プロローグ
王国の東の端に位置する小さな村に、王都からの使者が訪れたのは、抜けるような秋晴れの日だった。
届いたのは、羊皮紙に金箔の紋章が捺された一通の『召集状』。
この国では十八歳を迎えた男子は全員、王立騎士団への入団義務が課せられている。
「う……ッ、ゴホッ……!」
手元に届いた書状を握りしめ、ベッドの上で激しく咳き込むのは、双子の兄であるルークだった。
生まれた時から体が弱く、一日の大半をベッドで過ごす兄。そんな彼が王都の厳しい訓練に耐えられるはずがない。入団すれば、死を意味するようなものだった。
(……そんなの、絶対に許さない)
兄の横顔を見つめながら、ルチアはそっと唇を噛みしめた。
同じ日に生まれ、同じ金色の髪と、新緑の葉のような綺麗な緑の瞳を持つ双子。
鏡に映る自分の顔をじっと見つめる。肩まであった髪は後ろに一纏めに縛り、体をさらしで固く巻いて兄の上着を羽織れば、そこにいるのは「ルーク」そのものだった。
——その夜。
村全体が深い眠りに落ちた深夜、ルチアは静かにベッドを抜け出した。
机の上には、一筆書き残した置手紙。
『お兄ちゃんへ。ごめんなさい。私が代わりに騎士団へ行ってきます。絶対に無事で帰ってくるから、お兄ちゃんは体をとにかく大切にして、家で待っていてね』
そっと部屋の扉を閉め、冷たい夜風の中へ足を踏み出す。
胸の奥で高鳴る鼓動を抑えながら、ルチアは一度も振り返ることなく、王都へと続く街道を走り出した。
◇数日後——。
見上げるほど巨大な石造りの城壁と、活気に溢れた王都の門をくぐったルチアは、訓練場で開催されている「王立騎士団・入団試験」の熱気に呑まれていた。
周りを見渡せば、体格のいい男たちや、身なりの整った貴族出身の若者たちが剣を手に意気込んでいる。
「よし……っ!」
ルチアは両手で自分の頬を『パンッ!』と強く叩いた。
田舎で毎日のように山を走り回り、薪を割り、畑を耕して鍛え上げた体力なら誰にも負けない自信がある。
大切な兄の命を守るため、絶対にバレずに生き抜く。
(今日から私は、ルーク・アルノー。——絶対に騎士になってみせる!)
緑の瞳に強い決意の光を宿し、ルチアは入団試験の受入窓口へと力強く一歩を踏み出した。




