実験
翌日から、ゴンザの手伝いをすることになった。
そして村長から、しばらく滞在することになるだろうからと、空き家を一軒貸してもらった。
ようやくベッドで寝られることになる。
ただ、ベッドが一つしかなく、
私と姫様は一緒のベッドに寝ることになった。
私は藁で寝ますからと何度も断ったが、
じゃあ私も藁で寝るというので、
同意した。
本当に、姫様は皇女という自覚がない。
それで救われている部分もあるのだけど、
多少の罪悪感も感じずにはいられない。
……
私はゴンザの、
忙しいのは実は嘘なのではないかと疑っていた。
しかし、
本当に仕事が詰まっていた。
3か月、
フルで働いても消化できないほどだった。
机は伝票で埋まり、
修理待ちの道具で、倉庫は埋まっていた。
私たちは、とりあえず、ゴンザの指示で仕事を手伝ったが、
一向に仕事が減る雰囲気はない。
「ジュナ。
ゴンザのやっている仕事を分析しなさい。
そして、
私達でもできる仕事をピックアップして」
と姫様は言った。
私は手伝いを、
姫様とドンに任せ、
ゴンザの仕事を1日の間、
追跡調査した。
そして、ゴンザの行う仕事の八割は
私達でも可能なことを確認した。
「姫様。ゴンザの仕事の八割は私達でも可能です」
と私は伝えた。
「そう。やっぱり多いわね」
と姫様は少し考えこむ。
私は姫様が、
考え込む顔が好きだ。
それは美しく尊い。
「どうかしましたか?」
と私は尋ねた。
次にどう進むのだろうか。
私はワクワクした。
「昨日のふかし芋、甘いソースが欲しいわね」
と姫様は呟いた。
ふかし芋に、甘いソース??
「えっ。これからゴンザの仕事を減らす算段を考えてるんじゃないんですか?」
と私は尋ねた。
「うん、
うん……、
そうよ。
よくわかってるじゃない。
それでどうしたら良いと思う」
と姫様は尋ねた。
「そうですね。
私達でできる仕事のうち、
姫様が得意な仕事、ドンが得意な仕事、私が得意な仕事。
あとは誰でも良さそうな仕事にわけて、
それぞれが得意な仕事を担当し、
時間が空いた人は、誰でも良さそうな仕事をする。
っていうのが、良いかなと」
と私は答えた。
「完璧ね。私と同じ考えだわ」
と姫様は肩を叩いた。
私は、姫様とドンに、そのことを伝え、
同意を得た。
「ゴンザには私が言っておくわ」
と姫様は私に伝え、ゴンザに説明しにいった。
姫様の人を動かす能力は、
生まれながらの王族の血とも、
言えるのではないだろうか。
私はともかく、
知らぬ間に、村長、ドン、ゴンザを巻き込んで、
話を進めている。
相手の問題を解決するのだから、
当然と言えば当然なのだろうけど、
姫様を見ていると、
周りが姫様の影響で動かされている。
としか思えない。
まるでチェスの盤面上の駒のように、
人々が動いていく。
私が、道具を使うのと同じように、
彼女は人を使う。
そしてその使い方が、頼んだのではなく。
まるで相手が自発的に動いたかのように、
促すところが、本当にズルい。
それは姫様の素敵なところでもあるのだけど、
たまに、
とても憎らしく思う。
私も所詮は駒の一つであるのだろうけど、
できれば、
捨てられる駒ではなく、
最後まで使われる駒でありたいとそう願った。
……
ゴンザの仕事は急ピッチで進むようになり、
私たちが分業で手伝うことになってから、
わずか半月ほどで、仕事はすべて片付いた。
そして、
ゴンザは竹を前に試行錯誤をしだした。
まずゴンザは竹を割ることから始めた。
竹を縦に割り、そして両方の節を削る。
そして、割った竹をあわせる。
一同これでやったと思った。しかし――
ゴンザの目は曇った。
「ダメだ。これでは漏れる」
とゴンザは肩を落とした。
「布で巻けば良いのでは」
とドンは答えた。
それでやっては見たが、やはり漏れる。
そこで今度は、川の粘土を詰めて、布で巻いたが、
竹を持って、あちこちを眺め、ゴンザは首を振った。
「ダメだ。これでは強度が弱い」
ゴンザは頭をかいた。
次の日、
ゴンザは竹の中に小石を入れ、出口を革でふさぎ、
振り出した。
竹の筒はガラガラ音を出した。
しばらく振ってもなにも起きず、
ゴンザはドンに代わるよう言った。
ドンはひたすらに振る。
そしてしばらく振り続けた末、ようやく節が割れた。
一同今度こそと思った。しかし――
ゴンザの表情は険しかった。
「ダメだ。これでは時間がかかりすぎる」
とゴンザは竹を覗いていった。
しかし、ドンは食い下がった。
「せっかく出来たんです。他の若い奴にも頼んでやってみます」
そう言って、出て行った。
ゴンザは、
ドンを止めもせず、ひたすら他の方法を検討していた。
次の日、
ドンは戻ってきた。
とても疲れ果てた顔をしていた。
「ゴンザさん。どうしても空かない竹がある」
とドンは言った。
ドンは空かない竹を手渡した。
その数は半分以上もあった。
「あぁ。そうだろう。ワシも昨日気が付いた。竹によって節の厚いものと薄いものがある」
とゴンザは答えた。
「見分け方は?」
とドンは尋ねた。
眉間の深いしわを寄せ、大きくため息をついた。
「すまねぇ。わかんねぇ」
とゴンザは呟いた。
空気が重くのしかかる。
そこに両手に芋を抱えた姫様がやってきた。
「ねぇ。ソースはないけど、ふかし芋食べない?」
と姫様は言った。
「姫様。ちょっと深刻なんですよ」
と私は耳元でささやいた。
「知ってるわよ、
そんな能天気でもないんだし。
腹が減ったら、お腹がグーっていうでしょ」
と姫様はお腹をさすった。
「それはお腹がグーじゃなくって、戦にならぬでしょ」
と私は姫様にツッコミを入れる。
「えぇ~そうなの。
だって、お腹グーっていうじゃない。
それに私は平和主義者だから、
オヤツ食べても、戦なんてしないわよ」
と姫様は笑った。
(くすくすくすくす)
ゴンザが笑いをこらえている。
「はははは。ほんとあんたら、たまらんな。
面白い。
人がこんなに深刻になっておるのに」
とゴンザは笑った。
ドンは苦笑いをしている。
「あのさ。ちょっと聞くけど、芋って堅いわよね。なんでふかすと柔らかくなるの」
と姫様はきょとんとした顔でつぶやいた。
「あのゴンザさん……」
と私はゴンザの目を見た。
「それじゃ。それ。それいけるかもしれん」
とゴンザは言った。




