表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

従者の帰還

相談客の列が落ち着いたころ、

薄汚れたローブを身にまとった者が現れた。


どこか見覚えのある姿。

誰だろう。


手を握りしめ、微かに震えている。


「あなた、アリエス? 弓使いのアリエスじゃない」

と姫様は叫んだ。


その者は、

深くかぶったフードを上げた。

金色の長く美しい髪の毛、

エルフ族特有の長い耳、

緑色の美しい瞳。

それは間違いなくアリエスだった。


アリエスはじっと目を伏せている。

そして、ただ震えていた。


「どうしたの。お腹でも痛いの」

と姫様はアリエスの肩に手を置いた。


アリエスはひざまずいた。

「到着が遅れて、申し訳ございません」

とアリエスは悔しそうに言った。


ふとアリエスを見ると、

美しい顔をくしゃくしゃにして、

涙を流している。


姫様は、

とても優しい顔で、アリエスを見つめた。

そして、膝をつき、

アリエスをそっと抱きしめた。


「お帰りアリエス。

あなたがいなくて寂しかったわ」

と姫様はアリエスの耳元でささやいた。


アリエスの蓋をしていた感情が溢れだしたのだろう。

知的で冷静沈着、

氷のアリエスと異名を持つ弓使いアリエスは、

子供のように泣いた。


「だいじょうぶ。だいじょうぶ。怖かったわね。

ほら私はここにいるから、もうだいじょうぶだよ」

と姫様は泣きじゃくるアリエスの背中をポンポンと叩く。


そういう、姫様の瞳も、微かに濡れていた。


……

私たちは、アリエスと食事をすることにした。

私はもう慣れたが、従者が王族と食事をとることなど、

ほとんどない。


やはりアリエスも固辞したが、

「姫様が悲しまれるから、一緒に食べてください」

と私が言い、ようやく同意した。


姫様の食事とはいえ、今は質素なものだった。

アリエスは、

それを苦々しく感じていたようだが、

口には出さなかった。


「アリエス。それであなたはどんな状況だったの」

と姫様は尋ねた。


「気が付くと、私は知らない土地にいました。

海の近くです。

周りには誰もいなかった。

私はまず姫様を探そうと、方々歩き回りました。

それで、すごい力の巫女がいると聞き、

もしかしてと思って訪れた次第です」

とアリエスは答えた。


「やはり、巫女作戦は上手くいったようね」

と姫様は私をつついた。


「さすが、姫様です」

と私は微笑んだ。


「それで、この国の事とか、どれくらい情報があるのかしら」

と姫様は尋ねた。


「そうですね。まずエルフガルド王国の事を知るものはいませんでした」

とアリエスは頭をかいた。


「その件について、アリエスはどう思ったの?」

と姫様はアリエスの手を軽く握る。


アリエスの顔が少し赤くなる。

しかし、視線は伏せたまま……、

唇をかみしめる。

「エルフガルド王国との国交のない国への転移」

とアリエスは小さな声で言った。


「そうね。妥当な線でしょうね」

と姫様は、席を外し、窓から外を眺めた。


「この国の隣国とか、そういう話は聞きませんでしたか?」

と私は尋ねた。


「それが……、

そういう知識を持った人には出会えませんでした」

とアリエスは少し言いにくそうに答えた。


「あまり気にしないでね。

私たちも情報的には似たり寄ったりだから、

しかし情報があまりにも少ないわね」

と姫様は首をかしげる。


「姫様……、

そもそもここには国という概念はあるのでしょうか」

と私はふと疑問を呟いた。


「国という概念。

ちょっと待って、国がない世界なんてあるの?

それはさすがにおかしな発想じゃないかしら」

とアリエスは首をかしげる。


「ありえなくはないわ。ここは村だけど、名前がない。名前がないのは管理されていないから、そんな可能性だってあるわ」

と姫様は答えた。


「たしかに管理されていないなら、名前は必要ないでしょうね」

とアリエスはうなづいた。


「でもね。国という概念がないなら、エルフガルド王国を知っているかと聞いたとき、知らないというより、王国ってなになのかって聞くんじゃない」

と姫様は鼻を触った。


「ちょっと待ってください。人の名前や地名のように、エルフガルド王国という文字で認識しているのかもしれませんよ」

と私は答えた。


「考えもしなかったが、可能性はありえますよね」

とアリエスはうなづいた。


「国という概念がなければ、すなわち統治者がいないって事ね」

と姫様は眉をひそめる。


「姫様、統治者がいない国ってのは、どうなるのですか?」

と私は尋ねた。


「無法地帯になるわね」

と姫様はうなづいた。


「姫様を頼ってきている今の状況って、まさか……」

と私は姫様をじっと見た。


「無法地帯に近いのかもしれませんね。

それか、統治が行き届いていないか」

とアリエスは言った。


「そうね。国がないか、あっても統治が行き届いていない。もしくは自治がかなり認められている」

と姫様は答えた。


「もしかすると、その答えによって、やる事って結構変わってくるのでは?」

と私は尋ねた。


「もし、国がないなら、姫様が女王になるのが正解かと思います。

私は姫様を女王にいたします」

とアリエスは膝まずく。


「なに言ってるのよ。女王だなんて、そんな面倒なことしたくないわ」

と姫様はアリエスを立ち上げさせる。


「しかし、国がないなら、あまり謙遜する必要もないのでは」

と私は言った。


「ジュナ何を言っている。姫様が謙遜などされる訳ないじゃない」

とアリエスは驚いた顔で否定した。


「ちょっと待って、私だって、目をつけられないように、謙遜とかはできるわよ」

と姫様はむくれた。


「それが、信じられないでしょうが、姫様は最近、謙遜されてるんです」

と私は言った。


「姫様……、ご苦労されたんですね」

とアリエスは顔をくしゃくしゃにして泣きそうな顔をした。


「はいはい。その悪口なのか、褒めてんのかわからないのは、やめにして、水浴びでも行きましょ」

と姫様は言った。


私たちは、水浴びの道具を持ち、月明かりの中、川に向かう。

ここが私たちが復活させた川なのよと、姫様は自慢をしながら、

私たちは川に向かった。


満月の明かりがまぶしくて、水面がきれいに輝いていた。


精霊たちの気配が、少し戻っていたかに感じた。


END


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


この作品は完結していますが、

反響があれば続編を書く可能性があります。

ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。


■坂本クリア作品

異世界・現代・コメディなど様々な物語を書いています。

次に読む作品はこちらから探せます。


坂本クリアの小説まとめ|全作リンク集

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2898515/blogkey/3591538/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ