55 思い出
「終わったね……」
「うん。終わっちゃった」
帰り道、いつもより口数の少ない私とカズ君はそう言ってまた黙る。
卒業ライブを終えると、まるでお祭の後のような寂しさを感じていた。
高校生としての全ては今日終わったのだと思う。明日からは引越しの準備などでまた忙しくなる。そうしたら新生活への期待感で一杯になるだろう。
最近慌ただしくてカズ君とあまり喋っていない。このままだと明日以降も話せなくなりそうだが、どうも会話が続かなかった。
「少し時間ある?」
家の近くになってカズ君がそう言い出した。
「うん、大丈夫」
カズ君が歌やギターを練習する空き地に寄った。
「今日はお疲れ様」
「カズ君もお疲れ様。初めてだもんね、一度に12曲も歌うの」
「案外平気だったよ」
「良かった」
「…………」
「…………」
呼び止めたのはカズ君なのに、また黙る。
月明りに照らされたカズ君の顔は笑顔だけどぎこちなく、影があるように見えた。
「ここで毎日遊んだね。ただ走り回るだけで楽しかったなぁ」
「うん」
懐かしむように全体を見渡しながらカズ君が言う。声の調子はいつもと変わらなかった。
「聞いた? ここ整備されて住宅地になるんだって」
「本当?!」
初耳だった。ずっと手付かずだった空き地だけど、とうとう無くなってしまうのか。
「この辺りも変わるね」
「そうだね」
物心ついた時からほとんど景色に変化がなかった。ここが急に都会になるとは思えないけど、変わるのは間違ないだろう。
「感傷的になるのは僕がここを出て行くからかな」
「思い出の場所だもの。寂しくなるのは当然だよ」
「思い出、か」
遊び場所でもあり、練習場所でもあった。
「そう……」
頷こうとした時だ。
カズ君の手が初めて私の頬に優しく触れ、顔がうんと近付いた。
息が止まりそうになる。
「ここでの最後の思い出……つくりたい」
胸がつまって声にならず、目を閉じる事で答える。
やがて私の唇に柔らかくて温かな感触が重なった。
まるで熱が出たように頭も身体もフワフワする。
カズ君はそんな私をそっと抱きしめ、優しく頭を撫でてくれた。それも心地よくて、ずっとそうしていたかった。
「美紀ちゃん」
しばらくしてカズ君の手が止まり、耳元で囁く。
「美紀ちゃんが好きだ」
「え……」
突然改めて言われると、嬉しいというより驚く。
「たとえ他に美紀ちゃんを想う人がいても、僕より相応しい人だとしてもだよ」
辛そうな声に仮定の話が実在するように聞こえた。
(まさか……ね)
私はそっと身体を離し、カズ君を真正面に見据えた。
「どんな人が私に相応しいのか分からないけど、私はカズ君が好きなの」
一瞬目を見開いたが、すぐ優しげな目元に戻る。
「ゴメン。僕が自信ないばかりに」
「さっきはそう思えなかったけどな」
「そ、それはっ、自信じゃなくて必死で……」
「ふふっ」
それこそ必死な様子がおかしくて、思わず吹き出す。
「あはは……」
カズ君も頭をかきながら、照れ笑いした。




