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明日のうたが聴こえる2  作者: 人見くぐい
56/59

55 思い出

「終わったね……」

「うん。終わっちゃった」

帰り道、いつもより口数の少ない私とカズ君はそう言ってまた黙る。

卒業ライブを終えると、まるでお祭の後のような寂しさを感じていた。

高校生としての全ては今日終わったのだと思う。明日からは引越しの準備などでまた忙しくなる。そうしたら新生活への期待感で一杯になるだろう。

最近慌ただしくてカズ君とあまり喋っていない。このままだと明日以降も話せなくなりそうだが、どうも会話が続かなかった。


「少し時間ある?」

家の近くになってカズ君がそう言い出した。

「うん、大丈夫」

カズ君が歌やギターを練習する空き地に寄った。

「今日はお疲れ様」

「カズ君もお疲れ様。初めてだもんね、一度に12曲も歌うの」

「案外平気だったよ」

「良かった」

「…………」

「…………」

呼び止めたのはカズ君なのに、また黙る。

月明りに照らされたカズ君の顔は笑顔だけどぎこちなく、影があるように見えた。

「ここで毎日遊んだね。ただ走り回るだけで楽しかったなぁ」

「うん」

懐かしむように全体を見渡しながらカズ君が言う。声の調子はいつもと変わらなかった。

「聞いた? ここ整備されて住宅地になるんだって」

「本当?!」

初耳だった。ずっと手付かずだった空き地だけど、とうとう無くなってしまうのか。

「この辺りも変わるね」

「そうだね」

物心ついた時からほとんど景色に変化がなかった。ここが急に都会になるとは思えないけど、変わるのは間違ないだろう。

「感傷的になるのは僕がここを出て行くからかな」

「思い出の場所だもの。寂しくなるのは当然だよ」

「思い出、か」

遊び場所でもあり、練習場所でもあった。

「そう……」

頷こうとした時だ。

カズ君の手が初めて私の頬に優しく触れ、顔がうんと近付いた。

息が止まりそうになる。

「ここでの最後の思い出……つくりたい」

胸がつまって声にならず、目を閉じる事で答える。

やがて私の唇に柔らかくて温かな感触が重なった。



まるで熱が出たように頭も身体もフワフワする。

カズ君はそんな私をそっと抱きしめ、優しく頭を撫でてくれた。それも心地よくて、ずっとそうしていたかった。

「美紀ちゃん」

しばらくしてカズ君の手が止まり、耳元で囁く。

「美紀ちゃんが好きだ」

「え……」

突然改めて言われると、嬉しいというより驚く。

「たとえ他に美紀ちゃんを想う人がいても、僕より相応しい人だとしてもだよ」

辛そうな声に仮定の話が実在するように聞こえた。

(まさか……ね)

私はそっと身体を離し、カズ君を真正面に見据えた。

「どんな人が私に相応しいのか分からないけど、私はカズ君が好きなの」

一瞬目を見開いたが、すぐ優しげな目元に戻る。

「ゴメン。僕が自信ないばかりに」

「さっきはそう思えなかったけどな」

「そ、それはっ、自信じゃなくて必死で……」

「ふふっ」

それこそ必死な様子がおかしくて、思わず吹き出す。

「あはは……」

カズ君も頭をかきながら、照れ笑いした。


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