第四回投稿分 第八話 なぎささんはストーカー?
アヤ 女性 レベル8
LP 161/172
MP 131/159
攻防率 +31%
STR 7(6+1)
DEF 8(5+2+1)
INT 32(5+知12+武1+魔14)
AGI 8(6+2)
DEX 10(4+2+4)
LUC 10(5+5)
グロースガイドライン
道具の知識:レベル3 INT+2
化学の知識:レベル5 INT+6
魔法薬の知識:レベル4 INT+4
杖術:レベル1 STR+1,DEF+2
杖捌き:レベル1 DEF+1,DEX+2,LUC+3
砲術:レベル5 INT+1,DEX+4,LUC+2
魔法行使:レベル8 MaxMP+28
詠唱魔法の知識(火):レベル3 INT+4
詠唱魔法の知識(水):レベル3 INT+3
詠唱魔法の知識(風):レベル1 INT+1
詠唱魔法の知識(土):レベル1 INT+1
詠唱魔法の知識(癒):レベル3 INT+5
「……、」
これはありえないんじゃないか。
ホーリがみてまず思ったのはそれだ。
レベルはいいだろう。初心者で、道を見いだしていなかったがためにレベリングの模倣に手を出していなかった自分と比べ、アヤはMMOゲーマーということもあり、レベリングに関してはプロといってもいい。
トップが10レベル超えしているときいたが、アヤはレベル8。トップには届いていないものの、ホーリより高いのだし、実力的にはすでにトップにほどよく近いだろう。
STRやDEFなどのパラメータも、夢幻のシステムの問題上、INTに極振り気味(とはいえ割り振るようなポイントは存在しないのだが)、しかしそれでもホーリの頼れる先輩として謙遜ない、魔法職としてバランスの取れたステータスだ。
知識系を四つも取得したばかりに魔法職でもないのにレベル5の現時点でINTが30に迫りそうなホーリ(正確には29。ランダム要素があるので運が良ければ30に届いていた)と比べれば、よくできているレベリングと言えるだろう。
問題なのはそれらの中身だった。
「なぁ、これ……」
「グロースガイドラインがどうかした?」
ホーリが指したのはガイドラインの欄。明らかにおかしいことになっている。
ホーリ自身、二日間で新たに二つもガイドラインを取得したのはおかしい、と思ってはいるが、アヤのそれはホーリ以上だった。
取得ガイドライン数、七つ。二日間でこれだけの数を集めるのは異常ではないか、そう思えてくるほどだ。
「……多すぎないか? まだ二日目だぜ?」
「う~ん。そうでもないよ? 私の場合、詠唱魔法の知識は取得用のアイテムを取得するための、簡単ななクエストがあるから、それやっただけ。実質的に新しく増えたのは杖術と杖捌きの二つだけだよ」
「そうなのか?」
「そうなの」
しかし、話を聞いてみるとそうでもないらしい。
寧ろ――
「私としては、むしろお兄ちゃんの方が異常だよ。今さらな質問だけど、植物の知識ってなにさ」
寧ろ、植物の知識を入手したホーリにこそ、異常性がある、とアヤは指摘する。
ホーリが理由を問うと、アヤは難しい顔をしながら答えた。
「植物の知識は、一時代分の植物図鑑類揃えないといけないらしいのに。それに序盤で入手できるようなクエストも南の湖ルート、高レベル者向けの方を辿った先の街にいかないとなかったはず。レベル的にも行けるようなところじゃないし……。クエストで手に入れたって昼ごはんの時に聞いたけど、一体どんなのだったの?」
「どんなって言われても……」
いっていいものかどうか、迷ってしまう、とホーリは思った。
ホーリが『植物の知識』を入手したのは条件付きクエストの中でもひときわ珍しい、それこそ街中の宝箱的な意味合いですらあるクエスト、一名限定クエストの報酬として、なのだが。
その条件の一つが問題である。
『特殊条件:βテストプレイヤー以外』である。
βテスターとそれ以外のプレイヤーとの差をなくすための処置、なのだろうが……正直、運営側の悪意しか感じられない条件である。どうあっても、βテスターにとって歩が悪い。
「……まぁ、言いたくないんなら別にいいけど」
だが、だからといってアヤに黙っている理由はないか、とため息をついて迷いを振り払った。
「いや、別に言いたくない訳じゃなくて、な。ただ言いづらいんだよ、発生の条件が条件なだけに」
「条件……? ま、いいや。で、どうやって手に入れたの?」
「どうでもいいって」
あっけらかんとそんなことを言うアヤに、ホーリは若干呆気にとられた。が、すぐに気を取り戻し、事情を説明し始める。
「昨日の……夕方ごろ空だったか、NPCの薬剤店での回復アイテム購入が解禁されたじゃん?」
「あぁ~……。されてたね。それがどうかしたの?」
「あれな、多分、俺がそこで受けられる一名限定クエストクリアしたからだと思うんだ」
「一名限定クエスト!? 超一級のレアクエストじゃん! どんな条件なの!?」
やっぱり食いつくか、と顔をしかめるホーリ。もとより覚悟はしていたが、やはりゲーマーとしては気になるんだろうなぁ、羨ましいんだろうなぁと憶測しながら、その続きを口にする。
「その条件なんだが……まず、特殊条件に『βテストプレイヤー以外』というものがあった」
「βテストプレイヤー以外? なによそれ。ちょっと不公平じゃない?」
「それは俺に言うな、母さんに言え」
「……ごめん、それもそうだね。え、でも、じゃあ……」
「あぁ。どれだけ方法を探そうとも、似たようなクエストはあってもまったく同じクエストはこれ以降一度も発生しないだろうな」
「そっかぁ……。残念だなぁ……」
心底悔しそうな顔でそう言うアヤに、ホーリは宥めるような顔でこう言う。
「ま、そんなわけだ。多分、ヴェンディルの街にある他の条件付きクエストも似たようなものなんじゃないか? 諦めた方がいいって。多分、βテスターとの差をなくすためのクエスト、なんだろうからな」
「んー……でもやっぱり不公平じゃない?」
それでもやはり、不公平感がぬぐえないのは共通認識らしい。
「βテスター以外のプレイヤーからすれば、回復アイテムの素材入手方法を無料で教えてもらえるようなものなんだし、得っちゃあ得だけど……色々ともの申したいのは確かかな」
例えば、チュートリアルのようなクエスト内容だったのだし、一名限定にする必要があるのか、という疑問とかもある。だが、ここでホーリ達が言い合いしていても仕方がない。
幸い、ホーリ達の身近な人物がGMなのだ、直談判はいつでもできる。
「まぁ、その辺は母さんに直談判すりゃいいだろ。」
「そうだね。こればっかりは認められない。これじゃβテスターいじめだよ」
口を尖らせて苛立ちを隠さずにそう言いながら歩くアヤに、ホーリは苦笑してついていった。
その様子を、場所的にもシステム的に分けられたステージとしても遥かに離れた場所で、なぎさにそっくりな、金髪碧眼、妙齢っぽい顔立ちの女性がウインドウを介して見ていた。
「……ふーん……。聖也も彩希も言っていることは道理ね。……カナデから聞いた話だと他にも不満を上げてる人たち多いみたいだし。せっかくここまで集まってくれたのだから、最後まで楽しんでもらいたいなぁ。……さてさて、どうしましょうかねぇ……」
少し考えたあとで、とりあえず目下の問題は手頃な公式攻略ヒントの配信かな、と呟きながら、ナギは自分達が作り上げた世界を、絶対的な高みから見下ろし続けるのだった。
ホーリ達がそれと出会ったのは、先程の会話を終えて二時間ほど経ち、もうそろそろ山道北ルートを ボス部屋以外すべて踏破するだろう、と思い始めた頃であった。
アヤが地図を購入していなければ、ここまで順調に探索はできていなかっただろう。
さすがに新規プレイヤー向けに設定されているダンジョンだけあり、二時間も歩けば踏破はできる程度の広さのようだ。
「キシャアアアアアアァァァァァァ……」
「「ッ!?」」
それをみた二人は、思わず、『あ……詰んだかも』と心の中でシンクロしたくらいである。
チュートリアルステージといってもいい山道北ルートで、よもやこのようなエネミーが出てくるなど思ってもいなかった。
ホーリとアヤが見たそれは――全長10m、太さ50cmくらいはありそうな、大蛇であった。
この二時間の間でホーリの武術ガイドラインはさらに3レベル上昇し、常時発動系スキルの『看破』で、注視した胴体オブジェクトのLPパーセンテージが表示されるようになった。
だが――目の前の敵はLPが異常であることに、ホーリは気づかざるを得なかった。
――★ヒュージサーペント:LP350%/100%×3.5
つまり、このエリアの一般エネミーの三倍はLPがある、と見てとれる。
名前の前についている★は、このエネミーが、通常のエネミーと比べて遥かに遭遇率が低く、かつ強いエネミーである『レアエネミー』である証拠。
「確か、こいつはレアエネミーってやつでいいんだよな?」
「……あ、う、うん……。たぶん、ラック判定に引っ掛かったんだと思う。LUC値が低いと、そのエリアの条件付きエネミーの中でも一番厄介な、レアエネミーにエンカウントする可能性が高くなるから……」
「LUC……あ、俺初期値のまんまだったっけ……」
どうやら原因は自分にあるらしい、と若干うなだれながらも、ホーリは敵と向き合った。そして、妹から正式スタート前に聞いていた情報の中で、レアエネミーにまつわる情報を引き出した。
「…………ボスエネミーより強いエネミー、か」
レアエネミー。βテスターの間では、手にはいる素材は貴重だが、出会わない方が得策、というタイプの災害的なエネミーらしい。珍しい、とはよくいったもので、一般的なゲームであれば出会えば幸運な、一攫千金の敵なのだが――このゲームではそれとほど遠いい不運の象徴だ。その証拠に、強さはそのエリアのボスの2倍以上とかなり強く、その倍率はLPパーセンテージによって記されている。
ヒュージサーペントは350%……つまり、ここのボスの3.5倍くらいの強さを誇る敵だ。
「……逃げよう、アヤ」
「…………無理」
「なんでだ……?」
「まずAGIが圧倒的に足りない。付近にセーフティエリアもない。ううん、あるにはあるけどあいつの向こう側だから実質ないのと同じ。で、最後にレアエネミーはセーフティポイントにこそ入ってこないけど、エリア移動は普通にするから、AGIが足りててもほかのエネミーと鉢合わせしたらそこまで。レアエネミー自体がほかのエネミーを引き寄せる働きを持つから、実質逃げるための障害物は多くなる」
ヒュージサーペントの攻撃をすれすれでかわしながらも次々とあげられる否定のための根拠に、ホーリは頭を回した。
それでは逃げることはできないではないか、と言いたくなる。というか、逃げられない。どうあがいても、これでは死に戻りだ。
「あきらめよう、お兄ちゃん。どうせ死に戻りしてもデスペナルティはないんだから」
「……はぁ。わかった。けど、ただでやられるほど俺は腑抜けてないからな」
いうが否や、ホーリは木の棒を構えた。
「もちろんだよ。『風よ、かまいたちとなりて切り刻め! エアスライス!』」
アヤもアヤで、魔法を唱える。
そして、それから一分もしないうちに、ホーリは初めて、アヤも正式版ではおそらくは初めてレアエネミーとの戦闘による死に戻りを体験した。
――ゲーム内で全プレイヤー中初めてレアエネミーと出会いました。限定称号『不幸者』を得ました。ゲーム内で全プレイヤー中初めてレアモンスターとの戦いで死亡しました。限定称号『半英雄』を得ました。
二人の耳に最後に入ってきたのは、そんな機械音声だった。
「……。戻って、来たのか」
「……そうみたい。……称号、もらっちゃったね」
「ああ」
(不幸者に、半英雄、ね。後者はともかく、前者はなぁ)
ホーリはその称号の名前に苦笑する。不幸者、とは言いえて妙だ。確かにラック値は初期値だが、どうもそれだけとはいいがたい悪意を感じる。リアルラック値のことも言われている気がしてならない。
もっとも、ホーリ自身は自分が幸せか、と言われればあまりよくわからないとしか答えようがないくらい、リアルラックについては無頓着なのだが。
「称号って、何か効果あるのか?」
「うん。主に能力値に。特殊効果があるやつもあるんじゃないかなぁ」
「げっ」
能力値、と聞いてホーリが顔を青くする。
なにしろ、名前が名前なだけに、効果もわかりやすそうな感じがするからだ。
ホーリは早速、トップメニューからステータスを選び、称号を確認した。
称号
不幸者
なにかと運に恵まれない不幸者。行く先々で災厄に振り回される因子を持つが、同時に『この称号を持っているとありとあらゆる因子によるLUCの減少がなくなる』(この称号を持つこと自体が、この上なく不幸であることの証明因子なのだから)
半英雄
尋常ではないほどの強敵に遭遇した経験のあるもの。将来、英雄になる……かも。
『戦闘を行わないでいると、LPとMPが10秒につき0.1%回復する。』強敵と出会ったことによる教訓から警戒心が上がり、相手をよく観察する行為に磨きがかかる。これにより、『注視したNPCの簡易ステータスが表示されるようになる』
「あれ? 思ったほど悪くない?」
「え? あ、本当……。不幸者なんて、絶対LUCが減少するかと思ったのに、まさか減少防止だなんてね」
アヤがおかしそうにコロコロと笑うのを横目に、ホーリはどんどん自身のステータスが普通のプレイヤーと逸脱したものになっていくのを実感していた。
最初の詰め合わせの内容に始まり、昨日入手した植物の知識と植物採集技能。そして、今日新たに手に入れた、称号。
そのどれもが、おそらくは普通にプレイしていては目にかかれないものだろう。
「……改めてみるとこれ、すごいんだろうな」
「どれどれ……うん、確かにすごいね」
ホーリの言葉を聞き、アヤがホーリのステータスを覗けば、なるほど、確かにありえないステータスだとうなずく。そして両者は、そのステータスの上昇のバランス性にも舌を巻く。
暇さえあればスキルでキュアリージュースを作っていたために、製作スキルが2レベル上昇。これで製作スキルはレベル4に上昇した。それに応じ、INT値も相応に上がっている。
対するは戦闘系のステータス。ホーリの持つ戦闘系ガイドラインは武術のみ。まぁ、基本的にプレイヤーが持つ武器系のガイドラインは一つから二つ、二つでも『○○術』+『○○捌き』の組み合わせで、実質二つで一つ分になる。よって、ホーリのSTRやDEF、AGI値は平均的、と言える程度だ。おしむらくは、武術ガイドラインは搦め手重視ゆえに、その重きをSTRではなくAGIにおいていることだろう。いわゆる、火力が不足しがちというやつである。
「しっかし……知識系がこんなにも高いなんて……これ、魔法職になったら一騎当千じゃない」
「はは、かもな」
魔法は術者のINTの高さに応じた威力になる。そして今のホーリの知識量は32。魔法薬の作成により、材料集めと製作時に植物の知識と魔法薬の知識に経験値が入るため、キュアリージュースでそれらのレベルアップを図っていたホーリのそれらは植物の知識が2レベル、魔法薬の知識が1レベル上がり、INTが35に到達していた。
アヤが2レベル上がっていたが、今のホーリのINTはアヤのレベル8時点でのそれをすでに超えている。ということは、ホーリがレベル10になるころには、基礎値とガイドライン補正を合わせると40を超えようという高さだ。
ちなみに現在のアヤのINT値が、ちょうど40である。
改めて確認したINTの高さに、ホーリは魔法職でないのにINTが高くてもなぁ、とため息をつき、アヤはアヤで魔法職としてのメンツがないと心中で嘆きながら、こちらもまたため息をつくのであった。
そのあとは、そろそろ次のステージ、真ん中の山道に挑戦しようという話になった。
時刻はもうそろそろ18時半になろうかというところ。
それを確認したホーリ達は、山道に行くのは食後にし、まずは風呂と食事を済ませようという結論に至り、いったんゲームからウェイクアップすることにした。
山道中央ルート。ここに挑む行為こそが、本格的なゲームスタートというやつだろう。
山道北ルートより強い敵が出現し、ボスも比べ物にならないほど強い。それに相応し、取得できるアイテムも良質のものとなり、ドロップアイテムもランクが数段上昇する。
風呂と夕食を終えたホーリとアヤはヴェンディルで落ち合うと、早速ここへ向かった。
暗視魔法薬を飲み、暗闇対策は万全にする。
そして、山道の入り口にたどり着くと、二人はその覚悟を確認しあうかのようにうなずきあい、山道に入った。
山道は、静かだった。それもそうだろう。今はチュートリアル的なエリアである山道北や、そこより若干レベルが上、という程度の湖の方に殺到しているのだから。
山道北の完全攻略を途絶し、そのまま中央ルートへ行こうとしているプレイヤーは、ほんのわずかしかいない。
「……お兄ちゃん、回復アイテムは大丈夫だったよね?」
「あぁ。さっき確認したけど、風呂入る前までに作ったキュアリージュースが15個ある」
「なら、大丈夫かもね。……正規版になって、お兄ちゃんの攻略状況聞いたけど、街であんなに変わってる部分があったんだもん。北ルートに変更点がないからって、ここでも変更点がないとも限らない。……気を引き締めよう」
「わかった」
ホーリはアヤのいつにない真剣な表情を見て、自身もまた表情を引き締める。
行程は慎重に、そしてゆっくりと。時々立ち止まり、どのような植物を採集できるのかという情報を確認しつつ、そして入手したアイテムから実験的に調合をする。
そんな感じの行程だ。
この山道で手に入るアイテムは、『カミナ』『マンドラゴラ』『アルラウネ』『快癒草』『呪詛草』の五つが主なアイテムだった。そのほかは、たまに薬草や毒草が手に入る程度だ。
カミナはキュアリーを若干強力にしたアイテムで、快癒草と合わせることでLPを250、MPを30回復する『カミナジュース』になる。これは料理としてだけのアイテムは存在せず、MPを込めないと『カミナ果汁と快癒草の混合物』という仕掛中アイテムとなり、このことからカミナは現状において、完全に魔法薬専用のアイテムということがわかる。
――ちなみに仕掛中アイテムとは、アイテム生産において中途半端な段階で中断され、なおかつ素材や半製作済アイテムというジャンルとしてシステム的に認められているアイテムのことである。今回の例は前者の、素材アイテムの方に当てはまり、料理としてのキュアリージュースの場合、これは厳密には半製作済アイテムというジャンルに含まれることがわかっている――。
そして意外だったのは、創作物においてマンドラゴラの亜種としてよく扱われるアルラウネが、マンドラゴラが有毒だったのに対し、全くの無毒であったこと、むしろ料理と魔法回復薬の素材となる有用な霊草だったことだろう。
「……なんか、意外だったな」
「あぁ、アルラウネ、ね。私も、それ初めて見たときは大笑いした」
ホーリが今見ているウインドウには、それの解説が書かれていた。
『アルラウネ アブラナ科ダイコン属
人型の白く太い根を持つ、アブラナ科の植物。全体的に料理や魔法薬の素材として役立つ。』
そう。アブラナ科ダイコン属なのだ。マンドラゴラと同じナス科、ではなく、あの『大根』と同じ『アブラナ科』なのだ。それも、ダイコン属ということは大根の仲間、ということでもある。
これを見たホーリは最初、腹を抱えてその場に倒れこみそうになった。
なにしろ、ほぼすべての創作物において、マンドラゴラとアルラウネは同種なのだ。なのに、いざこのゲームで引き抜けば、マンドラゴラはナス科マンドラゴラ科の有毒植物。対するはアルラウネ、アブラナ科ダイコン属。マンドラゴラが至極不遇すぎるだろう。
「ま、まぁ……有用なアイテムならウエルカムだけどさ」
まだアルラウネを使用した魔法薬調合を試していないためにどのような効果なのかは不明だが、料理に役立つ、というところから、魔法薬にするにしても、自身に使って不利になるような効果ではあるまい、と根拠のない推測をするホーリ。
そして、そんなホーリを見て、アヤは苦笑する。アヤはβテスター。ゆえに、そのアイテムがどのような魔法薬になるのかを、知っているからだろう。
そう遠くない未来、その魔法薬を作ることに成功したホーリはしかし、労力に見合わない効力に肩を落とすことになるが、それは別の話である。
ホーリ達がそんな感じ山道中央ルートを歩いていると、不意に山道が途切れた。いや、正確には途切れているのではなく、山道の行き先が洞窟になっている、といったところか。
「……おかしいな。βの時は洞窟なんてなかったよ?」
「……道、間違えたのか?」
「ううん。中央ルートは確かに、道は一本道だった」
「どういう、ことだ?」
アヤからもたらされた情報。βテストのときと明らかに違うマップ。そこには確かに、βテストと正規版との違いが表れていた。すなわち――
「ち、ちょっと!」
「大丈夫だって。……ふーん、アヤ。どうやら相違点が見つかった。この山道、途中から洞窟に入るっぽいぞ」
「えぇ!?」
β版の知識が通用しないマップ構成になっている、という破格の相違点が、そこにはあった。
「……どういう、こと……?」
「とにかく行くぞ?」
「う、うん……」
β版のマップを知っていて、あまりにもその時と違うマップになっていることに、アヤは戸惑いを隠せずにはいられなかった。
その光景を、ナギは遥かなシステムの高みから、含みのある笑いを浮かべながら、虚空のモニターを通してみていた。
「ふふ。それはそうでしょ。β版の人だけどんどん先に行っては新参者達にとっては不公平じゃない。β版テストプレイヤーに対してはちょっと心苦しいんだけどね」
まぁ、マップの変形とセーフティポイントの増設以外はしていないから、そう苦労はしないだろう。彼らには、もう少し苦しんでもらう。そう思いながらも、ナギはモニターを操作し、今度は山道北ルートの状況を見始めた。
画面の中では、あと一歩というところでボスエネミーに倒されるプレイヤーたちが映っていた。
――あのボスエネミーも、実は攻撃パターンこそ増やしているが、全体的には弱くしている。
そのことに誰も気づくことはないくらい、絶妙なバランスで行われていることだ。ナギがそれを語らないのは、単純に語るのが面倒くさいからという理由だけなのだが、そう。確かに、全体的に見れば倒しやすくしてあるはずなのだ。
それでも苦戦するのはやはり、市場に出回っているほかのRPGのパターンから抜け切れていないからか。単純に、脳筋や知能オンリーなプレイだけではこのゲームは生き残れない。それに気付かないプレイヤーたちが悪い。
ヒントは公式HPに載せてあるのだから、語る必要はなく、語ったところで手間がかかるだけ。もとよりナギは、興味を持ったことか、必要性を感じたことしか丁寧に対応しない性格なのだ。
再びモニターを操作するナギ。
モニターに映し出されたのは、またもホーリ達だ。だが、それだけではない。
新たに表示されたモニターには、ホーリ達のかなり先を歩いている女性PC――レーリリアの姿が映し出されていた。
「……さて、聖也、彩希。あなたたちは二着よ。せいぜい一着の子に追いつけるように頑張りなさい」
レーリリアを映し出したモニターを、ナギは一瞥する。モニターの中で、レーリリアはソロでありながら、エリアボスと対等に渡り合っていた。
この三十分後。レーリリアはあと一息というところで撤退を選び、偶然にもホーリ達と合流することになる。




