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22心配してくれなくても……

「……ということで、最近、犯人が事件をなかなか起こさなくて、犯人への手がかりがない。だからこそ、犯人からの刺客だと思われる、このタイミングでの派遣社員を受け入れることにした」


「私に、犯人逮捕のためのおとりになれ、ということですか?」


 社長の言葉に、実乃梨はニュースで取り上げられる不老不死連続事件の報道を思い返す。


「確かに、取引先の不老不死の女性が殺害されてから、犯人の動きは止まっていますね。わかりました。そういう理由なら、明日から来る派遣社員の教育係は、私が責任もって面倒見ます」



 やはり、社長はこの不自然なタイミングでの派遣社員を怪しんでいた。そのうえで、実乃梨におとりになれと言っている。怪しいと思いながらも、犯人の確保のために受け入れることにしたらしい。明日来る派遣社員が犯人の手がかりになるかどうかは会ってみないとわからない。それでも犯人確保につながる情報が得られるのなら、受け入れるに越したことはない。そう判断した社長に納得した。


 実乃梨には反対する理由がないので、派遣社員を受け入れることを認め、朝、他の社員に言われた教育係をする旨を社長に伝える。


「そう簡単に納得してくれると、こちらとしては、複雑だね。いくら不老不死とはいえ、もう少し、自分の命を大事にした方がいいと思うよ」


「自分の命を大切に、と言われても、この身体は、文字通り不老不死です。大事にしてもしなくても、特に問題はありません。むしろ、長すぎる命を持て余す事態になっています」


「だからと言って」


「おとりになるにあたり、一つ、条件を付けてもいいですか?」


 社長は実乃梨の投げやりな言葉に反論しようとしたが、実乃梨はその言葉を遮り、ある条件を社長に提示する。


「条件?栄枝さんの望むようにはしたいが、制限はある。可能な限りで対応しよう。ただし」


『護衛を外すのは、なしだ』


 実乃梨のおとりになるための条件は、社長にあっさりと見破られてしまった。おとりになるというのなら、好都合だと考えた。昨日、《《彼女》》が言っていたことが本当なら、変装して実乃梨に接触してくる。その時に護衛がいたら、集合場所を教えてもらえないかもしれない。


「私は不老不死ですよ。大抵のことでは死ぬことはありません。今の護衛は過剰すぎです。それに、こんなに長く生きていても人類の役には立っていません。この命を最も有効に使うには」


「それぐらいにしなさい。言っていることがまるで、この世に絶望して自殺を考えている高校生みたいだよ」


 今度は実乃梨の言葉が途中で遮られる。社長は実乃梨の投げやりな態度に腹を立てていた。そして、まるで自分の娘に言い聞かせるかのように、言葉をつないでいく。


「いくら、おとりになってくれとは言え、栄枝さんに命を張ってもらいたいわけじゃない。そんな寂しいことを言わないでおくれ。会社のみんなも、永徳君も、亡くなったご両親たちも、みんな、栄枝さんのことを心配しているんだよ。もちろん、私も心配しているよ」


「すいません。先ほどの言葉は言いすぎました」


 社長の言葉にようやく冷静になることができた実乃梨は、ただ謝ることしかできなかった。そして、昨日かかってきた電話を思い出す。もしかしたら、《《彼女》》たちは、このような状況に嫌気がさして、不老不死の人間を救うのだろうか、と。


「そう言うことだから、明日からよろしくね。あと、最近、不審な電話とか手紙とかもらったりはしていない?護衛されている身なんだから、隠し事はいけないよ」


「か、隠し事なんてしませんよ。私だって、自分の身が危険に晒されていることは充分理解しています」


 少しどもってしまったが、何とか平静を装って返答することができた。社長は実乃梨が口下手なことを知っているためか、それ以上の追及をしてくることはなかった。


 その後は、明日のことを少し話して、社長との用事は終わった。社長室を出てスマホで時刻を確認すると、すでに定時を二十分ほど過ぎたところだった。社内にはまだ数人の社員が残業をしていたが、大半は片付けを始め、帰宅する準備を始めている。実乃梨も同じように会社を出る支度をすることにした。


 会社の外に出ると、まだ日は暮れていないため、夕焼けがきれいに見えていた。実乃梨は明日が楽しみだった。もしかしたら、人生が変わるかもしれないとまで考えていた。明るい気分で会社から永徳が待つ駐車場まで歩いていく。その後ろ姿をじっと見つめる人間がいたことに気付くことはなかった。



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