第五回投稿分 第六話 そして、ゲームは本格始動する
ホーリ達は洞窟の中を進む。
時々現れるエネミーたちは、洞窟の外と同じだった。
ちなみに洞窟の外では、山道北でもでてきた虫系のエネミーと、人に限りなく近しい背格好で、長く尖った耳を持ち、羽が生えておいて空を飛ぶことができるエネミー、フェアリー族のエネミーと遭遇した。
これらのうち厄介なのは、フェアリー族だった。
フェアリー系はフォク族のそれよりも高い文明を持っているらしく、木の陰などに隠れては魔法の狙撃銃などで攻撃してくる。
ゆえに、発見までに時間がかかり、その隙にどんどんLPを削られる。かなり厄介な敵だ。
幸いなのは、一発あたりのダメージが少ないこと、一回当たりの遭遇が1~2体、という点だろう。
しかし、それでも二、三回戦闘を繰り返せば、回復しなくてはならないくらいには強い。
おそらくは、これくらいがちょうどいい相手なのだろう、とホーリは勝手に推測する。実際、現在の大抵のRPGでは、新天地で戦闘を二、三回行い、回復してHPを回復してから行動再開、というのがベターというものが多い。
このゲームも、その点については準拠しているらしく、二、三回戦闘をおこなってから回復、というパターンに見事にはまっている。
ただ、今までは野外だったため、使ったそばから素材が見つかったため、いくらでも補充ができた。
二人パーティで、どちらも回復手段を持っているというのは、それだけで若干無茶を踏むこともできるが、アヤは魔法による回復で、MPが切れない限りはいくらでも使える。対してホーリのそれは素材がないと何もできない。
回復アイテムの総数は、三〇を超えてこそいるが、洞窟に入れば、撤退時に温存する分も考えると足りるかどうかは疑問だ。
勢いで洞窟に入ったはいいものの、ホーリだけで考えれば状態はあまりいいとは言えない。
「……少し様子見して、大丈夫そうだったらここを探索しよう」
「そうだな。そうしよう」
だが、今はホーリ一人ではない。先ほどもふれたとおり、回復役は二人いる。そして、LPを回復し、MPも若干量回復するものもある。回復手段の不足は、よほど無茶を踏まない限りはないと考えていいだろう。
「……あれ、あそこに宝箱が……」
「あぁ。俺にも見える。……すでに開けられた宝箱が」
洞窟に入って五分もたたないうち、さっそく宝箱を発見したが、その宝箱はすでに開けられていた。
これが示すのはただ一つ。
「私たち以外にも、やっぱり来てる人はいるんだね」
「みたいだね」
その人物はホーリ達の知る人なのだが、ホーリ達がそれを知る由もない。
早く追いつきたいといわんばかりに、二人は歩を進める。途中ポップし、岩陰から狙撃してくるフェアリーや洞窟内の昆虫を捕食する蝙蝠、インセクトイーターを倒しながら。
そして、さらに十五分ほど、途中何度か分かれ道で行き止まりを引きつつも順調に歩を進むと、若干開けた場所が見えてきた。
「開けた場所……ッ! 気を付けて。βのときは、このエリアからエネミーハウス、つまりエネミーの大群が開けた場所に固まっている状況が出てきたことがある。その可能性がないとは言えないから」
「わかった」
「幸い、ローグライクと同じく広間に出なければエネミーは襲ってこないはず。βのときと変わりなければ、ね。広間の様子をうかがって、大丈夫そうだったら進もう」
「おう」
ランダムゲットシステムなど、ローグライクゲームの要素を多かれ少なかれ盛り込んでいるこのゲームのことだから、きっとそういうのもあってもおかしくないんだろうなぁなどと思いつつ(実際にはMMOでもモンスターハウスのあるゲームは存在するので、モンスターハウスはローグライクのみの要素とは言えないが)、ホーリはアヤの言葉を心に留め、開けた場所へと近づいた。
そこには――。
レーリリアは焦っていた。
回復手段が、なくなりつつあるのだ。
先ほど、エリアボスと遭遇し、腕試し程度に挑んであと一息というところで撤退した。だが、そこまでは良かった。
だが、彼女は一つ、失念していたことがあった。
(うかつだった。エネミーハウスのこと、すっかり忘れてた……)
この山道、いまは屋外だけでなく洞窟という新たな区分も増えたこのエリアからは、広範囲に開けた場所が複数個所存在しているのだが、そこに多勢のエネミーがうごめいている、という場面に出くわすことがあったことを、すっかり忘れていたのだ。
手持ちの魔法陣は、攻撃系のカードが二枚、補助系のカードが三枚、そして回復系のカードは――残り、一枚。それも、魔法陣というのはランクというものが定められており、そのランク数に十を乗算した回数だけ使用できるのだが――今、手元にある回復魔法のカードは、残り使用回数があと五回しかなかった。
現在、レーリリアの持つカードはすべて一ランク。そして、もともとボス戦前は各種カードごとに合計二十五枚ほど所持していたのだが、ボス戦で消耗しすぎた。この状況を抜けるには、手札が足りなさすぎる。なにより、ベターというものをあえて守らない攻略をするレーリリアに、近接戦闘術は存在しない。
ゆえに。
エネミーハウスを抜けるには、無理がある。
かといって、セーフティエリアにもどるのも却下だ。
セーフティエリアに行けば、確かにウェイクアップは即座にできる。だが、それだけだ。次にダイブインしてきたとき、PCはそのセーフティエリアで目覚めることになる。
今すぐ補充しなければならない状況なのに、奥地へ行くのはあまりにも悪手だ。その上、洞窟ということは暗視の効果が必須。暗視の効果があるアイテムの生産素材が手に入るエリアにたどり着いていない以上、この洞窟をレーリリアだけで抜けるには、暗視魔法薬の効果がある今しかない。
だが、状況は最悪だ。おそらく、今の状態で入っても、押し通って逃げ切ることは不可能だろう。
ならば、あきらめて死に戻りするか?
「……は。それこそ冗談。私は死に戻りなんてまっぴらごめん」
死に戻りというのは、彼女はあまり好きではない。いや、好きという人はほとんどいないだろうが、彼女はことさらその傾向が強い。
だが、状況がそれを許さないのも確かだ。レーリリアが入った途端、広場にいるあらゆるエネミーは、彼女を標的に暴れまわることだろう。そこに、逃げる余地はない。
レーリリアもそれを見越している。しかし、ただで死に戻るのは、あきらめるというのだけは何がなんでも許せない。
ゆえに――レーリリアは、追い詰められた一匹のネズミは。
多数の猫に一矢報いるべく、顔を引き締めて、その右手に攻撃系魔法のカードを、左手に回復系魔法のカードと補助魔法系のカードをを携え、その広場に、死地に踏み込んだ。
ホーリは目の前の状況をみて、息をのんだ。
広間をのぞいてみると、そこには部屋を覆い尽くさんばかりのエネミーが確かにいた。
だが、そのすべてはある一点にターゲッティングを集中させていた。
そして、エネミーたちの視線の先にいるのは――
「「レーリリアさん!?」」
ホーリが昨日世話になったレーリリアその人だった。
「……っ! ほ、ホーリ君!? それにその声は確か、アヤ!」
双方、思いがけない再会に大声を上げる。
それと同時に、瞬時に状況を把握するホーリ達。すぐさま、レーリリアの援護に回ることを、ほぼ同時に心の中で決めた。
「加勢する!」
「私も入ります!」
レーリリアはそんな二人を見て、ありがたいような、それでいて申し訳ないような複雑な顔で返事を返してくる。
「ありがとう。気持ちは嬉しいよ。でも……ね。アヤ……ッ! 貴方は、分かっているよね。エネミーハウスのエネミーの行動パターンはッ、通常とは違うって」
「……え? どういうことだ?」
返事のうち、ほとんどはアヤに対するものだった。だが、その内容は前衛ゆえにアヤよりレーリリアの近くにいるホーリにももちろん聞こえる。
そして、その返答を聞いたホーリは、それが理解できず、聞き返す。
「ああ、ホーリ君は知らなかったッ、ね。エネミーハウスのエネミーはね、タゲ修正が効かないのッ!」
レーリリアは多勢に無勢という状況の中、数多く迫りくる攻撃の中から優先度の高い者だけを選択するという方法で何とか持ちこたえながら、説明をする。
「そのほとんどのエネミーのアルゴリズムは、ハウス自体がポップしてから最初に入ったパーティに、最優先でターゲッティングするようになっているみたいなの!」
「つまり、私たちがどんなに相手のストレス値を稼いで、こちら側に攻撃を向けさせようとしたところで、今回のこのエネミーハウス内では無駄ってわけ」
途中、エネミーのきわどい攻撃が襲い掛かり、中断せざるを得なかったレーリリアの説明を引き継ぐように、アヤからも説明が入る。
「そんなわけだから、私にかまわないで……って、言おうとしたんだけど……問答無用みたいだからいい。その代り、絶対に助けてね!」
そして、アヤが引き継いだそれで説明が終わったのか、今度はきわどい攻撃をかわしたレーリリアが、真意を明かした。もっとも、レーリリアの言うとおり、ホーリとアヤが問答無用で踏み込んだために、放っておいてということができたとしても無駄だったのだろうが。
ホーリは、アヤとレーリリアの説明を聞いて、現状を再確認し始める。
(敵の数は多数につき不明。そのすべてがこのエリアのエネミー、か。俺とアヤにターゲットが向かないというのはメリットとデメリットがあるかな……)
メリットは、もし本当にレーリリアを攻撃することが最優先ならば、ホーリは攻撃がし放題、ということになる。反撃の可能性もほとんどないといえよう。
だが、デメリットは少し厄介だ。
なにしろ、その攻撃のすべてがレーリリアに向けられるということは、そもそもその攻撃を行わせないよう、なるべくレーリリアに近づく前にエネミーを倒す必要がある。
だが、このエネミーハウスのエネミーの量は、それはほぼ不可能だ。なにせ、四〇体くらいはいるのだから。
「……きつい戦闘になりそうだな……」
そっとつぶやいたその言葉はアヤとレーリリアに聞かれることはなく、しかし確実にこの状況を言い当てていた。
「だらああああぁぁぁ!」
「――――ッ!」
「せあああぁぁぁぁ!」
「――――ッ!」
ホーリが奇声を上げながら棒を振りかぶれば、虫型のエネミーが宙を舞い、アヤが大声を上げながら、ホーリがエネミーハウス内で拾ったドロップ品のブロンズカトラスを振りかぶれば、今度は獣型のエネミーが真っ二つに斬られて消滅する。
しかし、二人の勢いとは裏腹に、未だに二〇体以上いるエネミーと、レーリリアの現在の戦闘能力から、状況は最悪のままだ。
この限定された空間内での戦闘は、十五分ほど経って、今なお熾烈な戦況を極めている。
戦闘参入直後、自分にターゲットが向かないのをいいことに、レーリリアに真っ先に駆け寄ったホーリは、そのままレーリリアをパーティに入れた。
しかし、アヤとレーリリアの説明にあった『エネミーハウス内のエネミーは、最初にそのエネミーハウスに入ったパーティに対し最優先にターゲッティングする』という傾向は、その時点でのパーティ情報に固定されているらしく、例えば今回のようにパーティのメンバーを入れ替えるなどして、パーティ情報を書き換えたとしても、一度起動したエネミーハウスのターゲットにはなんら影響がない。
よって、ホーリはその後、レーリリアの全面サポートに入ることにした。具体的には近寄ってきたエネミーの迎撃をしつつレーリリアのLPパーセンテージを確認、残り30%、いわゆるレッドゾーンまで削られていることを確認した時点で、急いで回復アイテムをインベントリしから取りだし、レーリリアに投げ渡す。といった感じだ。
「ごめんね、ホーリ君。先輩プレイヤーとして面目が立たないや」
攻撃手段をすでになくしてしまったレーリリアは、苦笑するしかない、という顔でホーリに謝る。
だが、ホーリは、
「それは言わないでくださいよ。ローグライクゲームだって、いつ、どこで、どんな風な事態が襲ってくるかわからない。このゲームはそんなローグライクの要素をかなり盛り込んでいるようですから、βテストプレイヤーの人がどれだけピンチになったとしてもおかしくはないと思いますよ」
と、そういって、レーリリアの言葉を切って捨てた。
レーリリアはそれはそうだけど、となんとも言い難い顔でそう返した。
だが、レーリリアは煮え切らない顔をしてはいるが、実際にはホーリが今言った通りなのだ。
レーリリアがβテストの際の出来事を忘れていたことにも責任はあるとはいえ、基本的にローグライクテイストな要素が多そうな『夢幻』。いつ、どこで危機的状況に陥ったとして、それはプレイヤー自身の責任になるのか、運がないとしか言いようのない事態に陥ってしまったか、ダンジョンエリア内ではわかりづらいようにできているのだから。
そんな感じで、ときどきレーリリアが自分はなんと不用心だったのか、などとぼやいてはホーリがそれをなだめるということを何回か繰り返しながら敵を倒し続けていると、ある時を節目に状況は一変、ホーリ達三人に、脱出ではなく勝利の糸口が見え始めてきた。
「っと、これは……。レーリリアさん!」
それは、一つのカードケースだった。カードゲームなどでよく見かける、カードデッキをしまうためのカードラックのようなものだ。
それを拾ったのは、エネミーハウスに入ってから三十分が経過しようとした頃、レーリリアの煮え切らなさそうな顔を傍目に、ただ黙々と危険度の高い、近くまで接近してきているエネミーから倒し続けていたホーリだった。
あるエネミーがドロップしたアイテムを手に持ち、ポップアップウインドウを目にした途端、ホーリはこれはもしかして、と思い、あわててレーリリアにそれを投げ渡した。
ホーリが拾ったアイテム。それは。
「ッ! こ、これは……ホワイトフェアリーの希少ドロップ……。普通のエンカウントではホワイトフェアリー自体が希少だから、なかなか手に入らない超絶希少ドロップなんだけど……」
何気にとてつもない単語の羅列が出てきた気がするが、ホーリはあえて気にしないようにした。
レーリリアはそのアイテムをタップし、再びそれのポップアップウインドウを表示させた。
『魔法陣デッキラック その他装備品・ボックスアイテム・トレジャーパック RANK0
残弾数20/60
セット済みの魔法陣デッキラック。20枚入っている。ドロップ品のため中身は未鑑定。開封するまで内容が何かわからないが、容器越しに見える陣からして使用回数が削られていることは明らか。1枚当たり3回までが限度と推測できる』
これはつまり、レーリリアに攻撃手段が戻ってきたということと同義だろう。彼女の今の攻撃手段は、主に魔法陣を主体とした儀式魔法なのだから。
そして幸運なことに、20枚中8枚は攻撃魔法陣だった。
レーリリアはその八枚を、一枚ずつ識別していった。そして、すべて鑑定し終わった時、
「助かった! これでエネミーハウスは切り抜けられそう!」
「そうか! それは良かったよ!」
もしやと思い急いで渡したものだが、思った通りのものでよかった、とホーリは胸を撫で下ろした。
そこから先はもう、決まったようなものだった。
もともと武芸に富むホーリとアヤはむろん、攻撃手段を取り戻したレーリリアも遊撃に入るようになり、エネミーハウスのエネミーは次々とポリゴン片になっていった。
そしてホーリ達がエネミーハウスに足を踏み入れて数十分後、ついに最後の一体も、LPパーセンテージが0に、つまりはポリゴン片になって消える時が来た。
「終わった、の……?」
「……あぁ。もう、エネミーはいないみたいだ」
「はぁ、疲れたぁ。死に戻りするかと思った……」
「実際死にかけてましたけどね、レーリリアさん」
「言わないでよ、もう……」
最初は、殲滅した実感が湧かずに確認を取ったレーリリア。それを証明するかのように、同じく実感が湧いていなかったホーリが、周囲を見渡してそういう。
そうすることでやっと実感が湧き、思わず一人、ぽつりと言葉を吐いたホーリと、それを聞いて茶化すホーリ。
だが、確かにレーリリア端にかけていたので、言い返すこともできず、短く一言返すしかない。
そして、そこでやっと緊張がほぐれたのか、レーリリアはすとんとその場に崩れ落ちた。
「……ありがと、ホーリ君にアヤちゃん」
「どういたしまして」
「お互い様ですよ。それより、エネミーハウス殲滅報酬! どうなんですか、そっちの方は」
そして、やっといつもの調子に戻った。
エネミーハウス殲滅報酬。
それは、エネミーハウスというトラップの解除報酬のことだ。
ローグライクゲームにおけるモンスターハウスでは、特定のモンスターがまれに落とす固定型のレアドロップアイテムの入手が、通常より高い可能性で望めるのと同時、床落ちアイテムの多さもそれと同じくらい魅力的といっていいだろう。
そして、『夢幻』におけるエネミーハウスでもやはり、そうしたシステムが組まれているようで、
「殲滅報酬?」
「そ。エネミーハウスは、倒したエネミーのドロップとは別で、倒したエネミーがドロップする可能性のあるアイテムが入手できるの。しかも、通常のドロップと違って、レア率がかなり高めで!」
つまり、こういうことである。
VRMMOという設定上、例えば今回のように、森と洞窟で区分けされているようなエリアで森の植物が入手できてしまっては、矛盾してしまう部分が出てくる。
それを防ぐためなのだろう、ローグライクゲームとは違い、『そのエリアで採取入手できる可能性のあるアイテム』ではなく、『殲滅させたエネミーたちがドロップする可能性のあるアイテム』が設定されているのだ。
「なんというか、やっぱり微妙にローグライクとは違うんだなぁ」
「VRMMOだしね。草木のない洞窟で草木が手に入るのはどうよ?」
「どうっていわれてもなぁ……」
インベントリを開き、内容を確認しながらそう聞き返してくるレーリリアに、ホーリは若干たじろいだ。
「魔法陣のデッキラックに、光妖精のワンド。光妖精の光線銃に……あぁ、この光線銃は私が持っててもしゃぁないからホーリ君にあげるよ。……もう一つあるから、これはアヤちゃんに。それから……おぉ! 魔法陣図鑑! 妖精族共通の超絶稀少ドロップアイテムだ! やったぁ……生き残れてよかった! ほんとにありがと、ホーリ君、アヤちゃん!」
そして、レーリリアから知らされたその報酬とやらの内容と送られてきたアイテムに、ホーリは早々に『どうとでもなれ』と投げやりになった。
おとといもなんか、こんな感じで投げやりになったなぁと思いながら。
『なるほどね。顧客減らさないためにも、確かにそれはするべきだろうね。なぎさの言い分はもっともだよ』
「でしょう?」
PSのトップVR空間で、なぎさはとある女性と話し合っていた。
その女性は、GM陣営のトップクラスの権限を持ち(具体的にはなぎさの次。なぎさはこの女性の次にある、『決して越えられない壁』のさらに上に位置する最上位権限持ちである)、また『夢幻』の公式サイトの運営もなぎさの管轄のもと、彼女が行っている。
故に、基本的になぎさを除いて、この女性を通さずして直接公式サイトをいじれる人はいない。
「トップの進み具合に応じてヒントを示すくらいはすべきだよ」
『だろうね。ただ……わかっているでしょう、なぎさ』
「言われなくても、ね。私たちの作ったゲームのキャッチコピーは――」
「『待ち受ける終焉は希望か絶望か、眠れるうちに見る夢うつつからの目覚めか。これは我々から送る、貴方たちへの挑戦状――』」
『公式ヒントは出す。でも、それをどう受け取るかは……』
「あの子たち、プレイヤー次第。ふふ、私たち運営からのメッセージ。正しく受け取ってくれるといいわね」
『くすくす。大丈夫よ。じゃ、こっちはうまくやっとくから。そっちはそっちで、バグやら何やらの調整、しっかりやってよ?』
「失礼ね。私はヘマしないわ」
誰だと思っているのよ、とぼやきながら、なぎさは通信を終了した。
――これで、舞台が整った。
なぎさは頭の中で、そう思う。
「あの子たちのストーキングするのもいいけど……そろそろ私も本気出すかな?」
それは、果たしてどういう意味だろうか。
『このゲームはつくづくあなたの先入観を裏切ります。どうか現実を忘れないように』という公式情報の真意が、明かされ始める時が、近いのかもしれない。




