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45不和和音という女性

 《《彼女》》も永徳たちがやってきたことを画面で確認したようだ。


「ずいぶんと永遠たちが来るのを楽しみにしていたようね。欲しいおもちゃをもらった子供みたいにうれしそうな顔をしているわよ」


 この場の表情にふさわしくない表情だと言いたいのだろう。しかし、実乃梨は自分の表情がおかしいとは思わない。これから、あの三人は、実乃梨のおもちゃとなるのだ。《《彼女》》の言葉は的を射ていた。


「不老不死同士でも分かり合えないものだなと思っていましたが、あなたとは気が合いそうです」


「私は、自分が不老不死だと言った覚えはないけど。そうねえ、せっかく私が特等席に招待してあげたんだから、あなた呼ばわりは寂しいわねえ。私の名前を特別にあなたに教える」


 不和和音ふわかずね


 そっと、実乃梨の耳もとで《《彼女》》が自分の名前を囁いてくる。実乃梨はなぜか、《《彼女》》の行動に頬を紅くしてしまう。女性でも男性でも、実乃梨は他人からの接触が苦手だった。しかし、この時は嫌悪感ではなく、羞恥を感じてしまう。




「それで、電話で話した通り、私は実乃梨さんに特等席を用意したけど、どうかしら?」


「どうかしらと言われても……。私に共犯者になれ、ということですか。この場合、私と同じ不老不死の仲間を見殺しにするということですよね」


「私と一緒に暮らすことを承諾したのなら、それは愚問だと思うけど」


 先ほどまで廃ビルの前にいた永徳たち三人はビルの中に入り、和音の言われたとおりにビルの中を進んでいく。その様子は監視カメラの映像からしっかりと確認できる。彼らの様子を目で追いながら、実乃梨たちは会話を続けていく。


「確かに和音さんの言う通りです。今の私は、不老不死も《《ただの人間》》もみな等しく同じような存在に見えます。だから」


「私と一緒に暮らして、不老不死の女性を殺害することに目をつむってくれるということ?」


「……。まあ、そう言うことになりますね」


「なんだか、煮え切らない態度ね。とはいえ、ここにいる時点で覚悟は決まっているって解釈するけどね。さて」


 和音が一つのモニターを指さすので、実乃梨はそのモニターに目を向ける。そこには五人の男が床に座り込んでいた。近くにはベッドが置かれている。どうやら、昔は仮眠室として使われていたようだ。


「今回は永遠たちがメインだから、不老不死の女性は呼ばなかったの」


「いつもこうやって、画面越しに不老不死の女性が犯されて殺されるのを見ているのですか?」


 まるで神が慈悲を下すかのように。


 横目に和音の様子をうかがうと、和音が無表情に男性の映る画面を見つめている。先ほどまでの冗談めかした会話をしていたのが嘘のように、感情を一切消した顔に、ふと思いついたことを口にする。


「神、なれるものならなってみたいわね。自分が決まり事みたいなものだから、自由に生きられて楽しそう。でも、私は神になったつもりはないの。ただ、私みたいな人を減らすために動いているだけ」


 実乃梨の心の内を読んだかのように、和音は質問に答える。表情以外にも雰囲気も口調にも温度がなく、この部屋の気温が一気に下がったような気がした。


「それが、『不老不死からの救済』とかいう、強姦殺人の正体ってわけだ」


 その場の空気を和ませようと、軽い口調で和音の今までの行動を世間に照らして評価する。そう、和音がやっていることは、単なる強姦殺人だ。対象が不老不死の女性だから、世間で大きな話題になっているが、それ以外の女性に対しても行われていたら、よくある事件として処理されていただろう。


「そんな強姦殺人犯の告白に実乃梨さんは応えた。それなのに今更、現場を見て怖気づいて、警察に助けを求めようとしているの?」


「私だって、不老不死の一人ですよ。そんなことをするメリットがない」


 不老不死というだけで、世間から腫れ物扱いで特別扱いされる。わざわざ犯人を警察に伝えたら、犯人を捕まるのに協力した人間として目立ってしまう。実乃梨は目立つことなく生活を続けていきたいと思っていた。たとえそれが、平凡すぎて退屈でつまらない日常だとしても。しかし、和音と出会って実乃梨の価値観は変わってしまう。今の実乃梨は……。



「あとは、和音さんのことをもっと知りたくなったから、ですかね。彼女たちを救うとか言っているのなら、それなりに彼女たちに向ける表情というものがあるでしょう?聖母様のような慈悲深い笑みを浮かべているとか、憐れな子羊を導く牧師のように、すべてを包み込むような温かいまなざし」


 それらの温かい表情が一切見られない。和音にはむしろ正反対の感情が渦巻いているように見えた。例えるのなら、彼女たちに親でも殺されたが、為す術なくただじっと犯人を眺めるだけの子供みたいなのだ。感情が一切消えた表情は、あきらめから来ているのかもしれない。




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