上には上がいる、だからこそ燃える
「ねぇ、イッセイくん。訓練場の端にいる人、知ってる?」
クラリスが日差しに照らされる人物を指差す。鋭い眼差しと鍛え抜かれた体を持つ青年が、木剣を肩に訓練生たちを見渡していた。
「……グレン・エストラッド先輩、魔剣士科の主席。実力もさることながら、人格者としても有名ですの」
「女子人気も高いのよねー。でも、あたし……じゃなくて、イッセイくんには敵わないと思うけど♪」
ルーナがくすりと笑いながら囁くと、イッセイはやや困ったように苦笑した。
そんな中、本人がこちらに向かって歩み寄ってくる。
「君がアークフェルドか。噂は聞いている。良ければ、一手合わせ願えるか?」
「光栄です。ぜひ、お手合わせを」
互いに礼を取り、訓練用の木剣を構えた。
最初に動いたのはグレン。風を切る鋭い一閃が横薙ぎに迫る。
イッセイは素早く受け止めるが、その一撃の重みに膝がわずかに沈んだ。
(重い……これが上級生の本気……!)
続く打ち下ろし、突き、回り込み。防御に徹する間も、グレンの剣筋は鋭さを増すばかり。
一瞬の隙を突いて、イッセイの肩に剣がかすめた。
「どうした、まだいけるはずだろう?」
「はい……これからです!」
イッセイは踏み込み、左足を支点にして身体を回転させながら袈裟斬りを繰り出す。
グレンが受け流そうとしたその瞬間、フェイントをかけて逆側から振り上げた。
「っ……!」
剣がグレンの肩先をかすめる寸前、寸止めで止められた。
「見事だ……本当に、ただの少年じゃないな」
再び距離を取った後、二人の剣が高速で交錯しはじめる。
木剣の風圧に、見学していた生徒たちが思わず後ずさった。
そして、同時に踏み込み、互いの肩口へ木剣が交錯する――
「……ここまでか」
「はい……引き分け、ですね」
静寂。だが、すぐに拍手が巻き起こる。
「イッセイ、かっこよかったわ! さすがですわね」
「ふふっ、あたしちょっとドキドキしたよ、イッセイくん。今のすっごく良かった~」
ルーナがぴたりと寄り添い、クラリスも誇らしげに微笑んだ。
イッセイはそっと木剣を下ろし、深く息を吐いた。
(まだまだ、だ。もっと高みに行かなくちゃ……)
そんな彼の元に、寮の使いが一通の封筒を届ける。
――《武闘会前夜祭 舞踏会への正式招待状》
封を切りながら、イッセイは心の中で小さく呟いた。
「……舞踏会。誰をエスコートするべきか、悩むなぁ」
ルーナとクラリスの視線が、ほぼ同時にぴたりと彼を射抜いていたことに、彼はまだ気づいていなかった。




