情報交換
食堂での事件は瞬く間に噂になった。
その中で、私は気になる話を聞く。
副会長シャルロッテ・ファン・ペルスは、『死者に会いたい』というカースに感染した一次感染者だということ。
このカースに感染した人間は、死者をその場にいるように強く妄想するらしい。
そして、その存在を否定するものに対し、攻撃を加える。
感染元のクリーチャーについては、特定ができないが、3年前にも同じカースによる事件がハーベストで起きているらしい。
その事から導きだされるのは、おそらく、私も同じカースに感染しているということ。
私があの日追いかけたスバルは、私の中の妄想でしかないと気づいてしまって、胸がぎゅっと締め付けられた。
スバルの馬鹿。
死んでからも私を振り回す。
それでも、妄想でも良いからスバルに会いたいと思ってしまう私は、どうしようもないほどに救いようがない。
自嘲しながら過ごしていたある日、葉加瀬ちゃんから突然メールを貰った。
『副会長さんの件について、気になることがあるんです』
あの事件に関わった内の一人として、そう言われれば断れるわけもなく、私は葉加瀬ちゃんの召集に応じた。
そこには宙太くんもいて、シャルロッテちゃんをすごく心配しているようだった。
私は葉加瀬ちゃんに「何か知っていることはありませんか?」と言われて、シャルロッテちゃんのカースについて詳しく説明する。
頷きながら聞いていた葉加瀬ちゃんはふと顔をあげると、首をそっと傾けた。
「副会長がカース感染していることは理解しました。それなら、彼女はいつクリーチャーと接触したのでしょう」
「えっとぉ、一次感染、だっけ? それなんだろ? シャルロッテのお姉ちゃん、すっごく強いじゃん? 沢山クリーチャーと戦ってたとか?」
「その可能性は高いわね」
カース感染はクリーチャーから直接感染する一次感染と、一次感染者から感染する二次感染がある。
シャルロッテちゃんは二次感染ではなく、一次感染だと断定された。
シャルロッテちゃんの実力は並みの生徒以上だもの。クリーチャーハントをしていたっておかしくない。
でもたぶん、クリーチャーハントでの可能性は高くないと思うのが正直なところ。
……私がカースに感染しているのなら、私もクリーチャーに接触している可能性が高い。
だって発症のタイミングが良すぎる。私はここ最近クリーチャーと接近はしてないものの、この感染のタイミングからシャルロッテちゃんからの二次感染でも無い気がするから。
でも、その事を葉加瀬ちゃんたちに伝えることはしない。
私が感染していることは伏せながら話し合いを進めていくと、私がそれ以上調べられなかった三年前の事について、葉加瀬ちゃんが言及する。
「キーワードは三年前、でしょうか。私の方でも調べてみたんですが、意図的に情報が操作されているようでした」
「おそらく、魔法で事実が隠蔽されているのよ。……理事会の仕業かな」
「それって上の偉いじーちゃん達が圧力かけてるってこと!?」
宙太くんが大きな声を出す。
内容が内容だから、もうちょっとオブラートに包んでほしいんだけど……。
私と同じことを思ったのか、葉加瀬ちゃんも苦笑いだ。
「で、でも、それなら俺たちどうすることもできないじゃん……! シャルロッテのお姉ちゃん助けられないよ!」
悔しそうに地団駄踏む宙太くん。
確かに、理事会が関わっているなら私たちに出来ることはもうない。手詰まりだ。
それにしても三年前。
三年前、か。
スバルが死んだのも三年前。
何かの符号のようなそれに、頭の奥から何かが、その符号に気づけとガンガン叩いてくる。
ぼんやりとその正体に想いを馳せていると、ふと葉加瀬ちゃんが思い付いたように言った。
「確か魔導書魔導学科の大魔法にアカシック・レコードがありましたよね? あの魔法なら、過去の事実を覗き見ることができるはずです」
宙太くんが目を輝かせて「それだ!」と叫ぶ。
「すごい! 葉加瀬の姉ちゃん頭良い!」
「でも、魔導書魔導学科に知り合いなんて……」
「いますよ」
葉加瀬ちゃんがちょっとだけ誇らしげに胸を張る。
「ガンディー先生に頼んで、三年前の事実を確かめてみませんか?」
真っ直ぐな後輩二人を前に、私は頷くことしかできなかった。
ガンディー先生の研究室へ向かう。
ノックをして研究室へと入室すると、ガンディー先生は部屋で一人、写真を見ていた。
「おや、オリーヴ・アルベールに時ノ葉加瀬、それから山ノ上宙太まで。お揃いで一体どうしたのかな。この前の授業のことで何か質問が?」
ガンディー先生は私たちを見てそういうと、そっと写真をしまった。
「先生、何を見ていらっしゃったんですか?」
「ただの写真だよ」
やんわりとかわされた。
それから「用向きは?」と言われたので、私はちらりと葉加瀬ちゃんを見る。
葉加瀬ちゃんは一つ頷くと、口を開いた。
「私たち、副会長のカース感染の事件を調べていて。それで、その鍵が三年前にあったという事件にあるんだと思ってるんです。でも、その情報は意図的に伏せられていて……だから、三年前の事実について教えていただきたいんです」
葉加瀬ちゃんの言葉にガンディー先生は一度目を臥せると、懐にしまった写真へと手を伸ばす。
「そうか、3年前の……。アルフレッドとアンネの……これが私の運命か」
そう呟くと、ガンディー先生は発動体である魔導書を手に取った。
それから真剣な顔になって、私たちへと向き直る。
「君たちの望み。私が果たそう。準備はいいか?」
ガンディー先生と視線が絡んだ。
その視線に、覚悟を強いられているような気がして、私はたじろぐ。
葉加瀬ちゃんと宙太くんが、強く頷くのを横目に、私は一瞬躊躇ったけど……でも、しっかりと頷いた。
ねぇ、スバル。
あなたならきっと、迷わず頷いたよね。
私も、シャルロッテちゃんを助けたいと一生懸命な宙太くんと葉加瀬ちゃんの力になりたい。
何より、シャルロッテちゃんを慕っている宙太くんに、私と同じ想いをしてほしくない。
私が頷いたのを見届けたガンディー先生が、魔導書を開く。
「それでは始めよう。───地球の記憶」
明るく発光する魔導書のページ。
そこから、フィルムのようなものが次々と溢れ出してくる。
気が付ついたらそれらは、私たちの周りを取り囲んでいた。
「これから見せるものは、この地球が『視た』記録だ。見逃しは一つもあるまい。さぁ、学生たちよ。全ての始まりを、目撃せよ」
そうして私たちは、過去の時間を遡る。




