27 バレンタインデー(5)
少し間を空けたがレイ君は静かに切り出す。
「チョコは渡せたか?」
去年のバレンタインの日、本命に気持ちを込めて欲しいと言われた事を思い出した。
レイ君はカズ君の気持ちを知っていたのだろうか。
カズ君が私に気持ちを伝えることを知っていたのだろうか。
私の気持ちは……?
「うん。ちゃんと心を込めて渡したよ」
「そうか……」
レイ君は遠くを見るように目を細める。
「みんなへ義理チョコも用意してるよ。感謝の気持ちと一緒に」
「…………」
何か言いたげに口を開いたけど、私はお構いなしに続けた。
「カズ君は特別なの。みんなへの気持ちとは違うんだから、ご心配なく」
「そうだな」
レイ君は少し長めの瞬きをした後、また微笑んだ。
「そうだ、お茶の準備出来たよ。早くしないと冷めちゃう」
「あぁ、行こう」
しかし、はなれへ行きかけたレイ君は足を止めた。
「もし……もしもカズ以外の奴に言い寄られたら、どうする?」
私に背を向けたまま、変な事を聞いてきた。
「そんな人いる訳ないよ」
「例えば、だ。それに物好きがいないとも限らない」
「かなり失礼じゃない?」
「答えてくれ」
ふざけているのかと思ったけど、振り向いたレイ君の目は真剣だった。それなら私もきちんと答えよう。
「今、カズ君以上に大切で好きな人はいないの」
小さい頃から3人一緒で兄弟のようだったから、こんな事を言うのは照れくさい。
でも……だからこそ、伝えなければ。
「だからちゃんとお断わりするよ」
有り得ないが、タカ兄ちゃんから言われたとしても。
レイ君は黙っていたけど、やがて静かに頷いた。
「分かった。ありがとう」
「……!」
普段言うべき時には言わないくせに、今お礼を言われる理由が分らなかった。
「じゃ、行くか」
そして私がかなり勇気を出して言ったのに、それ以上何も言わなかった。感想をじっくり聞かされても困るけど。
先に行くレイ君の背中に、今までのような雰囲気で3人が一緒に居られないのでは……そんな事を思った。
「遅くなってごめんね」
はなれでは、みんなが私達を待っていてくれた。
「このケーキ、美味しいんだよ」
カズ君は二人に教える。
「高級そうだなぁ」
飯沼君はしげしげとケーキを見ている。
「ショートケーキしか食べた事ない」
畑君も甘い物は嫌いではないようだ。
それからようやくケーキを頂く事が出来た。初めて食べた二人にもとても好評だった。
「そういえば、今年チョコは?」
私はレイ君に聞いた。
「少し貰った」
去年は今までで一番多く、デパートの紙袋2つ分になった。今年は日曜日という事もあって、それに比べたらかなり少ないようだ。それでも15個あった。
休憩を挟んでまた練習が始まる。夕方までずっと続いた。
みんなが帰る前に私からチョコを渡す。
「ありがとう!」
二人ともちゃんとお礼を言って受け取った。
レイ君は「あぁ……」とか言っただけだ。
お礼を言われたいがためにあげる訳じゃないけど、年間でお礼を言う回数を決めているのだろうか。




