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悪女、憂う

「式の最中になんて言い方するのよっ!エキ君も怖がらせるしぃ…あのオ〇メインコッ!」


婚姻式も無事終わり、自室に戻って来てから私は1人怒っていた。


「まあ…兎に角落ち着いて?」


……いつの間にケイ殿下は後ろのソファに座っていたの?びっくりしたじゃない…オ〇メインコと叫んでいたのを聞かれちゃった?


私は開き直ってオ〇メインコの悪口を言った。


「落ち着こうにも…私は兎も角、お義姉様達は他国の国王妃と王太子妃ですよっ?不敬にもほどがありますっ」


ケイ殿下が、おいで~おいで~と手招きするので、渋々ケイ殿下の隣に座った。すぐにケイ殿下に抱き込まれる。


「もう少しだけ我慢してくれ」


私を抱き込みながら、そう呟き私の頭や顔に口付けを落とすケイ殿下に益々『?』という気持ちが沸く。


我慢?ファシアリンテをキューッと練り潰してやる何かがあるのだろうか?私的にはスリッパで頭をはたくくらいでいいのだけど…。叩いた時に、スパーンと良い音のする手作りスリッパを本気で用意しようかしら。


…。


……。


………。


なるほどね~。少し我慢はこういうことね…と3日後、ケイ殿下の説明を聞きながら苦笑いが浮かんだ。


ワーゼシュオン神聖国にクーデターが起こった。反乱を起こしたのは私の叔父、宰相のクレミルート=カルントだ。


私達の婚姻式に出席した後、マーシュガイトラ帝国を出国したファシアリンテ達はクーデターの起こった自国、ワーゼシュオン神聖国に入国出来ずに国境付近で立ち往生しているらしい。


ファシアリンテ達の動きは、ケイ殿下が放っている暗部の諜報から逐一報告が上がっていた。


「ケイハーヴァン殿下は叔父様…カルント宰相と連携されていましたのね?」


報告書を読みながら、ん~?と生返事を返してくるケイハーヴァン殿下…。この爽やかに見せかけた腹黒ぉ。


「婚姻式を餌に呼びつけて国から引き離しておいて、そこに内乱を起こして…ファシアリンテ達を国から締め出す…いつからこの計画を考えておいでで?」


報告書から顔を上げると、ケイ殿下は少し小首を傾げた。


「リシュリーと会ってすぐかなぁ。リシュリアンテの事を調べれば調べるほど、あの異母妹や国王陛下と王妃のしていることは腹に据えかねる所業だと思った。リシュリーはあの異母妹と離れたことだけで満足しているようだったが…何せ私は粘着質な性質だしな」


粘着質だなんて自分で言っちゃってるし。


「リシュリーに代わって断罪してやろうと…好機を狙っていた」


さすが粘着質皇子は根気もあるね。


「カルント宰相も…言葉は悪いが担ぎ上げさせて貰った。宰相が一番適任だしな」


はい、腹黒さんはそれを背後から操ると…。


「何も私だけの思惑じゃないよ?マーシュガイトラ帝国の総意だ」


皇帝陛下以下みんなが一致団結してくれたのね…。


「さあて、そろそろ言って来るんじゃないかな?」


「何をでしょうか?」


ケイハーヴァン殿下はそれはそれは悪役顔でニヤリと笑いましたよ?


「助けてくれ~国に入れなくなった~リシュリー何とかしろ~とか?」


「あ………ファシアリンテ達ですか?まさか私に助けを求めるなんて厚顔無恥なことは致しませんでしょう?」


とか、その時は言っていたのだが、次の日の朝ワーゼシュオン神聖国の使いという近衛騎士が息を切らせてやって来て、大変な窮地に立たされているファシアリンテと国王陛下夫妻をすぐにワーゼシュオン神聖国で保護するように計らってくれ、リシュリー何とかしろ!…というような感じの内容の上から目線な親書が届けられたのだ。


「ホラ見ろ、言った通りだろう?しかし何だこの慇懃無礼な物言いは?これが人に助けを求める者の文面か?」


そう言いながらシツラット大尉や軍のおじ様達と、親書?を回し読みする高貴な人達…。ある意味これも失礼なことかもしれないと心の中でソッと思う。


そして、この助けてくれ~な親書の返事は


「うちはぁ内乱には与しませんのでぇ…そっちで適当に頑張って!」


という感じの返事を出しておいたらしい。


そんな適当な返事で大丈夫なのか?とその話を聞きながら胡乱な目でケイ殿下を見ていると…


「心配するな、リシュリー。ちゃんと穴を開けておいたのでそこからワーゼシュオン神聖国に無事に戻って行くさ…フフフ」


「アハハ…」


そうだった…ケイハーヴァン殿下はワザと『穴』を開けてそこに誘い込む作戦が好きだった、流石腹黒。


そして数日後


ケイ殿下の予言?通りに『穴』から無事帰国を果たし、取り敢えずは遠くの領地から王都奪還を果たそうと出兵の準備をしているらしい、旧ワーゼシュオン神聖国の残党…と言ってしまおう…残りカスのヤツラ。


それから負け犬の遠吠え宜しく、遠くから


「うちが正式なワーゼシュオン神聖国だっごるぁ!」


「うちには正式な女王がいるんだぞっごるぁ!」


「シュオン神の天罰が下るぞっごるぁ!」


と色々と叫んでいた。とうとう神様まで引っ張り出してきて、神の怒りが~とか言っているけれど、だったらあんた達、神の祝福の件はどう説明するのよ?神様引っ張り出してきて怒りを買いそうなのはあんた達だよね?


今は公爵家(妃の実家)の領地で「元祖!ワーゼシュオン神聖国」ののぼり(国旗)を上げて頑張っているらしいし…いつまで持つかな~というのが周りの反応だった。


そんな私はいつものように医術医院で診察を行い、そして往診という新たな医療スタイルに挑むことになった。そう…寝たきり状態になったり病院に自力で通院出来ない重篤な患者を自ら出向き診察、治療する。


いつかはやってみたいと思っていたことだ。


まずは魔術師団を通して予約のあった貴族位の方から往診に出かけることになった。護衛やカロンとハレニア…医術医院の先生方と結構な大所帯での往診だが、仕方ない。


そんな往診をし始めて…暫くして、とある男爵家の往診を頼まれた。診察に際し、人目を避けたいという事、診察は私1人で見て欲しいと…条件をつけられたが、貴族位の方は隠したがる傾向にある為に快く了承して男爵家を訪問した。


護衛とカロンとハレニアを廊下に待機させて、私1人でご病気の方の寝室に入ることになった。その部屋の前で私は気が付いた。そして一瞬、どうしようか…と悩んだが結局好奇心に勝てず、1人で室内へ入って行った。


私は扉を開けて中に入るとその人物に語り掛けた。


「こんな所で何をしているの?ファシアリンテ」


少し薄暗い室内の寝台の向こうから、ゆっくりとファシアリンテが歩み出て来た。周りに人の魔力は感じない。久しぶりに見るファシアリンテはやっぱり庇護欲をそそる可愛い雰囲気のままだった。


「リシュリアンテ…いい加減にして」


「え?」


話しかけられた言葉の意味が分からず聞き返すと、ファシアリンテは胸の前で手を組み合わせた。


「私が憎いからってカルント宰相に命令して国を簒奪しようとしているのは分かっているのよ?あなたが止めてくれないと、皆が不幸になってしまうのよ?カルント宰相に命令して早く私達を元に戻して!今なら罪には問わないわ。私達に全てを返すのなら私は全て許しましょう。リシュリアンテ…あなたも許してあげるわ」


うぇ?!何その斜め上の思考は?本気でそんな悲劇のヒロインなことを思っているの?とんでもない発言にびっくりしながらも私は、部屋の扉を後ろ手に開け放った。


すると、異変に気が付いたのか近衛のお兄様2人と…暗部のビューザーとスベリガ君が一瞬で私の前に躍り出た。


私は彼らの背後に庇われながらファシアリンテに話しかけた。


「国の決定は私の関知することではないわ。今あなたが心配することはそんなことじゃないでしょう?ワーゼシュオン神聖国の女王として国民を守ることに専念なさいな」


私はビューザーの肩を後ろから叩いて耳元に囁いた。


「あの子をこのまま返して」


ビューザーとスベリガ君は驚愕の表情で私を顧みている。スベリガ君なんて、ファシアリンテを前にしたまま


「このまま返したらまた悪さをしますよっ!」


何て言っちゃったし、スベリガ君?それは一応不敬だよ?気を付けようね。


ファシアリンテはすんごい顔で私を睨みつけていた。私に怒りをぶつけても仕方ないよ?ファシアリンテが一歩下がると、彼女の後ろに魔術師だろうか…数人が現れて、ファシアリンテと共に消えていった。


「何しに来たんだか…」


後日、ファシアリンテを招き入れた男爵は厳重に注意された。私が厳しい処罰はしないで欲しいとお願いしたからだ。


あの子だって…いつかは気が付く。ううん、気が付いて欲しい。自分がヒロインで居る為に周りを踏みにじってばかりじゃ…自分がいつか踏みにじられる立場になってしまうと…。


やがて、5000年続いたワーゼシュオン神聖国は事実上消滅した。カルント宰相はリバイセント王国を建国し…ファシアリンテ達は公爵家の領地でワーゼシュオン神聖国を名乗り続けていた。



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