19 文化祭(5)
付添いは一人で良いとの事なので、保健室内にはカズ君が残った。
レイ君が倒れた話はあっという間に広がり多くの生徒が様子を見に来たけど、畑君と飯沼君が保健室の前で事情を説明して帰ってもらっていた。
「練習じゃあ、なんともなかったのに」
時間や演奏回数なら練習のほうがずっと多いはずだ。
「やっぱりステージは違うんだよな、テンションが」
畑君が言うと妙に説得力がある。
しばらくして扉が開き、カズ君が顔を見せた。
「どう?」
「もう少し休めばいいって」
「そう、良かった」
ホッと胸を撫で下ろす。
「友達と約束はいいの?」
カズ君が聞いてくる。
「う、うん」
本当はライブの後中里さんと竜岡さんとの三人で色々見てまわる約束をしていた。
「レイ君が片付けまでに戻ってくればいいって」
「後片付けも手伝うのは確定なのね」
「そうみたい」
カズ君も苦笑していた。
こうしてようやく出てこれたのだった。
西高の文化祭は見どころが多く、中学よりもずっと面白い。
「この後片付けでしょ」
中里さんが言う。
「そう。人使いが荒いよ」
「でも、ちょっといいな」
竜岡さんが意外な事を言い出した。
「かなり重労働だよ」
「RIZEと一緒にいられるってのは、オイシイかもね」
ニヤニヤしながら中里さんが口を挟む。
「……?」
結局この喫茶店を出ると、すぐに体育館へ向かう時間だ。
そこにはもうメンバー全員がそろっていた。レイ君の顔色も悪くない。
「大丈夫なのね」
「あぁ……」
「良かった」
今の様子を見て安心した。
「じゃあ始めよう」
レイ君はぶっきらぼうに言うと、ステージに向ってしまった。
それでこそいつものレイ君。そんな態度がかえって落ち着くのには我ながら可笑しい。
お兄ちゃんは事故を起こす事なく、無事にドラムを運び終えた。
本当はこの後に打ち上げを予定していたけど、レイ君の体調を考えて軽いミーティングで終了となったようだ。
私はそれに出ずに家へ帰ると、居間のテーブルには菓子折りが置いてあった。
今日のお礼にレイ君のお家から頂いた物だという。
「この辺じゃ聞かない店だなぁ」
夕飯前だけどお兄ちゃんは早速つまもうとしていた。
「あ、このお店……味は保証するよ」
いつもバレンタインに頂くケーキ屋さんだ。
「おおっ、確かに美味いな」
やっぱりお兄ちゃんもその美味しさに驚いていた。
(わざわざ買いに行ってくれたんだ)
お家の人は親切で優しいのに、どうしてレイ君は違うのかな。
しばらくするとカズ君から電話があった。
『すっごく良かったよ』
『そう?』
私の感想はもちろん周りの反応も伝えると、電話の向こうでもカズ君が照れているのが分かる。メンバーも全員、今日のライブは好感触だという。
『コンテストに向けて少し自信がついたよ。でももっと練習はしないとね』
『頑張って』
文化祭以外でカズ君の歌を聴けるのはそう遠くないかも。そう思うと電話が終わっても自然と顔がほころぶ。
それからもメンバーはコンテスト出場を目指し、より練習に励んだ。




