★Happy Halloween★ (Ⅱ)
ふー予想通り落ち着かない・・。
ゆっくり上がっていく赤い観覧車の中、あたしはソワソワしながら座ってる。
だって男の子と観覧車乗るの初めてだし、こんな狭い空間で二人っきりだなんてどうしても意識してしまう。
反対に響はいつもと変わらない様子で窓に肘をついて下を眺めてる。
余裕だなぁ、響はいつも。
「何かおもしろいものでもあるの?」
「いや、なんか人間とか建物がちっちゃくなっていくのがおもしろくてさ」
へ~そんなことを考えながら下を眺めてたんだ。
「オレもあの中の一人だと思ったらなんか自分がちっぽけに思える。」
「確かに。簡単につぶれちゃいそう」
「おまえ意外にグロイこと言うな」
「あはは。そんな風に考えると悩みとかもちっぽけに思えてくるなぁ」
「悩み?おまえにそんなんあるのかよ」と意外な顔をする。
「失礼な!あたしだって色々悩むもん」
「ふーん。で、例えば?」
「最近だと月野くんのこととかかな・・」
「またそれかよ。ほんっと気にし過ぎだっつーの」と呆れた顔をする。
「だってー」
響はあたしが脅されたこと知らないから!
「もっとまともな悩みはねーのかよ」
まともな悩みって、これだってそうなのにー。
他にまともっていうとあれしかないかな。
あのことは響には話しにくい悩みだけど・・・響がどういう風に返してくるのか聞いてみたい気もする。
「最近ね、状況が変化することに対して怖く感じるときがあって」
と思い切って言ってみた。
「変化?」
「うん、例えばあたしの言動一つで、周りの状況とか変わってしまって、それに自分がついていけるのかな、とか・・」
「じゃあおまえは今何か変化を恐れてブレーキ踏んでるってことか?」
「・・・そう」
「それってこの前までのオレと一緒じゃん。そこでアクセル踏むように背中押したのおまえなのに、何で自分の時は踏めねーの?」
・・そうだよね。これじゃ人のこと言えないじゃんってなるよね。
「変化の種類は人それぞれ違うし、あたしのは簡単には踏めないよ」
「おまえはそうやって色々言い訳考えて、ほんとはただびびってるだけだろ?」
「・・・」痛いところをつかれて言葉を失う。
図星だった。あたしはほんとびびってるだけ。
「誰だって変化することは怖いよ。例えば進学するときだってそうだし。新しく大学に入るときとかやっぱ不安だけど、そこで逃げたら自分は何も成長できないじゃん。恐れず進んで、そこにやってくる変化の中で、色々悩んだりして乗り越えていくから成長できるんだろ?」
響の言葉は真剣そのものであたしの心に深く突き刺さる。
ほんとそう。変わらないってことは何も成長しないのと同じ。
「・・・・」
「おまえはそのままでいいわけ?成長できない自分のままでいて」と強い口調で言う。
「それは嫌だよ・・。だけど、進んだらもう後戻りできない気がして怖い。進むことで何か大きなものを失いそう」
「それっておまえにとってそんなに大事なものなのかよ?」
「大事だよ。失いたくない」
「・・だったら止まってればいいじゃん。ずっと同じ場所で。でもその分何も得られないけどな」
うう・・・それはそうだけど・・。
落ち込むあたしを見て響は溜息をつく。しょうがないやつだなって言ってるような気がした。
「そんなに悩むなら、失うことより得たい気持ちの方が大きくなったときに進めばいいんじゃねーの?」と優しく言ってくれた。
それであたしはホっとする。
「そうだね」
あたしはまだ動けない。
このままでいたい気持ちの方が大きいから。
まだしばらくは響とこのままの関係で・・・。
「あっ頂上に来た。絶景だな」響のテンションがちょっと上がってる。
「ほんとだー!頂上だとこんな高いんだね」
「そういや他の場所からは頂上にいる人って見えねーの知ってた?」
「えっそうなの?」
「そう。だから何やってもバレない」
と言って響はあたしの隣にひょいと移動してくる。
え??
ま、まさかまたいつもの意地悪スイッチ入っちゃった?!
「ひ、響?」
す、すごく近いんですけど・・・
狭いから体ぴったりくっ付いちゃってるし。
どきどきどき・・・
体からこのどきどきが通じてしまったらどうしよう。
「からかうのはやめてって言ってるじゃん!」
とあたしは先手を打った。
いつもからかわれてばかりのあたしじゃないんだからね!
「じゃあ真剣だったらいいわけ?」
とあたしの顔を覗き込む。
どっきーー!
キャロ落ち着くのよ。
こういうときは逆手をとって・・
「いいよ」
あたしが冗談でもこんなこと言えるなんて自分でもびっくり。
「へ?!・・・」響が目を見開いて止まってる。
しばらく沈黙が続いて頂上タイムが終わってしまった。
「響、冗談だったんだけど・・?」と固まったままの響に話し掛ける。
「わ、分かってるし!」とようやく呪縛が解けた響が焦って言う。
響が珍しく動揺してる。
あはは。かわいい♡
よし今日は響の意地悪に勝ったぞ~!
そうして色々また話してるうちにだんだん下の景色が大きくなってきた。
さっき上から見てたちっぽけな地上のあたしたちにまた戻って行く。
「やっと地上に戻ってきたね。やっぱ地上の方が安心する」
「確かに。地に足が付いてる方がなんか安心するな」
「うんっ」
ちょっとずつ日が傾き始めてる。
最近日が短くなったから暗くなるのが早い。
でも今日が終わるまではまだ時間があるし
最後までいっぱい楽しまなくっちゃ☆
時刻は7時。あたりはすっかり暗くなり、期間限定のハロウィンパレードが始まった。
色とりどりの電飾を付けた乗り物やキャラクター達がダンスをしながら目の前を行進する。光の列みたいにキラキラ輝いていてまぶしいくらい。
周りのお客さんは拍手をしながらキャラクターたちに手を振ったりしてすごく楽しそう。
「めちゃくちゃ綺麗・・」
あたしは感動してそれしか言葉が出なかった。
「うん・・」
響も同じ気持ちなのか言葉少なげだ。
パレードの最後のキャラクターが前を通り過ぎていく。
なんか寂しいな・・終わってしまったって感じで。
「響、今日は誘ってくれてありがとう。すごく楽しい一日だったよ」と隣にいる響を見上げて言った。
「・・・オレも楽しめた。さんきゅーな」
お、今日は素直だ。
あたしたちは出口に向かって歩き始める。
この出口をくぐったらまた現実の世界に戻ってしまうんだよね。
なんだかとても名残惜しい気分。
きっと今日すごく楽しかったからだ。
ふいに寂しい気持ちになって、
「また来たいな・・」とつぶやくように言った。
「いつでも来れるじゃん」
「響とだよ?」と上目遣いで響を見上げたら
「・・・」
急に黙る響。
暗くて表情があまり分からないんだけど・・もしかして照れてる?
「・・だからいつでも来れるって。・・オレと」
「・・うんっ」とあたしはにっこり笑う。
遊園地の魔法なのかな。いつもより素直になれる。
さっ夢の世界はおしまいだ。
シンデレラの魔法はとけてまたいつものメイドに戻ります。
なんってね☆