簡単に退かせる。

それに気付いたのは彼の顔にクッションを投げたあと。簡単に掴み取られて、冷静になれたから分かった。

この方に私は勝つことは出来ない、と。このままルーベンスの思うように事が進み、私は子供を妊娠してしまう。




何日か過ぎ、私はお屋敷の中庭を二階の廊下の窓から眺めていた。

ルーベンスを拒否して逃げ回る日々。彼は宝石やドレス、お菓子などを贈って私に取り入ろうとしている。そんなことをされても、この身を預けることなんてしない。大嫌いな方と肌を重ねるなんて悍ましいのだから。

優しくしてくる義両親は、何かと私と関係を持とうと食事を一緒にしたり、マルチェロ家内の仕事を頼んでくる。いずれ侯爵夫人となるのだから当然のことだろうけれど、私は関わりたくない。

おかしな方しかいないマルチェロ家から逃げ出したくて、逃げられなくて途方に暮れているだけ。


時計の鳴る音が聞こえた。廊下の柱時計が夜の十時を告げている。

いつものように寝室で鍵をかけ、扉を椅子で塞いで眠っていた私は、不意に目が覚めたから散歩をしていた。お屋敷内から出られないのだから、散歩は適切な表現ではないのだけれど。


今はルーベンスもお義父様もいない。王城で急ぎの仕事ができたからと向かわれた。お義母様はお義父様が囲っていらっしゃるから、そもそもお二人の部屋からは一人で出てこない。

専属侍女は寝ているようだから控えていない。護衛は夜は側にいない。屋敷自体の警備を交代でしている。

だから、私は今一人で月明かりに照らされた中庭を眺めていた。白を基調にした花々が咲き乱れていて綺麗。せめて香りだけでも堪能したい。こんな屋敷に押し込められていて気が滅入っているもの。


(ルーベンスは一緒なら庭に行ってもいいと仰っていたけれど、頭が固くて詩的なことも言わないあの方となんて散策したくないわ!)


声に出したら張り上げてしまいそうだから、内々で暴言を吐き捨てる・・・これは暴言なのか分からないけれど。

そよ風に揺れる鈴蘭を眺める。あれには毒があるそうだけれど、可憐な姿からは想像がつかない。とても愛らしい。


(・・・あら?)


その鈴蘭が植えられている花壇の側。おそらくダンスホールに至る扉が空いている。風に揺れてパタパタと小さく動いていて。


「今なら・・・」


口元を押さえた。誰にも聞こえないようにして、中庭を歩けると、期待に胸を膨らませた私は足音を立てずに廊下を進む。階段を下りて、一度エントランスに。ダンスホールに向かう通路を歩いて、開いていた扉を。


「何をしているのかな」


「きゃあっ!」


後ろから聞こえた声。両肩を掴んだ手に引かれて、温もりが私の体を包み込む。

背中に感じる熱と胸と腰に巻き付いた腕。それは不快極まりないもので、耳元に当たる吐息に体が震えた。

ゾワゾワとしながら私は顔を上げる。ルーベンスの顔は、唇同士が触れ合いそうなほど近かった。


「や、やだ!離れてください!」


身を捩って離れようとしたけれど、ルーベンスは腕を更に締め付けて、私をじっと見ていて・・・ああ、最悪だわ。私の侍女は優秀な方だから、今日も男性の欲を煽るナイトドレスを着せていた。薄地で肌の感触が分かるから、ルーベンスと言えど。


「アリア」


「や、やめっ、いやぁ、ん」


唇を吸われた。感触と間近にある顔が悍ましいから視界だけは塞ごうと目を閉じてしまった。何度も音を立てて吸われて、下唇を食まれたり、角度を変えて唇を重ねられる。


「ん、んんっ!んー!」


嫌だと声にも出せなくて身動ぎしていたら。


「・・・はぁ、もう耐えるのは無理だ」


「き、気持ち悪い!私にキスなんて!もう、きゃあっ!?」


抱えるように体を持ち上げられた。目を開けば扉からは離されて、お腹にルーベンスの肩が当たって痛い。


「いや!降ろして!降ろしてったら!」


私の抗議なんて聞かない。ズンズンと無言で進むルーベンス。振り返って見れば、談話室に向かっているみたいで・・・私と話すことがあるのかしら。


(そうよね、キスをされたもの。不愉快で気持ち悪くて)


手の甲で唇を拭う。それと同時にルーベンスは談話室に入室した。きっと子作りを命じられる。跡取りやお母様にそっくりな娘を産むのが私の義務だもの。

そんなことを呑気に考えていたから、ぼんやりしているから私は行動が遅くなる。


「いやぁ!やぁ、あぁっ、やめてぇ!」


気付いたらソファに寝かされて、呆気に取られていたらナイトドレスを脱がされた。覆い被さってきた怖い顔のルーベンスは、手や唇、舌で私の肌を刺激する。それが気持ち悪くて悲鳴を上げたけれど、もう遅かった。

獣が獲物の鳴き声で止まるわけがない。ただ欲を煽られて、貪り尽くすだけだって、貫かれたときにやっと気付けた。




これは強姦。夫婦と言えど、合意ではなかったから立派な強姦。

力の入らない重い体、足の付け根は痛み、ぼんやりとする頭。それでも考えてカーテンの隙間から注ぐ陽光を眺めていた。

目覚めたのは先程だけど理解している。私は一晩中、私を後ろから抱き締めて眠っている男に嬲られ続けた。泣き叫んでも何度も奥を貫かれて、馴染んだことで快楽を拾い、繰り返し果てて・・・きっと快感に弱い体だったのね。初めてだったから分からなかった。処女を散らしたばかりなのに、気持ち良さを得てしまうほど私が淫らな女なんて。


涙が溢れてくる。

浅ましい自分に、これからのことに、背後のルーベンスの不愉快な温もりが嫌で、涙が止まらない。


「・・・アリア」


グニャグニャにぼやけた視界。何もかもが分からないけれど、私の名前を優しく呼ぶ声と、首筋に唇が当てられたのは分かった。


まだ私が欲しいらしい。

そうね、そうだわ。この方は真面目で合理的で紳士ぶっていた獣だもの。

私はこの獣に貪られながら、豪華に取り繕った牢獄で、幸せなんて感じずに生きていくのね・・・。

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