恋と勝負と、舞踏会のドレスコード
「……久しぶりだね、リリィ。最近どう?」
「ちょっとぉ、イッセイ! 忙しいのは分かるけど、ぜーんぜん顔出さないし、連絡もないじゃない!」
頬を膨らませたリリィが、すぐにふわりと笑う。商会の執務室は香油と紙の香りが漂い、以前よりも一回り広く、立派になっていた。
「ごめんごめん。学園生活が想像以上に忙しくて……でも、こうしてまた会えて嬉しいよ」
「ほんと? じゃあ今度からは、ちゃんと定期的に報告書……じゃなくて、お便りちょうだいっ」
軽口を交わしつつ、リリィの手料理が並んだランチプレートを二人でつつく。話題はすぐに商会の近況に。
「王都支部は順調よ。最近は“泡立つ石鹸”シリーズが大ヒット。貴族の奥様方の間でリピーター続出中!」
「それはすごいな。僕の想像以上だよ、リリィ」
「ふふ、もっと褒めていいのよ? ……ところで、今日はどうして来たの?」
「舞踏会の準備で、ちゃんとした衣装が必要でさ。リリィに相談すれば間違いないと思って」
「そっか……舞踏会、ねぇ……」
一瞬寂しそうな目をしたリリィだったが、すぐに明るく立ち上がる。
「だったら決まり! 王都の“セレスティア洋装店”に行きましょ。うちのブランドもそこと提携してるの!」
*
午後、二人は石畳の大通りを馬車で抜け、洋装店に入った。
「やっぱり、落ち着く空間だね」
「でしょ? ここ、選び抜かれた上質な素材しか使わないの。さあイッセイ、どの色が好み?」
会話に花を咲かせていると、店の入り口からベルの音が。
「イッセイくん? ここにいらっしゃったのですね」
「まあ、また奇遇ですわ」
現れたのは、クラリスとルーナ。クラリスは茶髪をリボンで結った気品ある装い。ルーナは紫髪をゆるく流し、スリット入りの軽やかなドレス。
「こちらは……」
「紹介するね。こっちはリリィ。商会の立ち上げから一緒に頑張ってきた仲間なんだ」
「リリィさん、ですのね。イッセイくんがお世話になっているようで」
「ふぅん……商会の“仲間”って、どこまでの仲なのかなぁ?」
「ちょっ……なにその言い方!? イッセイと私は昔からの戦友みたいなものでっ!」
「まぁまぁ、あんまり刺激しない方がいいと思うけど? イッセイくんは案外、鈍いとこあるし」
「ええ、そこがまた……悪くないのですけれど」
三人の視線が交差し、火花が散る――かと思いきや、店員が差し出したドレスの見本により場が一気に和む。
「ねぇ、この色……あなたには似合うんじゃない?」
「ふふ、では試してみましょうか」
「……対抗心、燃えてきたわっ」
試着室を出たり入ったり、褒め合ったり、からかったり。
気づけば、三人は意外と息が合っていた。
「なんだかんだで、いいチームかもしれないね」
「ふふっ、あくまで“たまたま”ですけど」
「……たまには、ね?」
帰り道、夕暮れに染まる王都の空の下。
イッセイは三人の笑顔に囲まれながら、そっと呟く。
「明日の舞踏会……賑やかになりそうだ」




