29派遣社員の秘密
「い、いきなり何を」
「先輩と同じように、私にも《《これ》》があるんですよ」
狭い個室で相沢は躊躇なく、着ていたブラウスの裾をスカートから引っ張り出す。そのままブラウスと下着をあげて、腹部を実乃梨に見せつける。
「そ、それは……」
相沢の下腹部にあったのは、実乃梨にとってなじみのあるものだった。自分の身体で毎日目にするのと同じものが、彼女の身体にも存在していた。
「驚いていますね?まあ、当然の反応です。まさか、こんな身近に不老不死の仲間がいるとは、普通思いませんもんね。しかも、このご時世に、急に目の前に現れるのは、不自然極まりない」
「ほ、本物なの?」
まさか、自分の腹部にある紋様を他人の腹で見ることになるとは。驚きで思わず真偽を問うが、実乃梨には目の前の派遣社員が、本物だと確信していた。
「疑うんですかあ?とはいえ、信じられないのも無理はないですね。でも、普通、冗談でこんな悪趣味な紋様を自分の腹に描きませんよ」
質問しては見たものの、やはり相沢は不老不死で間違いないようだ。とはいえ、どうしてこの場でそんな秘密を実乃梨に暴露したのだろうか。疑問が顔に出ていたのか、相沢は聞いてもいないのに、説明を始める。
「なぜ、先輩に不老不死の秘密を暴露したのか、気になっていますね。《《あの方》》には、私が不老不死であることを話してはいけないとは言われていません。話していいとも言っていませんけど。でも、せっかく同志になりえる存在に出会えたのに、話さないのはもったいないと思いまして」
「同志……」
実乃梨のつぶやきを無視して、相沢は話を続ける。先ほどから話に上がる《《あの方》》にずいぶんと肩入れしているようだ。興奮して声が大きくなっていく。
「実は私、最近起きている『不老不死連続殺人事件』の首謀者を尊敬しているんです!だから、今回の件に協力することにしました。《《あの方》》の考えることは素晴らしい。感銘を受けました。今こそ、《《あの方》》の考えを世に広めようと思いました!」
腹をむき出しにしたまま、《《あの方》》とやらのすばらしさを語って聞かせる相沢は、うっとりとした表情で、まるで恋する相手を思い出しているかのようだった。
「『不老不死からの救済』が《《あの方》》とあなたの望むことなの?」
「ええ、わかっているのなら話が早いです。先輩もそれに惹かれて《《あの方》》と接触しようと思ったのでしょう?」
「私は別に」
「言い訳は不要です」
実乃梨の言葉は相沢に遮られ、今度は勝手に制服のポケットを漁られる。
「《《あの方》》はわざわざ自ら出向いて、先輩に集合場所と日時を教えてくださった」
メモを目の前に突き出され、実乃梨はしぶしぶ内容を確認する。そこには、相沢の言った通り、場所と日時が記されていた。ただし、場所と日時だけでそれ以外に何もなかった。誰かが見たとしても、そこで何が行われるかまではわからないようになっていた。
「ただし、このメモが他の誰かの手に渡ってしまったらまずい。興味本位でその場を訪れる人がいる可能性があります。ですから、保険はかけてあります。こうすると、本当の集合場所と日時がわかるようになっています」
私たち向けの素晴らしい仕掛けでしょう?ここにメモを重ねると……。
気味の悪い笑顔を向けられて、実乃梨は思わず顔をそらしてしまう。聞かされた内容に吐き気を覚える。自らの腹の紋様にメモを近づける相沢を眺めていると、メモに変化が起こる。メモ単体だけでも読むことができた場所に日時が現れた。場所以外に不自然な模様が描かれていると思っていたが、日時の記載が隠されていたのだ。場所も変化していた。
いったいどんな工夫が仕掛けられているのは不明だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「面白いですよね。《《あの方》》は、紋様ありきでメモを作成していた。そう言うことですから、先輩、一緒に地獄から解放されに行きましょう?」
「はなから、私をその場所に連れていくつもりだった、ということでしょ。白々しい」
「ツンデレは、若い人がやるからこそ萌えるのであって、不老不死の私たちがやっても、ただのイタイおばさんにしかなりません」
相沢と目があうと、自然と二人の顔に笑みがこぼれる。作り笑いではなく、楽しいという思いから生じる笑いが、二人の間にこみ上げ、お手洗いの一つの個室の空気を震わせていた。
不老不死の女性たちは、一般人の感性とはかけ離れていた。




