4話
マンションに跳躍すると、キッチンマットの上に私が着ていた服が一式、蝉の抜け殻のように落ちていた。
幸いなことに、ティーポットやカップを持っていたときでは無かったので、陶器の割れ物は無し。
T-f○lは沸騰すると勝手に電気が切れるので、こちらも問題無し。
召喚というものがどれだけ傍迷惑なものか、しみじみと思う。
冬場カセットコンロを使用しているような状況だと、マンション火災を引き起こしかねない。
故意に放火するような輩と同様に性質が悪い宇宙人だった。
改めて言うが、異世界人ではなく、宇宙人である。
これは私の能力により確定しているのだが、先ほどまで滞在していたダークファンタジー世界は地球から何万光年か離れた地球型惑星ということになる。
息苦しさや身体の重たさを感じなかったことから、大気組成や重力などは極めて地球に似ているようだ。
宇宙人が地球人そっくりの人間に見えたのだから、進化の過程まで似ているんだろう。
ただ、魔法なんていう不可思議な技術だか能力だかを持っている時点で、地球人とは違うと言える。
私に言われたくはないだろうが。
不幸すぎるファースト・コンタクトではあったが、宇宙人が存在したということ、何万光年先の地球型惑星に道ができたことは、純粋に私の知的好奇心を満足させてくれた。
そこが何処であれ、どのような状況であれ、一度招かれれば私はその場所を完全に把握することができる。
「絶対音感」という特殊能力があるようだが、私の場合は「絶対空間認識」といってよいだろう。
ただ、この認識は一度でも行った場所、または自分自身の目視範囲などの制約があるため、この能力を生かすためには、まず自分が現地に一度赴く必要がある。
例えば、私はブラジルに行ったことが無いため、跳躍で移動することはできない。
逆に、ハワイには行ったことがあるため、その気になれば前回泊まったホテルの部屋に跳躍することも可能だ。
そして、イタリアには行ったことがあるが、この能力が解放される前だったため、跳躍することは出来ない。
正直、日常生活の中で長距離跳躍をしたことは無い。
マンション内でこっそりテレポートごっこするくらいで、それもとっくに飽きている。
「どこ○もドア(※一部制限あり)」を手に入れても、現代社会じゃ使えないのが実情だ。
監視カメラは至るところに設置されている、我がマンションしかり、駅構内しかり、コンビニしかり、職場しかり、こんな状況で跳躍なんぞを繰り返していたら、モルモットになる未来しか想像できない。
親兄弟、友人、仕事、一人暮らし(※マンション購入済)など捨てられないし、捨てたくないものがある以上、自重が必要だ。
大型トラックに轢かれても死なない自信があるが、そんな悪目立ちはしたくない。
秘密は粛々と墓場まで持っていく。
平穏無事に宝の持ち腐れのまま、寿命を迎えるんだろうと三時間前までは思っていたが、嫌な感じに関わりができてしまった宇宙人達をどうすべきか考える。
拉致/監禁/暴行/殺害という一連のルーチンワークをあの宇宙人達が繰り返し続けたことは事実であり、国家ぐるみの犯罪(※隠蔽工作込み)、長期間、複数回、計画的と誰かが止めないと止まらないだろうと思う。
紅茶を飲みながら、どうしたものかと唸る。
しょうがないので、一人ブレインストーミング開始。
テーマ「私の行動基準と達成目標」
①あの世界、少なくてもあの国家/王家に対しては、器物損壊、傷害、殺人などに関して自重する必要はない。
(私の立ち位置は治外法権と認識。
幸いなことに日本の法律でも罰せられない。)
②召喚魔法を調査し、地球人が使用できるかどうか確認する。
(召喚陣だけで発動はしないのか? 条件の組込方法は?)
③前述②の結果により、地球人が使用可能であれば、日本にリークすることも視野に入れる。
(リークする場合、時期/方法については熟考を要す。)
④前述②の結果により、地球人が使用不可能であれば、あの世界に存在する召喚魔法を破壊/削除する。
(あの国以外に国家があるか不明。
シラミ潰しで破壊/削除しても、イタチごっこになるか?)
⑤【緊急】三日後に控えた龍の生贄について、再召喚を阻止する。
(召喚陣は破壊したが復旧可能、または予備の召喚陣がある可能性大。)
⑥【緊急】三日後に龍と対面する。可能ならば今後について対話する。
対話不可能、または交渉決裂時は始末する。
⑦私の身分は「アマーリエ王女」となる。生贄とはいえ、王族の姫なので利用できる限り利用する。
(二十年前に生まれたお姫様という設定らしいが、私の実年齢は3X才。
召喚が適当すぎるのか? 年齢の数え方/公転周期が違うのか?)
⑧【緊急】前述⑦の通り、王女の立場を利用したいので、王女である私が生贄になるシナリオは却下。
龍と対話するにせよ、始末するにせよ、私以外の王族は不要。
(あの国家/王家がどうなろうと別に構わないので、私の行動の邪魔をしないよう臨機応変に対処する。)
⑨翻訳魔法を調査し、地球人が使用できるかどうか確認する。
(召喚魔法より優先度低。未確認のその他魔法についても、科学で代用できそうな魔法は一律優先度低。)
⑩夏休み期間のこの1週間はあちらでの活動メイン。
その後は、土日祝のみあちらで活動。
(ボランティア活動で自分の生活を壊したくない。)
とりあえず、こんなものだろうか。
後は、必要に応じて、追加/削除/軌道修正していくしかないだろう。
緊急案件だけは時間的に逼迫しているので、そろそろあちらに行った方がよさそうだ。
跳躍しようとして、ふと考えた。
家人に一度招かれないと、その家に入れないという設定は、古今東西の魔物でよく聞く御約束だ。
小説の中で召喚陣から呼び出されるのが「勇者」だの「巫女」だのになったのは、ごく最近のことではなかろうか。
少し前までは、召喚陣で呼び出されるのは魔界の悪魔で、召喚者は自らの望みのため魂と引き換えに悪魔と契約を結ぼうとしていたはずだ。
もちろん、悪魔と取引をするのだから、契約が成功しても失敗しても召喚者には悲惨な最期が待っている。
なんだか皮肉で暗示的だなと、私はうっすらと嗤った。




