ガラスの存在
空中に浮かぶ一つの都市がある。各々の気に入りの色に染め上げられたそれは彼らの個性を表しているようでレンガ造りの街を色とりどりに飾り付ける花となっている。そんな彼らこそがこの都市の華である魔法使いであり文明を作り上げた一つの技術の持ち主たち。
そんな説明を記して一人の男はため息をついた。ペンから滲み出るインクが紙に意図的な汚れをもたらして人々に知識をもたらす意味という枠組みを与えられる。
魔法を使えたらどれほど楽しいだろう。どれだけ人の役に立つことができるのだろう。そう思わずにはいられないものの彼に扱える魔法などこの世界にはなくただ足とペンを一心不乱に走らせ一般人の役に立つ情報や都市の中で起きた事件を書き留めることしかできない。
きっと学校を卒業してからも同じことだろう、ただ同じことを繰り返すだけなのだろう。新しくできたガラス細工の店を経営する店主が美しく可愛らしくあり商品と同じ価値を持っている。そんな噂を纏めるべく店のドアを開けた瞬間のことだった。色とりどりのローブを身に着けた魔女の群れが一斉に窓の外へと飛び立つように出入り口から飛び出し箒にまたがる。彼女たちはこの店にどのような用があったのだろう。もしかすると魔法の触媒として優秀な物なのかもしれない。そもそも魔法を扱うためには各々の心に見合った状態にしておかなければならない。例えば興奮状態こそが至高と考えるのであれば盛り上がる音楽を、自然の中での魔法が性に合っているのであれば森の香りのお香を焚いて。それぞれの人物に寄り添ったお香を焚くための道具なのかもしれない。
「あなたがガラス職人のカリさんですね」
呼ばれるとともに顔を上げる彼女の作る表情、その色は事前に耳にしていた美しさとは異なり心をざわつかせる。
「誰がいるのかちゃんと確認してから入って下さいね。窓から店内が見えるので」
睨みつけ、責め立てる。目と口のどちらもが険悪な雰囲気を作り上げており、これから取材を行なうという雰囲気ではない。しかしながら仕事である以上はしっかりとこなさなければならない、時間は有限。不満の言葉を仕舞い込んだまま無理矢理取材を開始した。
「えぇ、カリさんの作るガラスの芸術ですが、どのような信念を持たれて制作されているのでしょうか」
黙り込んだまま、鋭さに充ちた視線が幾度と無く身を削っているもののいつまでも失われる事もないまま現状は保たれて。
「遅れました。コチラのクッキーを持って参りました」
相手は益々機嫌を悪くしてしまったものの差し出されたクッキーを目にしては欲が抑えられなかったのだろう。辛うじて機嫌を取り戻し軽く水を飲んで目の柔らかさを取り戻す。ようやく取材が始まるようだ。
「美しさだけで魔法を超える心の動きを与えられるような作品を作りたい、そんな意気込みで取り組んでおります」
つかえのないように気を付けて話している様子ではあったがどこか不満でもあったのだろうか、少々顔を下げている。しかしながら彼女の機嫌を取る方法など分からないまま次の質問に移る他ない。
「デザインのイメージの統一や色の配置など、気を付けているところ、意識しているところなどがあれば是非教えて下さい」
「デザインの統一などは常に意識をしている部分などありません」
連作は始まりを知らないお客様に充分な理解を提供出来ないので、そう呟く彼女の声が次第に小さくなっていく。態度から恐らく繋がりのある世界を築いて行きたかったのだろうと汲み取る。
「では、短期的な連作や繋がりは深みに嵌ったお相手さまにのみと言ったデザインはお考えでしょうか」
しかしながらカリは首を横に振り、落ち着いた口調で語る。短期的などと言っても人々の手がしっかりと伸びる柄や色合いのものは既にあり、その他は全てがついで。一度作って売れれば良い方だと告げては生活の苦しさを険しい表情が物語る。
「分かりました。それでは、あなたが最終的に目指すところを心ゆくまで語られて下さい」
「私はこの一生を懸命に過ごし派手に散って行きたい。ガラスのように儚くも美しくみなさまに愛される綺麗な存在として」
姿勢の美しさ一つでどこまでも輝いて行ける、そう残して取材は終了とする。
ドアをくぐり、花畑に囲まれた背の高い時計台がよく目立つ広場の裏、短く夥しい数の雑草が並ぶそこに集う魔女たちが笑いながらガラスの棒を折り、茶色の小瓶の蓋を開けては突っ込み取り出し火花を散らせる。
その見た目に覚えがある、つい先ほど取材をした店の商品ではなかっただろうか。
「ねえねえ、これさ、魔法の練習にちょうどいいね」
「それな。アイツさ、私たちが本気で褒めてるって思ってやがるの面白いよね」
所詮は練習のための道具だの試験の前にはもっと高い素材や的確な道具を使うだのと悪口というエンタメに浸っていた。
「魔法のために使っても壊れにくいガラスでも壊れやすくても安く作れる魔女は出て来ないかな」
「そしたらアイツなんか用済みなのに」
人気の裏には妥協があり、飽くまでも差別思想は陰に隠れているだけだと知り深いため息をついては手帳を取り出すもその手を止めてポケットに仕舞う。あの新聞の片隅に載せるものの内容はしっかりと考えなければならず、考えるまでもないものを綴る真似はしない。あの女性には彼女なりの人生があるだけだと割り切り編集者へと提出すべく時計台から遠ざかって行った。




