35 竜岡さんの告白
文化祭のライブは西高生以外の観客が増えて、去年以上に大盛況だった。
「いいね、やっぱりこうでなくっちゃ」
「こう、って?」
「世の中には歴が長くても下手なバンドが沢山あるんだよ」
すっかり専属運転手のようなお兄ちゃんも毎回嬉しそうに聴いている。大学生って、そんなにヒマなのだろうか。
レイ君はバンドの掛け持ちを辞めていて、RIZEだけの演奏を残念がられていた。
文化祭後の打ち上げが今年は行い、しっかりお兄ちゃんも参加していて、こちらもかなり盛り上がった。
カズ君が怒った初コンテストの後、ぶっきらぼうにだが謝ってきたレイ君。詮索はしなかったけど、お兄ちゃんはレイ君の話を聞いた上で意見をしたそうだ。
一見当たり前のようだが、レイ君が人に自分の気持ちを話すのはとても珍しい。お兄ちゃんだから成せる技なのか。
もしそれを出来る人が増えたらレイ君も変わるだろうか?
そう思うのは、いよいよ竜岡さんがレイ君に告白すると聞いたからだ。
教室でよく会話するし、二人だけで下校する事が増えた。
そして夏休み中、私は思い切って彼女をレイ君の家へ連れて行ったのだ。おそらく私以外に女の子が来たのは初めてだろう。
おばあちゃんは『かわいい子ね』と喜んでいた。
レイ君もピアノを聴かせてくれて、悪い感じではなかった。
文化祭から数日経って家に電話がかかってきた。
『もしもし、竜岡です』
声の調子はとても落ち着いている。
『もしかして……』
『うん。今日言ってきた』
『どうだった?』
『OKしてくれたの』
『良かった!』
レイ君は、竜岡さんを受け入れてくれた。それにしても竜岡さんの反応は冷静だ。
『そうね。あっさりと』
『……?』
『別にいいよ、って感じで』
『そ、そういう人なの』
『それに「何すればいいか分からないから、要望があれば竜岡から言ってくれ」って』
その言い方はその場にいたらレイ君の後頭部を引っ叩くところだ。
『女の子と付き合った事なくて』
苦しいけどそう言っておいた。
『それと最後に「音楽が最優先だから」って言われたわ』
『それは……』
フォロー出来ない。
『いいの。分かってる』
『なんか、ごめんなさい』
とにかく謝りたかった。
『ふふっ、大丈夫よ』
ようやく笑い声が聞けた。
『とにかく今まで受け入れた人がいないんだから、凄いよ』
『今のところ、完全なワンウェイだけどね』
『…………』
せめて「君の気持ちが嬉しい」くらいないのかな。心の中でため息をついた。
とうとうレイ君にも彼女が出来たのだ。
だけど大丈夫だろうか。おめでたい事なのに不安の方が大きくて素直に喜べなかった。
二人が付き合い始めたという話は、あっと言う間に広まった。
レイ君のファンは多く、同時にかなり嫉妬の目も向けられた。しかし竜岡さんが毅然とした態度をとっているうちに、いつの間にか収まっていった。
何しろ二人はお似合いだ。並んでいるだけで無条件に納得出来る。
レイ君も竜岡さんを大切に接していて、どうやら杞憂に終わったようだ。




