29 春、2年生
降り注ぐ日差しは暖かく風は穏やかで心地いい。新学期のスタートにぴったりな朝だ。
ただ私の半歩後ろを歩くレイ君にはこの爽やかさが伝わらないらしい。
「大丈夫?」
「…………」
不機嫌そうに押し黙ったままではあるけど、一応歩いているようだ。
いつもの事だが、たった一週間の春休みでレイ君はすっかり夜型になっていた。
心配していたおばあちゃんにカズ君は迎えに行くと申し出たのだけど、そのカズ君は急に野球部の用事で早く登校になり,私だけが迎えに行く事になったのだ。
「桜、だいぶ散ったね」
「…………」
全然口を開かない。
今に始まった事ではないが、この清々しさを分かってくれないのは残念だ。
「あ……」
少し風が強く吹き、私は胸元まである髪を押さえる。近くにある桜から花びらが舞い落ちた。まさに花吹雪だ。
風が収まると、いつの間にか隣りにいたレイ君がこちらを見ていた。
「どうしたの?」
レイ君は問い掛けには答えずに私の頭へ手を伸ばした。
優しく撫でるように髪を滑る指の感触がやけにくすぐったい。
「ちょっと……!」
変な動悸がしてレイ君から視線を逸らした。
「これ」
その私に差し出す細い指先の上には花びらが一つ乗っていた。
「今の風で?」
「ただでさえオメデタイのに、頭にこんなの乗っけてたら余計おかしいだろ」
「それ、どういう意味よ」
「さぁ?」
あんなに不機嫌そうだったのに、こんな事を言う時は微笑さえ浮かべている。
再び吹いた風にその花びらも何処かへ飛んだ。
それから暫くは動悸が収まらなかった。だけどレイ君は何食わぬ顔をしている。
(昔から平気で人に触るのよね。無神経なんだから)
頭に来て教室に入るまで一言も口を利かなかった。
2年生に進級したが教室は新しくても顔ぶれは変わらない。
レイ君はさっさといつもの仲間達の輪へ向かい、私も女子の集まる席へ行った。
「おっはよ~ 今日は王子様の護衛?」
中里さんのキツい挨拶も相変わらずだ。
確かにまだ背は私の方が高いし、とてもお姫様の役ではないだろう。
「王子様も、そろそろ誰かを守る側じゃないとね」
私はため息混じりに返す。
ぜひこれからの介添えはお姫様がして欲しい。そのお姫様候補は……。
「おはよう」
只今ご登校だ。小柄で可憐な竜岡さん。彼女なら誰でも守ってあげたくなるだろう。
「何かついてるかしら?」
つい竜岡さんの顔をじっと見つめてしまったので、かなり困惑していた。
放課後、カズ君と待ち合わせをしていた。
「朝行けなくてごめんね」
まず一番にそう言った。レイ君に見習って欲しい。
それからいつものように楽しくお喋りしながら帰った。
「春休み中、また何処にも行けなかったね」
「毎日バンド練習だもん。でも沢山聴けて楽しかったよ」
「そう言ってくれると少し気が楽になる」
練習が多かったのはバンドコンテストへの出場を決めたからだ。楽器メーカーの主催で5月に開催される。
メンバーはもちろん私も待ち望んでいた事だ。




