18 文化祭(4)
コピー曲の演奏を終え、残すは新曲のオリジナルのみだ。
メンバーからは始めとは違う緊張を感じる。しかしその緊張感も楽しんでるようだ。
カズ君は歌に集中するために、ギターを置いた。
「最後にオリジナル曲を聴いて下さい」
マイクに向かうと、そう言って頭を下げる。
『オリジナルだって』
観客席は一瞬ざわついた。そんな時だけど私はカズ君の優しい口調に和んでしまった。
しかしそれも演奏が始まると一変する。
初めから演奏は全速力、と言っていいほどのテンポ。
そしてカズ君が歌い出し、曲が大きく動き出した。激しい演奏にも負けない存在感のある声だが決して乱暴に聴こえない。
圧倒されていた観客も、すぐに引き込まれた。
『…………!』
『…………!』
歓声も演奏の一部になり、更に曲が盛り上がる。やはり練習で聴くのと、ステージで聴くのとは違う。どちらも良いけど、メンバーは今の方が弾けていた。
曲はサビに入り、テンションは最高潮だった。
得意の早弾きで観客席を煽る畑君。それに負けまいと飯沼君のベースが激しく唸る。
そしてレイ君の目まぐるしいスティックさばきは、そこだけ時間の流れが違うようだ。
そんな演奏の中をカズ君の歌は全く引けをとらず、観客へ切り込んでくる。
『……ッ!!』
歌の合間にもカズ君はシャウトを入れる。
カズ君がこんな大声を出せるなんて知らなかった。
『…………!』
『…………!』
観客も色々な声で応える。ここに居る全員が全身を使ってステージを作り上げていた。
嵐のような演奏はアウトロを迎え、あっという間に過ぎ去ろうとしていた。
最後のフレーズを歌いきったカズ君は、顔を紅潮させて演奏を聴いている。
ダッダッダッダッ……。
次第にドラムロールがゆっくりとなり、ギターもベースもかき鳴らす。
ダン!!
最後にメンバー全員で飛び跳ねて曲を締めた。
演奏に負けないほどの拍手と歓声が体育館を揺るがした。
「はぁ~喉カラカラ」
中里さんは運ばれてきたアイスティを一気に飲んだ。
3年生がやる喫茶店で私達はグッタリしていた。でも悪い疲れじゃない。
「あの後のバンドがちょっと可哀相だったね」
RIZEを含めて出場バンドは6組。オリジナルを演奏したのはRIZEだけだった。
「ちゃんと盛り上がってたと思うけど」
「それなりにね。でも次点は、結局鳴海君がドラムだった所だし」
確かにレイ君がヘルプで出たバンドも、レイ君の独り舞台のようだった。
「それにしても、鳴海君大丈夫かしら」
竜岡さんが軽く眉をひそめて呟く。
そのヘルプバンドの演奏後、レイ君は倒れたのだ。
演奏の終盤、レイ君の微妙な表情の変化に私とカズ君は気が付いた。すぐに舞台袖へ向かうと、降りて来たレイ君はフラフラとしている。
「レイ君!」
「ちょっと静かな所で休ませてくれないか」
カズ君が駆け寄り身体を支えると、レイ君は呟いた。
レイ君の状態は酸欠みたいなもの……との事だ。病院には行くほどではなく、しばらく安静にしていればいいらしい。