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白黒の英雄 ~ちょっと記憶力の良い俺が、魔法を無効化しながら異世界を救う話~  作者: アキラ・ナルセ
第一章 火の国編

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第39話 「異世界人」と「裏切り者」と「ラスボスの娘」

 

 複雑にいりくんだ回廊を俺とリシアは走っていた。

 どこもかしこも似たような景色。


 リシアは辺りを見渡しながら言う。

「まるで迷路ね。どっちに進めばいいのか分からないわ」


 俺は壁の方へ手をかざし、空気の流れを感じとった。

「風が来てる。こっち……たぶん出口があるはずだ。とにかく外に出よう」


「私がこの壁に穴を開けてもいいけれど?」


「あ……相変わらず心強いね。……いや、だけどやめておこう。きっと追手が来る。リシアの魔力は温存しておいた方がいい」


 次の瞬間——

 奥から足音が響いてきた。俺たちはすぐにかまえる。だが、姿が見えた瞬間、俺は声を上げた。

「ユ、ユーリス……!?」


 リシアも驚いた様子だがすぐに厳しい顔になる。

「あなたいったいなんのつもり? それにその背中の子、レイ……?」


 けれど俺はリシアの前に一歩出て、静かに言った。

「まってリシア。この目……たぶん、いつものユーリスだ」


 ユーリスは無言のまま俺たちの前まで来ると、頭を下げた。

「……凪。そしてリシア隊長、こんなことになってからじゃ遅いけど、申し訳ない。」


 リシアは迷ったように口を噛む。

「凪、どうする?」


 俺はリシアに微笑みを返したあとユーリスに語りかけた。

「俺はユーリスを信じるよ」


「……あぁ、ありがとう。僕が必ず君たちをここから逃がしてみせる」


 リシアが呆れたように一言。

「……相変わらず甘いんだから」


 俺もそれに返す。

「いいだろ? みんなで生きて帰ろう!」


 三人は意思を固めあった。


 ユーリスはレイを背負ったまま、後ろを確認しながら

「とにかく走りながら話そう。向かうべき場所があるんだ!」



 * * *



 いくつもの分かれ道を抜け、階段を駆け下りていく。その途中で、俺たちは言葉を交わした。


「外に向かっているんじゃないのか?」


 俺の問いにユーリスが答える

「この場所はね、藤原の最上級魔法ともう一人の人間の特殊な結界で閉ざされた閉鎖空間でね。僕ですら世界地図のどこに存在しているのかはわからないんだ。前に来た時はレイを通しての転移術での出入りだったからね」


「そんな」

 リシアが反応する。


「ここはね、もともと……藤原の研究施設だったそうだ」

 ユーリスのその言葉に、俺は聞き返す。

「研究施設? 何の研究をしてたっていうんだ?」


「さっき彼が言っていただろ。彼が地球へ帰還する方法の研究さ。そして同時に、敵対する国家や組織に対抗できる“個”の戦力を生み出す……危険な人体実験も行われていたらしい」


 リシアが言う。

「ユーリス、あなた……パパのこといろいろ詳しいのね」


「はい。僕がこの施設にいたのは創設初期からじゃないですけど、過去の記録が一部残っていたり、噂話は聞いているんです」


 俺も彼に問う。

「……お母さんを人質にとられてたんだよな。それでスパイとしてイグナスに潜り込まされたってことだよな?」


「まぁね。……何度もやめようと思ったさ。でも、亡くなった父との約束があった。母をどうか頼むって……それが、父の最期の言葉だった」


「そうか……」


 少しの沈黙の後ユーリスが言葉にした。

「でも、僕の罪は消えないよ。だからこそ、君たちという希望だけは……絶対に消させたくないんだ」


 そして、立ち止まり、とある扉の前で足を止める。

「たしか……ここだよ!」


 俺はその場で、奇妙な既視感(デジャブ)に襲われた。

 さっきまでの場所では感じなかった嫌な感覚が、この区画に入った瞬間から胸の奥でざわめいている。


 ユーリスの案内で、俺たちは鉄の扉の前に立った。

「さぁ、ここだよ。二人とも入るんだ」


 ユーリスに案内され、俺たちはその部屋へと足を踏み入れる。


 その瞬間だった。視界が、白く弾けた。


(……!?)


 白い部屋。管に繋がれた手足。遠くから響くような、誰かの叫び声――


「うっ……」


「ちょっと凪? どうかした?」


 リシアがふらついた俺の体を支えてくれる。

「あぁ、たぶんちょっと疲れただけ。……大丈夫」


「さっきの凄まじい力の影響かもしれないね。急ごう」


 ユーリスの言葉にうなずきながら、俺は辺りを見回す。


 その部屋には、数十機のカプセルのような機械がずらりと並んでいた。形も大きさも揃っていて、人間はもちろん、並サイズのモンスターならすっぽり入れそうな構造をしている。


 彼は背中に背負っていたレイを壁際へとそっと下ろしながら言った。

「この子は途中で敵が現れたときの保険だったけど、どうやら間に合いそうだね」


 そう言って、カプセルの一つへ歩み寄り、操作盤に指を滑らせる。


 俺は彼に尋ねる。

「ユーリス、これは何なんだ?」


「これは、そこにいるレイの持つ固有の黒の力である“転移術”を藤原が人工的に再現した装置さ」


 リシアも続く。

「転移術って……あの子の固有の力なのね」

「はい。非常に強力な術ですが、連続使用はできませんし、使い過ぎれば今の彼女のように行動不能になります。だから藤原たちは、長年にわたって莫大な資金を使ってこれを量産したんです」


 俺はここで納得した。

「……なるほど。イグナスに大量のモンスターを送り込めたのは、この装置があったからか」


 そのあと俺はリシアを見て話す

「俺がこの世界に転移してすぐに見たリシアを撃った白いローブの人影。多分それはレイだったんだ」


 リシアも思い出すように話す。

「……そう言われてみると、あの時の私の攻撃は完全に当たったと思ったのにはずしたのよね。じゃあれは転移術を使ったということだったのね」


 ユーリスはうなずきながら最後にボタンを操作した。カプセル内部が静かに光を帯びていく。

「よし、起動できそうだ。……誰が先に入る?」


「じゃあ先に、リシアが行ってくれ」

「…わかったわ」

 リシアは少し不安そうに返答した。


 ユーリスはリシアに語る。

「心配はいりません。このあと、すぐに別の装置で凪もイグナスへ転移させます」


 リシアはうなずくと装置へ入り、扉がゆっくりと閉まっていく。


「座標軸設定、入力」

 電子音声が響いた。

 《経度L132.4・緯度F58.7……術式共鳴率:0.992》


「よし……これであと一分もしないうちに、リシア隊長はイグナスへ戻れる」


 俺はカプセル越しに、リシアの姿を見つめる。


「リシア。またイグナスで会おう」

「えぇ、わかったわ」

 笑顔でそう返してくれた彼女を見て、少しだけ胸が熱くなった。


「さ、次は君の番だよ。入りたまえ」

 ユーリスが俺を促した。


☆今回の一言メモ☆

色んな要素が入ってきてて理解しにくい回だったと思います。

一つだけ面白要素を解説しますと、リシアが壁に穴を開けようかと無茶苦茶を言っているシーンはリシアが天然なキャラだからではありません。リシアは自分でも突飛なことを言っている自覚があります。リシアが凪の判断力を信じているからこそフラッシュアイディアを彼に投げかけたのです。

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