47地獄の始まり
「ようこそ、お越しくださいました。我々があなた方を楽しませる役を《《彼女》》から仰せ使いました。今宵は、存分に楽しませて、楽しんでください」
先ほどまではモニターから音声は流れていなかったが、実は音声も拾えたらしい。今から相沢たちが味わる地獄をこちらで楽しむために、和音は音声を聞こえるように監視カメラを調整する。
実乃梨たちが話しているうちに、永徳たちは例の部屋にたどりついたようだ。部屋で待っていた男の一人が両手を挙げて永徳たちを出迎える。
「あ、あの、あなたたちは、どうして《《あの方》》の指示に従っているの?」
「変なことを聞きますね。楽しいからに決まっているでしょう。ここにいる男たちはみんな、オレらが楽しめる環境を与えてくれ、しかもちゃんとオレらが捕まらないようにしてくれる。だから、彼女に従っているだけですよ。彼女の方も、オレ達を使って自分の目的を果たしている。WINWINな関係ってことです」
「おいおい、話している時間がもったいないだろう?さっさと始めようぜ。時間は有限だからな」
永徳の婚約者が男たちに恐る恐る質問すると、部屋にいた男の一人が返答する。しかし、しびれを切らした別の男が口をはさむ。部屋の隅で待機している他の男たちも、その男の言葉に頷いている。永徳を覗くこの場の男たちは皆、これから始まる行為に股間を膨らませていた。
「部屋の隅に三人。オレを拘束するために用意された人数ですか。ずいぶんと甘く見られたものですね」
永徳は初めから、ここに足を運んでも、彼女の誘いを断ってここに来なくても、結果は同じだとあきらめていた。隣で震える婚約者を見つめ、ため息が出る。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
永徳の婚約者が強姦にあったのは五年ほど前。大学の同級生だった永徳と彼女は、付き合ってそのまま結婚するだろうと互いに思っていた。彼らは卒業すると同時に同棲を始めて、結婚するのは時間の問題だった。それなのに。
彼らは今時珍しい奥手のカップルで、付き合っていたのに、男女の行為を行っていなかった。それが今回の悲劇につながったのかもしれない。彼の婚約者は、処女のまま今年三十歳の誕生日を迎えてしまった。
「あなた方が今から何をしようとしているのか、理解しています。ですが、そんなの今更です。僕にはもう、失うものは何もありません。そこの女性二人がどうなろうと、オレは何も感じません。オレがこの手で不老不死から解放しようとしている女が一人と、いまだに男に恐怖を抱いている不老不死の女が一人、見知らぬ男にやられるだけのこと。どうぞ、勝手にやってください。オレを拘束する必要はありません」
永徳の言葉によって、部屋の隅で待機していた男たちが永徳たちの前に姿を現す。行為の最中、永徳が暴れないよう抑えるために、屈強な身体を持った男たちがここに集まっていた。
そんな彼らに、永徳はどこか乱暴な話し方で男たちを驚かせるような内容を口にする。そばにいた相沢と婚約者は顔を青ざめ、震え始める。
「ですので、いつでも始めてもらって構いません」
いつの間にか、この場を仕切りだした永徳に、相沢と婚約者は、今度は恐怖に背筋を凍らせる。隣に立つ男は、本当にいつも見ていた永徳慎吾という男だろうか。女性に優しい、護衛会社で真面目に人を守る仕事についていた彼と同一人物だろうか。
二人の女性の視線に気づいた永徳が、にっこりとほほ笑む。しかし、その笑みには女性を気遣う優しさや親しみやすさはなく、反対に相手を馬鹿にするような笑みだった。
「あなたのことも、永遠のことも、今でも《《ただの》》女性として愛していますよ。ですが、僕の中の特別からは遠ざかってしまっただけです。あなたたちが悪いということはありません。運が悪くて、僕の特別ではなくなった。だから」
あなたたちはこの場でヤラレてしまう。
「無駄話はそれくらいにしたらどうだ?こっちは上物が二つ、目の前にぶらさがっているのを我慢しているんだぞ」
「女性にがっつく様子を見せるのは、モテない男の典型ですよ。女性からモテたいのなら、表面上は余裕があるように見せる必要が」
「うっせえな。その済ました面もいつまでもつのか見物だな」
「それはこっちのセリフです」
相沢と永徳の婚約者は、未だに顔を強張らせたまま、何も言えずにその場に固まっていた。そんな二人の様子に気遣うことなく、永徳は男たちと会話する。
「長話はもう聞き飽きたから、さっさと始めて頂戴。今回は私の他に特別ゲストもいるから、張り切ってヤッてネ。期待しているわ」
「彼女からの指示が出た」
画面を眺めていた和音が男たちに指示を出す。実乃梨はいよいよ始まる地獄絵図を前に固唾をのむ。
「では、皆さん、この二人の女性を不老不死から解放させてあげてください」
永徳の合図で男たちは動き出した。




