閑話・ベータ版6
「……どうする」
初期のプレイヤーが使えるように用意されているのだろう激安の食事処、その丸テーブルに5人は座っていた。
飲み物だけを頼んだ5人は跳びうさぎの攻略の作戦を始める。
「まぁ、テンプレ通りに盾が抑えてる間に倒すがセオリーだし、それで行けそうだったよね」
シュウが頬杖をつき言うと、カガリも頷く。
「素早さや攻撃力はあるけど防御力は低そうだしな」
「じゃあカガリが抑えないのが悪かったんじゃんか」
「あんたが突っ込むから悪いのよ」
不貞腐れて言う明けの月影にミリターネが冷たい一言。
うっ……と言葉を詰まらせてぷいっと顔を背ける。
「じゃあ次はちゃんと集まって捜索しましょう、ね?」
いい雰囲気じゃない明けの月影とミリターネに愛想笑いをしながら言うハラ。
渋々頷くと明けの月影は、あ! と声を上げて慌ててステータスを開いた。
「うわっやば!」
「なんだ?」
声を上げた明けの月影に全員の視線が集まると、困ったように眉を下げた明けの月影。
「あのさ、俺もうログアウトの時間なんだ……」
「あ、そうなのか。じゃあ明日また集まるか」
サラッと返事をしたカガリに目を丸くする明けの月影が慌てて言った。
「い、いいの? また明日組んでくれるの?」
「良いも何もパーティ組んだんだからまた集まるだろ?」
「そ……っか。そっか! うん! また明日!」
安心したように笑った明けの月影。
どうやら今日が終わったら解散なのかと思った様でカガリの言葉に笑って頷いた。
「じゃあ、皆また明日」
「明日ログインしたらそれぞれ連絡しましょ」
「カガリ、連絡するな!」
「あ? 俺か?」
「じゃあ皆カガリ君に連絡って事で」
こうしてパーティを組んだ初日は跳びうさぎを1匹討伐して解散。
次の日、ログインしたメンバーからカガリに連絡する事になった。
翌日
バイトが無い今日は早くからログインをしたカガリ。
相変わらず元気に走っている子供達を見てまだゲームの中だと忘れそうだと呟いた。
「……まだ誰もいないな。どーすっかな」
「わぁ! ごめんなさい!」
「あ、いや。俺も気づかなくて悪かったな」
ログインした場所で悩んでいると後ろから人にぶつかられた。
振り返ってみると、ピンクの短髪の男性が頭を下げている。
カガリは軽く手を振ると、男性はふわりと笑ってまるで髪を耳にかけるような動作をしたが指には何も触れず、あ……と声を上げる。
「あ……はは、癖って抜けないものですね」
手を離して照れたように笑ってからもう一度頭を下げて早歩きで去っていった。
かなり先に数人集まっている集団がいてそこに向かっているみたいだ。
「……神官、か」
カガリは空いた時間、街の店を冷やかしながら見て回った。
「……お、シュウか」
急に聞こえた電子音にビクリと体を揺らしたあとステータスを開く。
しっかりと着信と出ていて妙な現実感を感じつつ受信すると、ログインしたよ。と簡潔に言われた。
「まだログインする公園にいるか? そうか、俺がそっち行くからちょっと待ってろ」
了解、と返事があってからカガリはシュウとの合流の為に歩き出した。
公園に着くと、パラパラとログインしている人がいて白い光の柱が見える。
消えるとそこにはプレイヤーが居て、ゲームにテンションが上がっているのがわかった。
「お、シュウ……と、ハラもいたか」
「ちょうど今ログインしたんだ。そうしたらシュウ君がいたから」
ニッコリ笑ったハラにそうか、と頷くとすぐ隣にまた光の柱。
「…………あら?」
「……………………おぉ!?」
たまたまだろうが同時にログインした明けの月影とミリターネ。
これで全員が集合した。
「よっし!! いくぞリベンジ!!」
「いや、今来たばっかりだから」
全員の顔を見た瞬間言った明けの月影にミリターネが呆れたように言った。
第一声がそれか……
森に到着した。
ログインしてから直ぐに動きたがる明けの月影と、まずは装備を確認と言うミリターネの言い合いにカガリが仲裁に入るなどゴタゴタしたが、無事に全員が森に到着した。
「……なぁミリターネ」
「なによ」
「間違ってたら悪いけどさ」
「なに?」
「お前今まで他のゲームとかもしてたよな? しかもかなり」
先程の言い合いの中で聞こえてきたミリターネの話は明らかにゲーム経験者の主張だった。
「……私、廃課金者よ」
ニヤリと笑って言ったミリターネに、カガリはなるほど……と笑った。
今まで画面上で行ってきたゲームを体感できる事にミリターネはかなり期待していた。
しかし、せっかく組んだパーティは暴走気味でちょっと頭が痛い。
今も先頭を歩く明けの月影にミリターネはため息をついた。
「あれは完全な初心者のガキね」
「ああ、しかもゲームワクワクが爆発してる厄介なガキだな」
「はぁ、厄介なのよ。そういうやつは本当に厄介なのよ! カガリ!」
「なんだよ……」
「なんでもないわよ、八つ当たり」
「素直に八つ当たり言うな」
ペラペラと何かを話し続ける明けの月影を後ろから見ていた2人は思う。
「「このパーティは長くないわ」」
それから昨日に決めていたフォーメーションで、順番で確実に跳びうさぎを一体ずつ倒し、当初の予定である残り4体を倒したのだった。
カガリが森で跳びうさぎを2体倒した時に、ピコン! と音がして、ステータスを見ると右下にクエストクリア! の字が書いてあった。
ノーマから頼まれたクエストが終わったのだ。残りは納品のみ。
だが、明けの月影とハラの5匹討伐には足りない為、合計5匹討伐倒した後街で一時解散となった。
明けの月影はまだ森で戦いたがっていたが、クエストクリアをしに行かないと、とハラからの説得があり渋々納得したのだった。
カガリはある一軒家の前にいる。控えめにノックすると、奥から返事が聞こえた。
「あら! カガリくん! うさぎかしら?」
玄関が開いて出てきたノーマは買い物帰りなのかまたあの紙袋を持っていた。
カガリを家に入れてキッチンへと連れていくと、ここに出して! と作業台を指さした。
カガリは狩ってきた三体を出すと、倒されたままのうさぎが作業台に横たわり思わず「え……そのまま」と呟く。
「今狩ったばかりだね! 新鮮だ! 今日これからシチュー作るよ、待ってるかい?」
「あ、ああ、待ってる」
「よし、じゃあ作るかな!」
ノーマが出したのは出刃包丁。カガリが「あ……」と、声を出した時笑顔のノーマが包丁を振り下ろしうさぎの首を落とした。
飛び散るうさぎの血がノーマの頬に付き、腕でゴシゴシと拭いてからも、ダンダンと音を鳴らしながら笑顔で、笑顔でうさぎを解体するノーマに、カガリは攻撃してくるうさぎと初めて対面した時と同じくらいの衝撃を受けたのだった。
 




