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13過呼吸

「それで、社長はいったい、あそこの商社の人と何を話していると思う?」


「事務的な話だと思いますけど、そもそも取引先の相手と、他に何を話すというのですか?」


「栄枝さんの言う通りだとは思うけど、それだけじゃなさそうなんだよね。ほら、社長ってさ、うちらの個人情報を持っているわけでしょう?だから、もしかして」


食堂に着くと、日が当たる窓際の席に座る。支給される弁当を自分の机で食べることもあるが、食堂で昼食をとることもある。実乃梨と榎木は弁当を食べながら、先ほどの電話について議論を交わす。


 きりの悪いところで言葉を止めた榎木が、じっと実乃梨の顔を見つめてくる。さらには、はあとため息をつかれてしまう。続きを促すため、実乃梨は仕方なく箸を止めて質問する。


「もしかして、何ですか?」


「ごほん」


 なぜか、改まって咳ばらし始めた榎木を不審そうに睨みつけると、飛んでもないことを言いだした。


「もしかして、うちの会社にも《《不老不死》》の社員がいるのかもしれない」


「私のことを冗談だって笑っていましたよね。それに、不老不死が身近にいるなんて気持ちが悪い、と言ったことを忘れたんですか?」


 実乃梨は榎木の言葉につい、感情的になってしまった。榎木が不老不死に対して、良い印象を持っていないことは、今朝知ったばかりだ。それなのに、いまさら自分の会社に《《不老不死》》の社員がいると、どの口がいうのだろうか。実乃梨の自分が不老不死かもしれない、という告白を冗談で済ませた榎木に不信感が湧く。


「栄枝さんが不老不死だとは思えないから、冗談だと言ったんです。別に《《不老不死》》の社員がいたとしても、本人に面と向かって気持ちが悪いなんて言いません。さすがにそこは社会人ですから。ということで、これは私の予測ですけど」


 榎木は実乃梨の反応を気にすることなく、言葉を続ける。実乃梨は黙ってその言葉を聞いていた。


「不老不死連続殺人事件の次の標的になるのは、自分の取引先に近い、うちの会社ではないのか。浜永商社の人はそう考えたのかもしれない」


「次の標的……」


 実乃梨は食べ終えた弁当を返却するために立ち上がる。しかし、頭がぼうっとして思うように身体が動かない。不審な電話に、不審な郵便物、次の標的という榎木の言葉。そして不老不死に対する偏見の目。実乃梨のストレスは限界に達していた。



「ガタン」


 突如、大きな音が食堂に鳴り響く。実乃梨はめまいを感じて床に倒れこむ。その拍子に空の弁当箱を床に取り落とした。食堂にいた他の社員が慌てて実乃梨たちに近寄ってくる。


「大丈夫?」


「調子が悪いのなら、早退した方が」


「顔が真っ青ですよ。」


「いえ、少し、休めば、だ、大丈夫、です」


 たくさんの人に囲まれて、実乃梨は困惑していた。自分が不老不死であるということから、人目を気にして生きてきた。実年齢と外見の乖離を始めたときからずっと、目立たないように生きてきた。そのため、こんなに大勢の人間が自分を心配してくれるという状況が実乃梨の頭を混乱させる。



「は、は、は」


 たくさんの目が自分に注がれている。自分が急に床に倒れこんだせいだと理解していても、もしかしたら自分が不老不死だと気づかれたために、人々が集まってきたのだと錯覚してしまう。社長がそんなことをするはずがないと頭ではわかっていても、嫌な妄想は止まらない。


 頭が混乱して、正常に物事を判断できなくなる。急に呼吸が苦しくなり、実乃梨は浅い呼吸を始めた。息が苦しくて、苦しくて胸が張り裂けそうだ。このまま呼吸困難で死ぬことができれば、どんなに楽だろうか。実乃梨は過呼吸になっていた。




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