閑話・ベータ版8
ベータテスト4
「よーし! 行くぞ!」
プレイヤーレベルに合う討伐クエストを受注したハラが紙を皆に見せていると、明けの月影がやる気満々で声を上げた。
「まずはちゃんと見なさいよ」
「……はーい」
面倒くさそうに返事をして紙をサラッと読む。
その態度はミリタリーネをイライラさせた。
「ワーウルフ五体と、レッドラビット三体の討伐。わかってるの?」
「わーかってる!」
森の中を駆け抜ける5人。
相変わらず先頭は明けの月影だ。
「……いた」
「カガリ君、よろしく」
「おう」
目標を見つけたシュウは片手を控えめに上げて伝えると、ハラがカガリを見て言った。
盾を構えて返事をし、パーティメンバーを見る。
一段上がった装備に、少し強くなった武器。
明けの月影は短剣から双剣になり、ハラの笛はクラリネットに変わった。
シュウの弓も少し大きくなり、ミリタリーネの杖は宝石が付いてすこし重くなった。
そしてカガリの盾も薄く小さなものだったのが、今は体の半分位の大きさになった。厚みもある。
「先に行くぞ」
全員が頷いたのを見てからカガリは前に飛び出した。
結果的に言うとクリアした。
しかし、死に戻りは居ないとはいえ手持ちの回復薬のほとんどを使い切り、防具の耐久値をかなり減らした。
「厳しいわね」
親指を噛んで言うミリタリーネ。
戦況が上手くいかない苛立ちが全員に伝わる。
「みんなバラバラだからなぁ」
「弱いのが悪いんじゃん! なんで強くならないんだよー!」
これはカガリ達だけでは無いのだ。
各パーティで最近多く発生しているスキルの上手な使い方が出来ずに理想的な戦闘が出来ない。
例えば火力職なのに火力が圧倒的に不足してる、だったり。
盾もペラペラで貫通する。
回復量が足りない、等。
戦闘には全部の職を上手に組み合わせてやれば、このフィールドのボスモンスターも倒せるはずなのだ。
実際第2の町に行ってるプレイヤーも少なくない。
それでも行けないプレイヤーは多く、どうすればいい? と模索する。
そしてやっぱり浮かぶのは、現在地雷職として言われだした奏者の存在。
カガリ達パーティで言うならハラである。
「……ごめん、僕が上手くバフを掛けれたら良いんだけど」
「出来ないのはしゃーねーよ。レベル上げて頑張ろーぜ」
落ち込むハラの背中を叩いて励ますカガリ。
力不足である事は変わりないのだが、奏者はそれの中でも群を抜いている。
ハラはクラリネットに変更した。
それなりの響きを持っていて移動も出来る。
戦闘にも使いやすいと思って、店の主人に聞いて新品購入したクラリネットは、うっすら青にも見える黒いクラリネットだ。
しかし、ハラはその武器の難しさを戦闘を繰り返す毎に痛感した。
まず、響きが足りなくて仲間の耳に入らない。
近くに行ったら戦いの邪魔になるし、かといって離れたら、音が聞こえずハラの奏者としての価値が無くなる。
そばに近づいて、戦ってる仲間の隣に立って、風上に立って……いや、匂いじゃないから関係ないか。
ハラは1人で模索し続けた。
このままでは迷惑をかけるし、要らないと切り捨てられるのも時間の問題だ。
どのゲームにもバフ、デバフはあって、現在それは奏者しかできない。
バフ、デバフの効果のあるアイテムなんかはまだ発見されていなかった。
だからこそ、使えないと言われはじめた奏者だが、どのグループも手放したりはしなかった。
「どの職もまだ上手く使いこなせてないんだよな……」
ログアウトしたカガリは現実世界でつぶやいてからパソコンを起動する。
情報集めにと端から端まで見ていくと、地雷職と書かれた項目を発見した。
「…………おいおいおいおい」
掲示板に書かれていて、スクロールして見てみるが書かれた内容は大差ない。
どれも奏者の存在について。
使えない奏者を守るのに逆に敵に殺られる
そう書かれた内容から一気に爆発的に奏者叩きが始まった。
これを見た運営は修正をするべきか、迷いだしたころゲームの中で実際に奏者をパーティから弾き出す人が増え出てきたのだった。




