54 卒業~RIZE ラストライブ~
「いよいよお役御免だな」
軽トラを前にお兄ちゃんが感慨深げに言う。運転席にはカズ君がいた。
「練習はしたけど、よろしくお願いします」
「お手柔らかに」
お兄ちゃんは笑って助手席に乗り込んだ。
「じゃあ会場で」
レイ君が声を掛ける。
「うん」
カズ君は若干緊張した面持ちでハンドルを握ると、ゆっくり出発していった。
「……その分会場で張り切るよ、お兄ちゃん」
「そうだな」
二人で会場へ向かう途中、竜岡さんの言葉を思い出す。
単純に『好き』じゃない、深くて複雑な想い。
だけど私とレイ君はそんな難しく考えるような間じゃないと思う。単に幼馴染みで、いいように使われているだけだ。
今日のライブにお手伝いとして、バンドを組んでいる下級生も大勢来てくれた。
多目的ホールには音響設備などもあり、その調整は放送部員に頼んでいた。
「レイ君、顔が広いのね」
「そういう努力をした」
打算的かもしれないけど、これからは必要なのかも知れない。
準備・リハーサルと滞りなく進み、いよいよ本番直前となった。
「3年間の集大成だ。気合い入れていこう」
レイ君が一言言った。オリジナルとコピー合わせて12曲も演奏するという初の試みだ。
「良いライブにするね」
「うん、楽しみ!」
カズ君はいつもの笑顔の中にも、頼もしい雰囲気を感じさせていた。
私も急いで観客席へ行く。
最前列の中央。
初めは後ろの席にしようと思っていたけど、カズ君がここを用意してくれたのだ。
中里さんも竜岡さんも揃っていて声を交わす。
満員の会場はザワついていたが、メンバーが現われると歓声があがった。
準備が整うと、その歓声を上回るカズ君のシャウトでライブが始まった。
文化祭以来半年のブランクがあったけど、それを全く感じさせない。
文字通りに会場が熱く、そして大きく揺れる。激しい音が駆け抜ける。
そして最後まで息をつかせず見事に演奏し切り、さらにアンコールまで応えた彼らを、惜しみない拍手と大歓声が見送った。
「こんな充実した3年間を送れるとは思わなかった」
打ち上げの時に飯沼君が感慨深げに言った。
「あぁ、楽しかったよ」
畑君も合わせて言う。二人共地方の大学へ進学するので、滅多な事では会えなくなる。でもライブをやる時はぜひ聴きに行きたい、と言ってくれた。
「武道館に招待する」
「それ、いつになる?」
「4年以内には」
飯沼君は笑ったが、レイ君は真面目な顔だった。カズ君も大きく頷く。
「それは楽しみだ。VIP席を用意しておいてくれよ」
畑君は真摯に受け止めたようで笑わなかった。飯沼君も笑うのをやめ、「俺の席もよろしく頼むね」と言った。
打ち上げの終わりには全員で握手を交わした。
「ありがとう、吉山さん」
「これからも頑張って」
二人は決して妥協しないレイ君の注文に、時には衝突しながらも応じてくれた。お礼をするはこちらだ。
「二人とも3年間メンバーでいてくれて、本当にありがとう」
しんみりしないよう明るく元気に言った。




