俺と愛猫の再会
見慣れつつある天井を見上げて目を覚ます。
……俺は今日も変わらずここにいる。
しばらくぼんやりとしていると、俺の目覚めを見計らったようにアイリスが入ってきて、一礼をする。
「ハイド様。おはようございます」
「ああ。おはよう、アイリス」
「早朝、森神様がいらっしゃいまして言伝を預かりました」
「森神が?なんだろう?」
『伝え忘れておったことを思い出しての。森の様子についてじゃ。……時折、命の密度が極端に薄い箇所がある。これが何を意味するか、わしにもわからん。じゃが、気にかけておいたほうが良かろうて』
「とのことです」
「ふむ……」
命の密度、という感覚はわからないが、何かしらの異変の兆候なのかもしれない。覚えておこう。
「ハイド様。こちら、朝のハーブティーです。考えを整理するのにも役立つでしょう」
「おお。ありがとう」
そうして森神の言伝や今後の課題について考えを巡らせていると、棚の上にある猫じゃらしが目に入った。
……もしかするとアイツもいるのか?
「なぁ、アイリス。マスターキャッツはいるのか?ゲームが現実になってるならアイツもいるんじゃないのか?ほら、猫じゃらしが置いてあるし」
「申し訳ありません。誰かが片付け忘れていたようです。この部屋は長いこと、実質彼の部屋でしたからね。はい。確かにマスターキャッツ様はいらっしゃいました。ですが……」
「ですが?」
「……彼はごく普通の猫です。我々の200年間にはついてこれませんでした」
「……そうか」
「お墓はギルド館の裏手にあります。落ち着いたらお参りしてあげてください」
「ああ。そうするよ」
ハーブティーを飲み終え、身支度を整えてから、お供え用の花を持ってギルド館の裏手に向かった。
道中、農村の住人であろうエルフとすれ違った。
「うん?ギルド館にエルフとは。なんだろう?」
「この先はキャッツのお墓です。きっと彼もお墓参りでしょう」
「……キャッツ、随分と愛されてたんだな」
「はい。我々ギルド館メンバーは勿論、わざわざギルド館まで会いに来るエルフも居たほどですから」
そうしてやってきたギルド館の裏手には、立派な大樹があり、その根元に綺麗には整えられた墓石があった。墓石には簡素に「マスターキャッツ、ここに眠る」と刻まれていた。
持ってきた花を供える。
「よう。キャッツ。会いに来たぞ」
返事はない。それでも、不思議と悲しくはない。
「なあ、アイリス。キャッツはどんな猫だったんだ?」
「キャッツはまさしく我々のアイドルでした。先ほどの彼のように、農村のエルフにも広く親しまれました。テイルなんかは業務に支障が出るほどでした。ふふ、何度注意したことか」
「ははは。よく可愛がってくれたんだな」
「はい。……お葬式の日には森神様もいらしてくださいました」
「森神が?意外だな」
「大森林の習慣です。森神様は住人が森に還るたびに、そこに立ち会い、その亡骸の上に木を植えるのです」
「……そんな習慣まであるとはな。ふふ……それにしても、随分と愛されたようだ」
「ええ。……そういえば。晩年は玄関でじっとしている事もありましたね。……誰かを待っていた、のかもしれません」
「……そうか。はは、待たせてしまったかな」
200年という時間の長さを改めて実感する。
それでも。確かに残り、続いていくものがある。
俺はそうして続いていくものを守れる存在になれたら……いいな。
「さて、今日はもう行くよ。キャッツ。……またな」
キャッツの墓に祈りを捧げ、歩き出す。
これからはフィリアを交えた、アルヴェイン視察の作戦会議だ。
……どうか。この道に愛猫の加護あらんことを。




